1 きっつぅ…
「こんな安月給でやってられっかよ」
ついついそう声が漏れた。
だいたい私もう、24だよ?何が魔法少女だ。何が世界平和だ。正直キツいって。24歳の魔法少女だなんて。
部屋で胡座をかきながら、500mlの缶ビールをグビグビと喉に流し込む。
そりゃあ変身すれば?当時の14歳の姿には戻るけどさぁ…中身はビールが大好きな24歳の女。彼氏募集中のただの女。
しかも決め技が“ティンクル・ハート”って…
もう恥ずかしくて言いたくないよ。
この前、何も言わずに技を出したら上司から怒られたし。別にわざわざ言わなくてもよくない?技はちゃんと出るんだから。
私はふと、手をついている畳を見た。
本当はフローリングがいい。こんなしみったれた安アパートなんかじゃなくて、もっとおしゃれな部屋に住みたい。こんな100円ショップや、ホームセンターで揃えた家具とかじゃなく、もっとおしゃれでかわいい部屋…。
そんなのしばらくは無理だろうな。
魔法少女の給料だけではやっていけず、私は週に3日、コンビニでバイトをしている。
そろそろ魔法少女、辞めたいな…
私は飲み終わった缶ビールをグシャッと握り潰すと、2本目を取りに行きプシュッと開けた。
さっきと同様、グビグビと喉に流し込む。
すると…
「ティンクル・ルリカっ、敵が現れたっ」
猫をデフォルメしたような生き物に、羽根を生やした上司のハンゾウが急に現れた。
「ちょっとそれやめてって言ってるじゃん。いきなり現れないで、ちゃんとピンポン押してよ」
「…早く変身しろよ」
声は可愛いけど、中身は全く可愛くない。
「ちょっと待って。このビール今開けたばっかだから」
「何を言ってんだよ。平和の危機が──」
「わかったから。すぐに飲み干すから」
「飲酒魔法なんかで大丈夫なの?」
「だったらお酒がまだ飲めない、本当の少女をもっと増やしてよ」
「その話はあとでな」
私はビールを飲み干すと、小さなコンパクトを手に取りそれを胸に当てた。
「ティンクルプリズム、ラリルリカッ」
だっせーセリフ。
これを私は10年間も言い続けてるのか。
ホント、きっつぅ…
でも技とは違って、これはちゃんと言わないと変身できないのだ。
私はハンゾウのあとを追うように、窓から外へと飛んで出た。
今日の敵は怪獣が二体だった。
さっさと終わらせて、またビール飲むぞ。
「ティンクル・ハートッ」
私は大技を出し、すぐに怪獣を倒した。
帰ろうとすると、ハンゾウに呼び止められた。
「たまには僕と飲もう?奢るから」
人間の男の姿に変身したハンゾウがそう言った。なかななにイケメンだから余計にムカつく。
「奢らなくていいから給料上げてよ」
「それは僕の仕事じゃない」
くそ…
「じゃあ着替えてくるから、ちょっと待ってて」
そう言ってハンゾウを家の前で待たせた。
私はすぐに着替えると家を出て、ハンゾウと個室のある居酒屋へと向かった。
店に着き、個室に入ると、私は早速話を切り出した。
「んでさ、さっきの話なんだけど、最近どうなってんの?新人少なくない?」
「それがさ、この前ちょっと問題が起きちゃって…」
話を聞いてみると、どうやら魔法少女半年目の子が、親に魔法少女バレをしてしまい問題になったのだと。
そりゃそうだよね。いたいけな10代の娘が、体張って世界を守るだなんて、危険だって思うよね。
「夜の10時以降に働かせるのは問題だって。労基に訴えるって…」
え…?そっち?
「だからこのことに対して、上層部たちがてんやわんやしちゃってさ。とりあえず、未成年の魔法少女たちは、夜の10時までってことになったんだ」
はぁ?
私なんて今まで、深夜だろうがなんだろうが戦ってきましたけど?
上層部の奴らもビビりすぎだろ。たったひとりの親に対して。
私は次々と運ばれてくる料理を食べながら、そう思っていた。
「とにかくさ、面接でもなんでもして、さっさと少女たちを補充してよ」
「ルリカもわかってるだろ?魔法少女になれるのは、適正を持った子だけなんだ」
「いや、私の名前、柚だから、変身してる時の名前で呼ばないで」
ゾッとするから。
それからもハンゾウは説明してくれた。いや言い訳だ。
この国では魔法少女は人気だ。募集をかければいくらでも来るだろう。そんで面接の時に適正を見ればいいんだから、と私が言うと…
「いや、それだと人件費がかかっちゃうんだよね」
金、金、金、金。
夢も何もない組織だな。
世界を守りたいなら、そんなこと言ってないでなんとかしろよ。
「私もう辞めたい」
「辞められない理由は、自分が一番よくわかってるだろ?」
「…」
私はビールを勢いよく飲んだ。
「それに柚、大丈夫だって。よく“もう24だから”って言うけどさ、北の方には36歳、二児の母だって魔法少女やってんだから」
きっつぅ。
いや、やってること自体はとても素晴らしいことなんだけど…
「…なんでそんなに辞めたいの?」
「給料が安いからだよ。それだけで生活ができないからバイトしてるの知ってるでしょ?」
「…申し訳ない」
「命張ってんだから、もう少し給料上げてよ」
「…掛け合ってみる」
私は今までに辞めたいと何度伝えても、“今は人手不足だから”と断られ、さらには私はヘマをしてしまい、余計に辞められない状況になっていた。
私ももしかしたら、30を超えても魔法少女を続けているのかもしれない。
そう思うとゾッとした。




