墓地にて
数日後、カイルがアンナさんの墓の場所を調べてきた。
王城の裏手、丘の上にある関係者の墓地だった。代々の家臣や、王家に仕えた者たちが眠る場所だった。
「兄がいつ墓参りに来るかまでは、わかりません」とカイルは言った。「でも——アンナの命日が近いのです。来月の初め」
「命日」
「もし兄が今でも、心のどこかでアンナを思っているなら。——その日に来るかもしれない」
◆
でも私は、その日を待つ前に一度、自分で墓を見てみたいと思った。
ある晴れた日の午後、私は一人でその墓地を訪れた。
カイルは公務があった。フェンは留守番だった。
でも——一人で行きたかった。アンナさんに、まず挨拶をしたかったから。
◆
丘の上の墓地は静かだった。
春の花があちこちに咲いていた。手入れの行き届いた、穏やかな場所だった。
アンナさんの墓は、すぐに見つかった。
小さいが、丁寧に磨かれた墓石だった。
そして——その前に、新しい花が供えられていた。
◆
私ははっとした。
まだ新しい花だった。
昨日か今日か。誰かが最近、ここに来たようだった。
命日は、まだ先のはずだった。それなのに——誰かが花を。
心臓が静かに高鳴った。
◆
その時。
背後から声がした。
「……これは、これは。エリーゼ妃」
振り返ると——アルヴィン殿下が立っていた。
いつもの穏やかな微笑みを浮かべて。でも、その手には——花を持っていた。
◆
「アルヴィン殿下」
「奇遇ですね。あなたがこんな場所に」
でも、私にはわかった。
この花は——アルヴィン殿下が供えたものだ。命日でもないのに、彼はここに来ている。
フェンの言葉が頭をよぎった。
もし今でも一人で墓に通っているなら——あの男の心は、まだ死んでいない。
◆
「……アンナさんのお墓ですね」と私は静かに言った。
アルヴィン殿下の微笑みが——一瞬、止まった。
ほんのわずかに。でも、確かに。
仮面がずれた瞬間だった。
「……なぜその名を」
◆
「カイルから聞きました」と私は言った。「あなたを可愛がってくださった、乳母の方だと」
アルヴィン殿下は、しばらく黙っていた。
それから、ゆっくりと墓石に近づいて、持っていた花を供えた。
その仕草は——いつもの計算された動きとは違った。
ただ、静かで自然な仕草だった。
◆
「……昔の話です」と彼は言った。
「昔の話でも」と私は言った。「花を供えに来られる。それは——大切な方だった、ということですね」
アルヴィン殿下が私を見た。
その目には、いつもの読めない色は——なかった。
ただ、静かな悲しみがあった。
◆
「エリーゼ妃」と彼は言った。「あなたは何をしに、ここへ?」
「……本当のことを言ってもいいですか」
「どうぞ」
「あなたのことを知りたくて、来ました」と私は言った。「あなたが、なぜ心をしまい込んだのか。——その理由を」
◆
アルヴィン殿下が、しばらく私を見つめていた。
風が墓地の花を揺らした。
「……面白い人だ」と彼は、ぽつりと言った。
でも、その「面白い」には——いつもの皮肉の響きがなかった。
「たいていの人は、わたしの仮面を見て満足する。誰も、その奥を見ようとはしない。——あなたは違う」
◆
「私も、心をしまい込んでいた時期があります」と私は言った。
「あなたが?」
「七年間。私の心は凍っていました。涙も出ませんでした」と私は言った。「だから——わかるのです。心をしまい込んだ人の目が」
アルヴィン殿下の表情が、わずかに動いた。
◆
「……あなたは、それをどうやって溶かしたのですか」
その問いは——本物だった。
仮面の奥から絞り出された、本物の問いだった。
私はゆっくりと答えた。
「誰かが手を、伸ばしてくれたからです」
◆
「手を?」
「フェンが。カイルが。弟子のナーシャが。——みんなが、凍った私に手を伸ばしてくれました」と私は言った。「一人では溶けませんでした。でも——誰かが隣にいてくれたから、少しずつ溶けました」
アルヴィン殿下が墓石を見た。
アンナさんの墓を。
◆
「……わたしには」と彼は小さく言った。「もう、手を伸ばしてくれる人はいません」
「いますよ」と私は即座に言った。
アルヴィン殿下が私を見た。
「カイルがいます」と私は言った。「あの人は今でも——昔のお兄様が戻ってくるのを待っています」
◆
アルヴィン殿下の顔が——歪んだ。
ほんの一瞬。
でも、それは確かに——長い間しまい込まれていた何かが、漏れ出した瞬間だった。
「……カイルが」
「はい。あの人はあなたを見捨てていません。ずっと見ていました。——変わっていくあなたを、悲しみながら」
◆
アルヴィン殿下は何も言わなかった。
ただ、墓石の前で立ち尽くしていた。
いつもの完璧な王太子の姿は——そこになかった。
ただ、大切な人を失って立ち直れずにいる、一人の人間が——そこにいた。
◆
私は、それ以上何も言わなかった。
今日はここまででいい、と思った。
無理にこじ開けるものではない。ただ、扉の存在を伝えられれば。鍵は、まだ見つかっていなくても。
「……失礼します」と私は礼をした。
「エリーゼ妃」とアルヴィン殿下が呼び止めた。
◆
「はい」
彼はしばらく迷っていた。
それから、小さな声で言った。
「……今日のことは、カイルにはまだ言わないでください」
「わかりました」
「それと——」と彼は、ためらいがちに続けた。
「また来てもいいか、と。——アンナの墓に誰かが来るのは、久しぶりなので」
◆
私は驚いた。
それは——アルヴィン殿下が初めて見せた、人間らしい願いだった。
「もちろんです」と私は言った。「いつでも」
アルヴィン殿下が、ほんの少し頷いた。
その横顔に——ほんの一瞬だけ、あの庭を駆け回っていた少年の面影が見えた気がした。
春の風が、墓地の花を優しく揺らしていた。
しまい込まれた扉に——小さな隙間ができた瞬間だった。
(第111話へ続く)




