7 ちくわともやし
私たちは、まだまだお互いのことを話していた。
体調のことが気になったけど、それよりも驚きや恥ずかしさが勝っているのか、今は具合が悪そうには見えなかった。
お互いの体勢はずっと変わらず、セイくんは寝転がりながら横を向き、私は畳に座っていた。
「魔法少女って、本当に少女だけなんだと思ってた」
「昔はちゃんとそうだったらしいんだけど、今人手不足でさ、辞めさせてくれないんだ。それにもう一つ理由がある」
私が辞められない理由。
「なに?」
「魔法のステッキを壊しちゃったんだ」
そう…あれはステッキが新調された1週間後のことだった。
私は空中戦をしていて、うっかり手を滑らせてステッキを落としてしまった。地面に叩きつけられたステッキは、見るも無惨な姿に変わり果てた。
私はその話をセイくんにした。
「それで?」
「それで、攻撃されて壊れたんじゃないからって、開発費の何割かを、今給料から天引きされてるの」
「結構なブラックだな」
「でしょ?だから辞められないんだぁ」
「しかも給料とかあるんだ。まぁ、タダでこんなことできないもんね」
私はキッチンへ行き、二つのコップに緑茶を注いだあと部屋に戻り、その内のひとつをセイくんに手渡した。
それからはセイくんのターンになった。
セイくんが辞められない理由は、借金だった。
お父さんの工場が経営危機に陥り、悪の組織からお金を借りてしまったらしい。だけど結局、工場は潰れ、借金だけが残ってしまった。
そんな時、当時18歳だった彼が悪の組織で働いて借金を返せとボスに言われ、仕方なくやっていたそうだ。
「…セイくんって今何歳?」
「27」
9年もイヤイヤ悪役をやってたのか…
「痛いだろ?27歳の男がさ、あんな仮面つけて、黒いマント羽織って世界征服って」
うん。かなり痛い。
「それは私だって同じだよ。この前25歳になってさ、それでも“ティンクル・ハート”とか言っちゃってんだよ?」
「ははっ。おもしろっ」
「もう…」
「変身する時の言葉とかってあるの?」
「あるよ。ティンクルプリズム、ラリルリカ」
「あははっ。じゃあいつもそれ言ってから来てたんだ?」
恥ずかしかったけど、セイくんが楽しそうにしている姿を見て、私は嬉しかった。
「具合は?昨日熱があったみたいだけど」
私はそう言いながら、彼のおでこに右手を触れた。
熱いじゃん。
「そういえばだるいかも」
「だったらしばらくここにいな?」
「いいの?」
帰れだなんて言えないよ。
それに本音を言えば、まだ一緒にいたかった。
私はセイくんに食欲があるから聞いてみると、「お腹空いた」と言っていたから、キッチンへと向かい、うどんを作った。
「はい。これ食べて。具が少なくてごめんね」
「いいよいいよ。すっげー嬉しい」
セイくんはベッドから下り、テーブルに置かれたうどんを勢いよく食べていた。熱出てるのに食欲あるのはいいことだ。きっとすぐに治るだろう。
食べ終わったのを確認すると、私は家に常備していた風邪薬を飲んでもらった。セイくんはそのあと、すぐに眠りについた。
それにしても借金っていくらくらいあるんだろう…9年働いても完済できないって…
そもそも悪の組織は大きいのだろうか。
他にも疑問はあった。
魔力を解放できるのは13〜15歳までの少女だけだってこと。なのにダーク・ロウは空を飛び、怪獣を操る。だから私はダーク・ロウを怪人だと思っていた。
なのに…
まさか雇われ悪役だったとは…
あんだけダーク・ロウの口調を恥ずかしがっていたんだから、私のように言わされていたのかもしれない。
私はシャワーを浴びながら、そんなことを考えていた。
今日はバイトはなし。
ダーク・ロウがこの家にいるんだから、魔法少女の出動もなし。
10年ぶりに何も考えずに過ごせそうだな。
シャワーを終えると、髪を乾かし、私は畳の上で雑魚寝した。
…ん…
キッチンの方で物音がする。
窓からは夕陽が差し込んでいた。
あー…結構寝ちゃったな。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
セイくんがキッチンから話しかけてきた。
さっきからキッチンだなんだと言っているけど、この部屋を出ると、すぐにキッチンはある。廊下と言うのが忍びないほどの短い廊下に、キッチンはある。
「ううん。寝過ぎちゃった」
「勝手にキッチン借りちゃった。今ご飯作ってるから」
「…具合は?」
「なんか平気っぽい」
確かに…さっきキッチンから覗き込んできたセイくんの顔色は、ここへ来た時より良くなっていた。
「さっきスーパー行ってさ、ちょっと食材買ってきたんだ。ちくわとか、もやしとかの安いものだけなんだけど」
共感しすぎる。
もはや好き。
「セイくん」
「んー?」
鍋を揺らす、ガチャガチャとした音が聞こえてきた。カレーの匂いも鼻に届く。カレー味の炒め物かなんかなのかな?
「私たち、付き合わない?」
私がそう言うと、ガチャガチャとした音が止まった。




