2 また会えるといいな
「いらっしゃっせー」
お客さんが入って来た。もうすぐ昼時だ。忙しくなるぞ。
「温めますか?」
レジにお弁当と飲み物を持ってきたお客さんに向かってそう聞いた。
おっ。
なかなかカッコいいじゃん、このお兄さん。
「お願いします」
でも…くまができていて、とても疲れているように見えた。
私はお弁当をレンジに入れ、ボタンを押した。
「袋はいかがしますか?」
「お願いします」
またチラリと見てみる。やっぱりカッコいい。目の保養、目の保養っと。
この近くに住んでるのかな?でも初めてみる顔だった。もしかしたら近くのコンビニが潰れたから、こっちを利用してくれてるのかな?
また会えるといいな。
そんなことを思いながら、袋に入れたお弁当を手渡した。
「ありがとうございっしたぁ」
日中は敵が現れても、他の魔法少女がいるから私は出動しなくてもすむけど、夜はほぼ私が戦っていた。
…まぁ…深夜手当がつくからまだいいけどさ。
私は上がる時間になると、近くのスーパーへ行き、ビールと、もやし、割引されている肉なんかを買った。ビールと言っているけど、本当は一番安い発泡酒だ。
家に帰りもやしと肉を一緒に炒め、冷凍していたご飯をチンして温める。それらをテーブルに並べると、私は缶ビールのフタを開けた。
「今日も一日お疲れいっ私。カンパーイ」
ほんっとにもう…こんなしみったれた生活から抜け出したい。
周りの友達は社会人生活を楽しんでるっていうのに、私はこれ。安いもやしと割り引き肉の炒めもの。今の唯一の楽しみといえば、コンビニに来るイケメンたちを目で愛でること。
みんなのSNSを見てみると、投稿される内容と写真は、とても楽しそうでキラキラとしていた。
「ちくしょう。こんな投稿、眩しすぎて見れねーぜ」
私はそっとスマホをテーブルに置いた。
そういえば…
14歳になった頃のある夜、突然ハンゾウは私の部屋に現れたんだ。
“君は魔法少女に選ばれた。僕と一緒に世界を救おう”
ハンゾウにそう言われた私は、すごく心が躍った。嬉しかった。
だって…憧れてたから…
悪い奴らと戦って、みんなを守って…
そんな魔法少女のことを子どもの頃からカッコいいと思っていた。
それに…
“魔法少女”というくらいだから、長くても高校生までくらいだと思ってたのに。まさかこんなに長くやるだなんて思ってもみなかったよ。
するといきなり…
「ルリカッ。敵が現れたっ」
はぁ…
「また?それにいきなり現れないでって何回も言ってんじゃん。もしかしたら彼氏とラブラブしてるかもしれないんだよ?」
私がそう言うと、ハンゾウはわけがわからないという顔をしていた。
「…何言ってんの?柚そんな人いないだろ?」
むっかぁ。
「そのうちできるもん」
「それより、またそんなの食ってんの?もっとちゃんとしたの食えよ」
「一体誰のせいでこんな生活してると思ってんの?」
私がそう言うと、ハンゾウは黙った。
「早く変身しろよ」
「はいはい」
こんな感じで、私は今日も世界の平和を守った。
ある夜、安いボトルの焼酎を氷の入ったコップに注ぎ、緑茶で割って飲んでいた。
あー…就職でもしてたらな…今頃いい出会いがあったかもしれないのに。でも魔法少女をしながら就職するのはどうしても難しかった。夜に戦いながら週五で出勤。そんなのは無理だ。簡単に倒せる敵ばかりではない。手こずってしまう敵も多くいる。
「はぁ…こんちくしょう」
魔法少女になんて、なるんじゃなかった…
せめてもっと給料が良ければ…
誰かに相談したくてもできない。
それは最初に約束させられていたからだ。
・自分が魔法少女であることは、親であっても一切口外してはいけない
と…。
宝くじでも当たればな…
そうしたらすぐにでも辞められるのに。
ま、そもそもそんなの買ってもないけど。
今日の私はお酒が進んだ。やけ酒だ。
でも…これがいけなかった。
次の日、二日酔いだった。
今日はバイトなのに…
だるい体を起こして無理やり支度を済ませると、私はバイト先のコンビニへと向かった。
「っしゃっせー」
あ…あの人だ。目の下にくまができて、疲れきってるあの彼。今日も絶賛お疲れのようだった。
やっぱり近くに住んでるんだな。歳は…私より少し上くらいかな?
何はともあれ、今日も目の保養ができた。私の楽しみなんて、こんな小さなラッキーの積み重ねだ。
ある夜、私はまた戦っていた。
ハンゾウが言うところの飲酒魔法をぶっ放しまくっていた。
その時…ヤツが姿を現した。
「久しぶり。てっきり私に怖気ついたのかと思ってた」
「ははっ。そんなまさか。この俺がティンクル・ルリカごときに怖気づくものか」
そう答えたのは、敵のダーク・ロウだった。
見た目は人間。ただしヤギの骸骨のお面を被っているから、本当に人間がどうかはわからない。もしかしたら怪人…というヤツかもしれない。ヤツも今、空を飛んでいるから。
それにしても…ティンクル・ルリカ…
やっぱり恥ずかしい。14歳の時はカッコいいと思ってたのに。
私は彼が操る怪獣と戦った。今日は少し手こずってしまった。やっぱり、ダーク・ロウがいる時の怪獣は強い。
…ダーク・ロウって…
「ふふっ」
だっさ。
「何を笑ってる、ティンクル・ルリカ」
「ははっ。もうやめてっ。そんな真面目なトーンで、ティっ、ティンクル・ルリカって…あははっ」
「何がおかしい。それがお前の名だろう」
「そっ、それはそうなんだけどさっ」
だめだ。疲れているからか、それともお酒が入っているからか、今のこの状況をおかしく感じて、笑いのツボにハマってしまった。
そうやって油断している間に、私は攻撃され、地面に叩きつけられた。
そこでやっと正気を取り戻し…
「ティンクル・ハートッ」
大技を繰り出し、私は敵を一掃させた。




