転生記録15
「はぁ・・・・。」
気力を失い歩き続けた剣人は隣町にある大王都第三都市に来ていた。
このままでは生活ができないので各地の求人情報などをぼんやりとみながら彷徨っていた。
「・・・・この世界の職業もあまり俺の世界と変わらないんだな・・・・。」
つい昨日までは冒険者という変わったことをしていたが他の求人情報などを見て回っていると意外にも異世界だろうと現実世界だろうとあまり変わらない職業があった。
「・・・・今度は死にそうにない仕事にしないとな・・・・。」
剣人はぼんやりとしながら呟く。
「・・・・俺、元の世界に帰れるんだろうか。」
そんなことを考えながら歩いていると剣人のお腹がグゥーと鳴った。
「・・・・昨日から何も食べてなかったな。そう言えば・・・・」
そう呟いていると隣から声をかけられる。
「お~い、兄ちゃん。そんなところでお腹空かせながらぼんやり歩いちゃって、大丈夫か?よかったらこれ、食ってけよ。」
ふと横を見るとパン屋のおじさんがパンを差し出してくれた。
「あ、ありがとうございます・・・・。」
「いいってことよ。ほら、ここに座ってゆっくり食べな。」
パン屋のおじさんのお言葉に甘えて剣人は座ってパンを食べさせてもらう。
「・・・・にしてもあんなところで死にそうな顔して歩いていてどうしたんだ?失恋でもしたのか?」
「・・・・失恋、か・・・・。」
剣人はこの世界に転移したときのことを思い出す。ああ、体育館の裏に呼び出されて転生させられたんだっけ。もはや失恋の方がマシな気がするよ。
・・・・せっかくこの世界に来てマーリと出会ったのに。・・・・一人ぼっちになっちゃったな・・・・。
そんなことを剣人が考えているとパン屋のおっちゃんは本当に失恋だと思ったらしくて
「そうか。まあ、人生辛いこともある。新しい出会いはきっとすぐにやってくるさ。」
「あの、おじさん・・・・。」
「ん?」
「もし急に呼び出されて、全く知らないところに放り出されたら・・・・、普通の人ならどうするんですかね?」
剣人はふとそんなことを質問してしまった。
「うーん、そうだな・・・・。まずは帰り道がどっちか周りに聞くんじゃないかな。」
「周りの人にも帰り道なんて分からなかったら?・・・・。」
「・・・・さあな。まずそんな事が起こらないからな。どうするんだろうな。」
・・・・そりゃ、そんなことまず起こらないよな。そりゃそうだと剣人は思い直して剣人は椅子から立ち上がった。
「ごめんなさい、変な質問をしてしまって。・・・・パン美味しかったです。ありがとうございました・・・・。」
「おう。また困ったことがあったらいつでもここに来な。」
優しいおじさんだったな。そう思いながら剣人はパン屋をあとにした。
「・・・・どうせならあのパン屋で働かせてもらえないか聞いてみればよかったな・・・・。またいつでも来ていいって言ってくれたし就職先に困ったら行ってみようかな。」
「大変~!!!」
ふと横で女性たちが叫んでいた。
「うちの子たちが山に遊びに行ったんだけど昼前には帰ってこいって言ったのに夕方になっても帰ってこなくて・・・・。」
「どうしよう。夜になったら真っ暗で危ないのに。早く探しに行ったほうがいいかしら。」
どうやら子どもたちが山に行ったっきり帰ってきていないらしい。たしかに山の方は夜になると真っ暗になってしまって下山するのもかなり危なくなる。
しかし、母親たちだけでは体力に限界があり山の奥の方を探すのは難しいだろう。
剣人は母親たちに近づいて行った。
「あの、僕も子どもたちを探すの手伝います。」
「あなたは?」
「えっと、ただの通りすがりです・・・・。」
「あなたも手伝ってくれるのね。子どもたちは四人で山に遊びに行ったのだけれど・・・・、探すのお願いしてもいい?」
「分かりました。あの山ですよね。」
剣人は近くにあった山を指差す。
「ええ。じゃあ、お願いね。」
母親たちにお願いされ剣人は勢い良く山へと駆け上がった。
「はあ。俺も切羽詰まった状況なのに人助けとは、俺も懲りないなぁ。」
そう思いつつも剣人は声を張って子どもたちを探す。
「おーい!ここで遊んでいた子どもたち!お母さんたちが心配していたぞ!おーい!」
剣人は山の奥の方へ進みながら叫ぶが子どもたちの姿は見当たらない。
十回ほど叫んだだろうか。
「助けてー!助けてー!!」
子どもたちの声が聞こえた気がした。
「あれは、子どもたちの声?でも今助けてって。」
剣人は急いで声のした方に駆け寄る。するとそこには子どもたち四人ともう一人誰かがいた。
あれは、悪魔の女の子?!!
