転生記録26
「てやっ!!」
ミノタウロスの振り下ろしてきた斧を渾身の一撃で横に反らした。
「あのミノタウロスの攻撃を反らした?」
利理は目の前の強敵の攻撃を横に反らしたことに驚きを隠せない。
そんな利理に対して剣人は叫び声を上げた。
「よし、もう一回俺があいつの攻撃を受け止めるからその隙にもう一度攻撃をしてくれ!」
「・・・・できない。今の私じゃあ・・・・。」
「そんなにすぐ諦める人じゃないだろ!」
剣人は剣を左利き持ちで構えるとミノタウロスの斧の攻撃を受け止める。
「だああああ!!」
「受け止めれてる?一体なんで・・・・」
剣人の方をじっと見ていると利理はハッと気づいた。
「あの剣の位置と向き。もしかして剣にかかる負荷を最小限に抑えつつ斧の力を最大限に止められるように構えているというの?そんなことが可能だというの?」
利理が戸惑いながら剣人の方を見ているとマーリが横から話しかけてきた。
「ケントはね、誰かのために戦っているとき、誰かの力になりたいときに、想像を絶する力を発揮するの。まだケントと出会ってそんなに長くは経っていないけど、初めてケントと出会ったときからわかってた。ケントはそんな人間なんだって。」
「・・・・。」
利理はマーリの言ったことを黙って聞いていた。そして静かに口を開いた。
「あの剣人ってやつも日本から来た人間だったよね。」
「え、うん、確か。」
「私は向こうの人間はみんな嫌な奴だって思ってた。誰も他人に優しくせず、私に居場所なんてなく。」
「・・・・。」
「こっちの世界に初めて来たときに、私は人の優しさ、温かさを知ったの。それで向こうの人間は嫌な奴で、こっちの人間はみんな良い人で私の居場所はここなんだって。」
「・・・・。」
「だから私のすぐそこにまで日本人がやってきたって知ったときにすごく吐き気がした。ようやく見つけた居場所が奪われるって。・・・・でもあいつは私が死なないように、苦しまないように戦ってくれている。」
「それはきっと、向こうで優しい人に出会えなかっただけだと思うよ。」
「・・・・え?」
「私もね、学校に通っていたときはみんながみんな私のことを落ちこぼれだ出来損ないだって罵ってきてたから思っていたんだ。私の周りには優しい人がいないんだって。」
「・・・・。」
「でも私はケントと出会うことができた。その時に私はどっちの世界がどうとかなんて思わなかったんだ。ただようやく私と手を取り合ってくれる人と出会えたんだって。」
「・・・・向こうの人間が優しくて・・・・こっちの人間が優しくない・・・・」
利理が呟いたのを聞いてマーリは頷いて答えた。
「うん、私の場合はね。だから来た世界がどこだろうとその人のことを決めつけないでほしい。」
「ぐあああ!」
ドーン!
ミノタウロスに吹き飛ばされた剣人が地面に激突してきた。
「あの、俺さっきからずっと耐えていたんですけど・・・・。会話は終わりましたか?」
そんな剣人を見て利理は言った。
「はあ、あんたは場の空気が読めないみたいね。」
「・・・・え?」
「・・・・あのミノタウロスをみんな無事のまま倒したい。協力してくれないかしら?」
利理の質問に剣人は強く頷いた。
「もちろんだ!・・・・よし、もう一回攻撃を受け止める。」
「グオオオ!!」
ミノタウロスが再び斧を振り下ろしてくる。
「グラウンド・ショックを使う気か!させるか!」
剣人は勢い良く飛び出すと振り下ろされた斧に剣を当てた。
ガキィーン!
