5 猫
「はははっ」
「何がおかしいの?」
私はまたダーク・ロウと、そいつが操る怪獣と戦っていた。
「もう諦めろ。この世界はどうしたって破滅に向かっているんだから」
私はその言葉を聞いて腹が立った。そうならないために、私たちは頑張っているのに…
苛立ちを覚えた私は、怪獣をそっちのけで彼の元へ飛んでいき、胸ぐらを掴んだ。
「なんだ?直接俺に攻撃を──え…えっぐしょっ」
ダーク・ロウはくしゃみをした。
「…お前…猫でも飼ってんのか?」
猫…
「それが何?」
「飼っているのかを聞いてるんだ」
「飼ってないけど…」
「そんなわけ──…えっぐしょっ」
もしかして…
「俺、猫アレルギーなんだよ」
やっぱり。
私はさっき、近所の野良猫と戯れていた。
「あ、それだったら、あの薬いいかも。友達も猫アレルギーなんだけどさぁ──」
私は市販で買える薬をお勧めした。
「え?本当?」
「うん。私の友達はそれを飲みながら、猫と暮らしてるよ?」
「ありがとう。有力な情報だ。それなら俺も猫と触れ合えるかもしれない」
「でもあんまり期待しないでね?たまたま友達に合ってただけかもしれないから」
「いや、いい。それでも俺にとってはありがたい情報だ」
なんだこいつ。
「んで?戦いは続けるの?」
「今日はもうやめよう。薬局に行きたい」
変なやつ。
「じゃあまた今度ね。もし薬が効かなかったらまた教えて?友達に聞いてみるから」
「ありがとう」
私たちはこんな会話をしてから解散した。
あれから1ヶ月。この町は平穏だった。
パトロールをしても何もなかった。
それから…
誠一郎さんとも会うこともできなかった。
誕生日、お祝いしてくれるって言ってたのにな。当日そう思ってたところ、誠一郎さんはちゃんとメッセージをくれた。仕事が終わらずに戻れないから、お祝いはまた改めて、と。
私はたったそれだけで舞い上がっていた。
「ルリカっ、敵が現れたっ」
ハンゾウがいつもの如く急に現れた。
「…もうそういうのいいから」
「ん?」
「そういうんじゃなくてさ、普通にピンポンして、“支度して”って言ってくれればいいから」
「でもそれ、なんか違くね?」
「え?」
「ほら…こう…やっぱり緊張感あった方がさ、それっぽいじゃん」
「まぁ…確かに。んじゃもっかいやって?」
「最初から?」
「そう」
私がそう言うと、ハンゾウは一度姿を消し、またすぐに現れると、さっきよりもオーバーな演技をした。
「ルリカっ!敵が現れたっ!」
「またっ⁉︎今度はどこにっ?」
「星の宮小学校だっ」
「えぇっ?そんなところにっ?」
「早く変身をっ!」
「わかったっ。ティンクルプリズム、ラリルリカッ」
……。
「こんな感じ?」
「…なんか違ったな」
「でしょ?」
「それじゃあ行こっか」
「うん」
私たちはそんな話をしながら現場に向かった。
「はははっ。今宵もよく来たな。ティンクル・ルリカ」
今日はお酒を飲んでいなかった。でもやっぱり、ヤツがそう言うと、おかしくて仕方がなかった。
するとさっきの勢いはどこへやら、ダーク・ロウは私に近づき、遠慮がちに話しかけてきた。
「あの…ちょっといい?」
「なに?」
「この前教えてもらった薬、ちゃんと効いた」
「えっ?本当っ?」
私は素直に嬉しかった。
「じゃあにゃんこと触れ合えたの?」
「うん。猫カフェにも行けた」
「それってすごいことじゃんっ」
「そうなんだよっ。俺あの時に教えてもらった薬で、猫と触れ合えるようになったんだ」
気がつけば私とヤツは、情報交換をするかのように話していた。
「ルリカ、今のうちに攻撃をっ」
ハンゾウのその声で正気に戻った。
周りを見てみると…
あれ?
敵の怪獣がいない。さっきまではいたはずなのに…
「怪獣は?」
「え?あー…今日はもういいや。あ、そうそう、これ」
そう言って手渡されたものは、猫のアクキーだった。
「なにこれ」
「猫カフェで売ってたやつ。買うと何%か、保護猫支援に回されるんだって」
「おっ、いいね」
「だろ?薬を教えてもらったお礼にと思って」
「ありがとう。かわいい」
「んじゃ、俺疲れてるからまたな」
「うん。じゃあね」
…ダーク・ロウも疲れてるんだ。
私含め、私の周りには疲れてる人ばかりだな。ハンゾウも最近は、よく疲れた顔をしてるし。
「ハンゾウ、帰ろう?」
「ちょっと柚の家で飲んでいい?」
「いいけど自分の分は自分で買ってね?給料日前で今キツイから」
「柚の分も買ってやるよ」
ラッキーッ。
おつまみもいっぱい買っちゃおっと。
私は変身を解き、ハンゾウは人間に変身した。
それから私たちはディスカウントショップに向かうと、カゴに次々とお酒やおつまみを入れていった。
あ、ボトル焼酎…
私はとぼけてそれもカゴに入れた。
ハンゾウはそれにすぐ気がついていたけど、呆れた顔をしただけで、とくには何も言わなかった。
それにしても…もう夜だというのに、店の中は賑わっていた。酔っ払いなんかもいた。
買い物を済ませ家に帰ると、早速2人だけの宴が始まった。
「この前さ、幹部の人たちに魔法少女たちの給料の値上げにかけあったんだよ」
おっ、ちゃんと仕事してんじゃん。
「んでんで?どうだった?」
「…シブられた。僕ちゃんと言ったんだよ?“命懸けなんだから”って」
「そしたら?」
「怪我をした時の保証は手厚いんだから、それは厳しいって」
は?
本当にケチな奴らだ。
「でも、ボーナスは少しだけ上げてくれるって。僕が“こんなんじゃ魔法少女のモチベーションが保てなくなる”って言ったら、なんとか納得してくれた」
私は嬉しくて人間の姿のハンゾウに抱きついた。
「よくやったっ。ありがとうっ」
それからもハンゾウは幹部たちの愚痴を話していた。私はそれに付き合った。ハンゾウは滅多に愚痴を言わない。でもたまにこういう時がある。たまにはガス抜きも必要だよね。
ハンゾウも疲れてるんだ。