「助けてー!」
「ふふふ、そんなに声を張り上げてもこんな山奥、誰も来ないわよ。大人しく私の餌になりなさい。」
「くそー!放せぇー!」
剣人は悪魔の子に向かって叫んだ。
「おい、お前何やってんだ!」
「ん?誰よあんた。」
「俺はその子たちを探していたんだ!その子たちから離れろ!」
剣人はそう叫ぶと悪魔の女の子は微笑みながら言った。
「嫌よ。今からこの子たち食べちゃうんだもん。・・・・それとも、貴方も私の餌になっちゃう?」
「なっ!ふざけんな!」
剣人は剣を生成すると悪魔の女の子に飛びかかる。しかし、悪魔の子は羽を使って空へと舞い上がってしまう。
「ぐっ!」
「あなた、ランク1の癖にランク3のこの私、魅惑の小悪魔・インプに勝てると思っているの?」
「インプ?」
剣人は悪魔の女の子がインプだと知った。
「たあ!」
剣人は再び剣を構えてインプに飛びかかる。
この世界ではジャンプ力は俊敏の基準値によって補正されており、元の筋力も相まってインプの高さに位はジャンプできた。
「ふーん、じゃあ見せてあげるわ。ランク1と3の決定的な差ってやつを。スキルー」
ー{ファシネイション・ミスト}ー
「ぐわっ!」
剣人はインプの放った霧をもろにくらってしまう。その時、剣人の体がふらつき始めた。
「な、なんだ?」
「ふふ、私のスキルを受けてしまったらあなたはもうまともには動けないわ。」
インプは尻尾で剣人を弾き飛ばす。
「があっ!」
剣人はそのまま吹き飛ばされて木にぶつかってしまう。
インプのスキルとダメージで今にも失神してしまいそうだった。
「お兄さん!負けないで!」
子どもたちは剣人が負けないように応援している。
「ふふふ、無駄よ。あのお兄さんがいくら頑張ったってあなたたちは私に食べられてしまうしかないの。」
「そ、そんな。」
「ふ、ふざけん、なよ・・・・。」
剣人はふらつきながらも立ち上がる。
「そ、それが、怯えている子どもたちに対して言う、年上の言葉かよ!」
剣人は剣を右利き持ちから左利き持ちに持ち変える。
「ふふ、無駄よ。あなたがいくら頑張ったからってなにも起こりはしな・・・・」
インプが話している間に剣人はものすごい勢いでインプに飛びかかる。
「なっ、馬鹿な。私のスキルをくらってそんなに早く動けるはずが・・・・。ならもう一度くらわせて二度と動けなくしてやるわ。くらいなさい。」
ー{ファシネイション・ミスト}ー
剣人は思いっきり跳び上がりファシネイション・ミストに飛び込んだ。
「なっ、私のファシネイション・ミストを突っ切った?」
「くらえ!!」
剣人は思い切り剣を振り下ろす。
「胴!!!」
インプの胴を思いっきり切り裂いた。
「なっ、馬鹿な。・・・・一撃で私を倒す・・・・なんて・・・・」
インプは地面へと落ちていった。インプが倒されてスキルが解除されたのか剣人の体が軽くなる。
「お兄ちゃん大丈夫?」
子どもたちが駆け寄ってきた。
「ああ、大丈夫だ。君たちの方こそ怪我ないか?」
「うん、大丈夫だよ。さっきのお姉さん、あの小屋から出てきたんだ。」
「小屋?」
剣人はその小屋に入り、中を探ってみた。
するとそこには気になる書物が一冊あった。
「こ、これは・・・・」
そこには過去に別の世界からこの世界に転移させる実験やその結果などのことが書かれてあった。
「・・・・そんな実験があったってことはどこかでその方法なども見つけられる?」
剣人は初めて自分が帰れるかもしれない情報の欠片を入手したのだった。
子どもたちを母親たちに引き渡し、剣人はマーリの家へと向かった。
そこには丁度外出しようとしているマーリがいた。
「あ、ケント・・・・」
マーリは剣人を見つけるとボソリと呟いた。
「お帰り、ケント・・・・今からモンスターでも狩ろうと思ってたところだったんだけど、夕食・・・・何食べたい?」
「マーリ、俺、やっぱり冒険者続けることにするよ。」
「・・・・え?」
「結局どこにいてもいつモンスターに襲われるかなんて分からないし。定職についてたらそれこそ帰る機会を見失いそうだしな。」
マーリは涙を溜めながらこちらに歩み寄ってきた。
「ケント・・・・おかえりなさい。」
小さいけどすごく心に響く声だった。