金属と金属が強くぶつかる音が鳴り響いて剣と斧の迫り合いが起こる。
「今だ!」
「はあっ!」
利理は駆け出すとミノタウロスの右腕へとジャンプした。
「遠距離のスキルで切り裂くことができないなら、至近距離で叩き斬ってやる!たああっ!」
利理の剣がミノタウロスの腕へと当てられる。しかし、ミノタウロスの硬い腕を切り裂くことができない。
「くっ、硬い・・・・。これが地豪牛・ミノタウロスの強度なの?」
「ぐああ!お、重い・・・・。」
二人の体力にも限界が来始めた。このまま耐久戦になれば確実にこっちが不利だと剣人が思っていると、利理が突如叫んだ。
「今よ!」
「オッケー。いくよー。」
マーリがそれに応えたかと思うと勢い良く駆け出し、剣人が抑えている斧を思い切り横から叩いた。
「グオッ!」
腕に全体重を掛けていたミノタウロスはそれを思い切り横から叩かれたことによってバランスを崩してしまう。ミノタウロスはかなりの体重があるとはいえ、回復属性魔術師の杖で強化された打撃を受けてバランスを保つことができなかった。
「剣人、今よ!一人で斬れないなら二人で斬り割けば・・・・」
「わかった!はああ!」
剣人と利理は二人で息を合わせてミノタウロスの胴体に剣を押し当てた。さすがに二人分の斬撃に耐えきれなかったミノタウロスの皮膚は切り裂かれ、内臓を切られて絶命してしまう。
「グオオオオォ!・・・・」
ドシーン
「はあ、はあ。・・・・か、勝てた。」
「みんなで無事に倒すことができたね。やったあ!」
剣人が一息つき、マーリが喜んでいるところに利理が話しかける。
「さあ、宿屋の娘さんを送り届けましょっか。」
無事に宿屋の娘さんを送り届けてお礼をされたところで三人は落ち着いて話し合うことができた。
「そっか、やっぱり帰る方法は分からないか・・・・。」
「ええ、私は帰ろうとも思わなかったしね。」
「また、一人旅続けるんですか?」
「・・・・それが今の私の生き方だからね。」
剣人はせっかく会うことのできた利理と別れてしまうのは寂しく感じ、ある決心をして話しかけた。
「あの、谷口さん。」
「・・・・利理って呼んで。ここまで親しくなった人たちにその名字で呼ばれたくはないの。」
「あ、じゃあ利理さん。良かったら俺たちのパーティ、入りませんか?」
それを聞いたマーリが二人の間に飛び込んできた。
「あ、それいいね。せっかくここまで話せる仲になったんだし。」
「・・・・でも仮にパーティに入ったとしても私は一人旅、続けるわよ。いいの?」
それを聞いて剣人は迷ってしまう。パーティにメンバー登録ができても遠くに行ってしまったら会うことが出来なくなるかもしれない。
「・・・・じゃあ結局会えなくなってしまうのか。」
「そこは大丈夫だよ。パーティになったらとーっても便利な"念話"って機能があるから。」
「念話?」
剣人と利理は二人同時にマーリに聞き返す。
「遠く離れた相手に念じることで感覚を送ることが出来るんだ。例えばここに来てほしいなって念じればここに来てほしいと思っているっていう感覚が相手に伝わるんだ。言葉は送れないから口調とか物語とかは上手く伝えれないんだけどね。パーティ登録すれば使えるようになるよ。」
「待って、そんなことパーティ作ったときに聞かされてないんだけど。」
「・・・・てへっ♡」
「・・・・おい。まあこれでパーティになりさえすればいつでも会えるわけか。」
「わかったわ。それであなた達のパーティの名前は何ていうの?」
利理が問うとマーリが勢い良く答える。
「天使と剣術者だよ。」
「・・・・ダサい。」
「・・・・え~。」
「せめてつけるなら"エンジェル&ソード"とかの方が良かったんじゃないの?」
「あっそれ良いかも。」
「はい、俺も異論はないです。」
全員の意見がまとまったところでマーリが叫んだ。
「それじゃあ、今からエンジェル&ソード、ここに正式に結成だー!」
「おー!!!」




