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墓地にて

 数日後、カイルがアンナさんの墓の場所を調べてきた。


 王城の裏手、丘の上にある関係者の墓地だった。代々の家臣や、王家に仕えた者たちが眠る場所だった。


「兄がいつ墓参りに来るかまでは、わかりません」とカイルは言った。「でも——アンナの命日が近いのです。来月の初め」


「命日」


「もし兄が今でも、心のどこかでアンナを思っているなら。——その日に来るかもしれない」



 でも私は、その日を待つ前に一度、自分で墓を見てみたいと思った。


 ある晴れた日の午後、私は一人でその墓地を訪れた。


 カイルは公務があった。フェンは留守番だった。


 でも——一人で行きたかった。アンナさんに、まず挨拶をしたかったから。



 丘の上の墓地は静かだった。


 春の花があちこちに咲いていた。手入れの行き届いた、穏やかな場所だった。


 アンナさんの墓は、すぐに見つかった。


 小さいが、丁寧に磨かれた墓石だった。


 そして——その前に、新しい花が供えられていた。



 私ははっとした。


 まだ新しい花だった。


 昨日か今日か。誰かが最近、ここに来たようだった。


 命日は、まだ先のはずだった。それなのに——誰かが花を。


 心臓が静かに高鳴った。



 その時。


 背後から声がした。


「……これは、これは。エリーゼ妃」


 振り返ると——アルヴィン殿下が立っていた。


 いつもの穏やかな微笑みを浮かべて。でも、その手には——花を持っていた。



「アルヴィン殿下」


「奇遇ですね。あなたがこんな場所に」


 でも、私にはわかった。


 この花は——アルヴィン殿下が供えたものだ。命日でもないのに、彼はここに来ている。


 フェンの言葉が頭をよぎった。


 もし今でも一人で墓に通っているなら——あの男の心は、まだ死んでいない。



「……アンナさんのお墓ですね」と私は静かに言った。


 アルヴィン殿下の微笑みが——一瞬、止まった。


 ほんのわずかに。でも、確かに。


 仮面がずれた瞬間だった。


「……なぜその名を」



「カイルから聞きました」と私は言った。「あなたを可愛がってくださった、乳母の方だと」


 アルヴィン殿下は、しばらく黙っていた。


 それから、ゆっくりと墓石に近づいて、持っていた花を供えた。


 その仕草は——いつもの計算された動きとは違った。


 ただ、静かで自然な仕草だった。



「……昔の話です」と彼は言った。


「昔の話でも」と私は言った。「花を供えに来られる。それは——大切な方だった、ということですね」


 アルヴィン殿下が私を見た。


 その目には、いつもの読めない色は——なかった。


 ただ、静かな悲しみがあった。



「エリーゼ妃」と彼は言った。「あなたは何をしに、ここへ?」


「……本当のことを言ってもいいですか」


「どうぞ」


「あなたのことを知りたくて、来ました」と私は言った。「あなたが、なぜ心をしまい込んだのか。——その理由を」



 アルヴィン殿下が、しばらく私を見つめていた。


 風が墓地の花を揺らした。


「……面白い人だ」と彼は、ぽつりと言った。


 でも、その「面白い」には——いつもの皮肉の響きがなかった。


「たいていの人は、わたしの仮面を見て満足する。誰も、その奥を見ようとはしない。——あなたは違う」



「私も、心をしまい込んでいた時期があります」と私は言った。


「あなたが?」


「七年間。私の心は凍っていました。涙も出ませんでした」と私は言った。「だから——わかるのです。心をしまい込んだ人の目が」


 アルヴィン殿下の表情が、わずかに動いた。



「……あなたは、それをどうやって溶かしたのですか」


 その問いは——本物だった。


 仮面の奥から絞り出された、本物の問いだった。


 私はゆっくりと答えた。


「誰かが手を、伸ばしてくれたからです」



「手を?」


「フェンが。カイルが。弟子のナーシャが。——みんなが、凍った私に手を伸ばしてくれました」と私は言った。「一人では溶けませんでした。でも——誰かが隣にいてくれたから、少しずつ溶けました」


 アルヴィン殿下が墓石を見た。


 アンナさんの墓を。



「……わたしには」と彼は小さく言った。「もう、手を伸ばしてくれる人はいません」


「いますよ」と私は即座に言った。


 アルヴィン殿下が私を見た。


「カイルがいます」と私は言った。「あの人は今でも——昔のお兄様が戻ってくるのを待っています」



 アルヴィン殿下の顔が——歪んだ。


 ほんの一瞬。


 でも、それは確かに——長い間しまい込まれていた何かが、漏れ出した瞬間だった。


「……カイルが」


「はい。あの人はあなたを見捨てていません。ずっと見ていました。——変わっていくあなたを、悲しみながら」



 アルヴィン殿下は何も言わなかった。


 ただ、墓石の前で立ち尽くしていた。


 いつもの完璧な王太子の姿は——そこになかった。


 ただ、大切な人を失って立ち直れずにいる、一人の人間が——そこにいた。



 私は、それ以上何も言わなかった。


 今日はここまででいい、と思った。


 無理にこじ開けるものではない。ただ、扉の存在を伝えられれば。鍵は、まだ見つかっていなくても。


「……失礼します」と私は礼をした。


「エリーゼ妃」とアルヴィン殿下が呼び止めた。



「はい」


 彼はしばらく迷っていた。


 それから、小さな声で言った。


「……今日のことは、カイルにはまだ言わないでください」


「わかりました」


「それと——」と彼は、ためらいがちに続けた。


「また来てもいいか、と。——アンナの墓に誰かが来るのは、久しぶりなので」



 私は驚いた。


 それは——アルヴィン殿下が初めて見せた、人間らしい願いだった。


「もちろんです」と私は言った。「いつでも」


 アルヴィン殿下が、ほんの少し頷いた。


 その横顔に——ほんの一瞬だけ、あの庭を駆け回っていた少年の面影が見えた気がした。


 春の風が、墓地の花を優しく揺らしていた。


 しまい込まれた扉に——小さな隙間ができた瞬間だった。


(第111話へ続く)

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