13 ボス戦
廊下にいるハンゾウたちを呼び、怪人2人も含め、作戦会議をした。
「もう少しでお昼休憩になるから、その時に僕が他の兄弟たちをここへ呼んできます」
「そんでそこからどうするでゲスか?お兄さん」
私は“ゲス”をとっても気に入った。
「本当にみんな、降伏すると思うんでゲスか?」
セイくんも会話に加わった。
「もうお二人とも…勘弁してくださいでゲスよ」
ノリのわかる怪人だ。
それからも私たちは話し合い、いよいよお昼になった。
イチローは部屋から出ていくと、数分後にはみんなを連れてきた。
「あ、どうも。ジローです」
「サブローです」
「ゴローです」
「ロクローです」
部屋に入るなり、怪人が自己紹介をし始めた。
「ちょちょちょ、わかったから。君がシチローで君がハチロー、そんで君が…」
クロー?
「キュータローです」
ここへきてのタローかい。
怪人たちの胸には番号が振られていたから、区別はつけやすかった。
私たちは残りの怪人たちに作戦を伝えると、みんな喜んでいた。
「でもオイラたち、ボスから解放されても、どこにも行くところがないんです。働きたくてもきっと、どこも雇ってくれないと思う」
オイラ…
「そうそう、俺っち怪人は生きていく術がない」
俺っち…
「オレも心配」
イントネーションが小学生男子が言うやつだ。“オ”にアクセントがついている。
なんかみんなかわいいな。
「そしたらウチで働くか?」
ハンゾウがそう言った。
するとみんな喜んでいた。
いいの?そんなに喜んじゃって。
「僕たちそもそも、働くために作り出されたんで、仕事を与えられるのはありがたいんです。ただ悪いことはしたくない」
そういうことか。
ようこそ。ホワイトでブラックな社畜の世界へ。
私たちは作戦通り動きだした。
ジョーがいつも休憩をしている部屋へと向かった。
部屋の前に着くと、私は思い切りドアを蹴破った。
部屋の中は至って普通。普通の家具に普通の電化製品。あ、あれ、100均のハンガーだ。私も同じのを持ってる。
ソファには驚いて何も言えない30代くらいの男の姿があった。
「え?魔法少女?」
「お前がジョーか?」
私はそう聞いた。
するとその男は慌てながら「ちょ、ちょっと待ってて」と言い、奥の部屋に入ったかと思うと、すぐに出てきた。その姿はダーク・ロウと同じようなお面に、黒いマントを身につけていた。
「はっはっはっ。とうとうここを突き止めたか、魔法少女よ」
「いやいやいやいやっ。もうそういうのいいから」
「一体何を言っておる。ここまで来たのなら、もう生きては帰れないのだぞ?」
「…」
「早速怖気ついたか。魔法少女、ティンクル・ルリカ」
私はセイくんに耳打ちをした。
「ねぇ、これって付き合ってあげないといけないやつ?」
「んー、無視していんじゃね?」
「でもあのまま続けられてもさ、なんかこう…背中がゾクゾクすんだよね」
「わかるわかる。痛いよな」
「ね」
私たちは哀れむようにそいつのことを見た。
「な、なんだその目はっ。私のことをそんな風に見るでないっ。怪人1号っ。怪人1号はどこへ行ったっ。早くこいつらを捕えろっ」
するとイチローが私たちの前にスッと出てきて、ジョーに向かってこう言った。
「ボス、僕たちを解放してください」
「え?」
「もう僕たち、悪いことをしたくないんです。なんで悪役になんて憧れちゃったんですか?」
「お前…違うだろ?ちゃんと教えた通りのしゃべり方で話しなさい」
「あんなクソダサい喋り方、もううんざりだっ」
「え?イチローくん?イチローくんはいつも真面目で、あんなに頑張り屋さんだったでしょ?どうしちゃったの?」
その声はとても困惑していた。
なんだこの茶番は。2人の会話はまだ続いていた。
戦いがないと悟った他の魔法少女たちは、廊下に座り込み、スマホでゲームをはじめる子、自撮りをする子、おしゃべりをしている子もいた。
「えー?アキちゃん彼氏できたのー?いいなぁ」
そんな話声が耳に届いた。
は?中学生に彼氏だと?
まだまだ早いだろ。
私なんてその頃、男子のことは嫌いだったし、なんだったらイジワルをしてくる男子に殴りかかったこともある。
「え?うそ?その日のうちにキスしたの?」
このマセガキめ。
「ええっ?そんなことまで?」
おいおいおいおい。一体なにをしたんだい?お姉さんにも教えておくれ。
……
いかんいかん。
私は意識を目の前のジョーたちにに戻した。
どうやらジョーはイチローに色々と言われて、すっかりと肩を落とし、しょぼくれていた。
するとハンゾウがジョーに話しかけた。
「怪人たちはこっちの味方だ。怪獣ももう、手懐けている。このまま警察に突き出されるか、ウチで働くか、どちらか選べ」
え?警察に連れて行かないの?
私は疑問に思い、ハンゾウにこっそりと聞いてみた。
するとハンゾウはニヤリとしながら教えてくれた。
「だってこんな立派な施設と、立派な技術がこいつにはあるんだぜ?みすみす警察になんか渡すの、もったいなくない?使えるもんは使わないとさ。ここなら魔法グッズ、色々作れそうだし。金の匂いがプンプンする」
でたー…
ゲスイ。
見事にゲスイ考え方だ。
「でも怪獣が出ないんなら、もう魔法業界も廃れるんじゃない?」
「大丈夫。そうしたら今度は、犯罪者たちを取り締まるようにすればいいから」
エグゥ…
市民を守るふりをして、自分たちを守ってる。
エグいですやん、ハンゾウはん。
結局ジョーは、魔法業界に入ることになった。
「金庫」
「え?」
「そこの金庫開けろ」
ハンゾウはそう言った。
ジョーは渋々金庫を開けると、中を見せてくれた。そこには札束が入っていた。
「これはうちがもらう」
エグっ。
「そんな…」
「やっぱり警察に行きたいのか?」
「いや、あ、あの、資金を借りている人がいるんで、それは返させてください。残りは差し上げますので…」
闇金も資金繰りが色々と大変なんだな。
そんな感じで話がまとまると、私たちと怪人、ジョーはバスに乗り込んだ。
怪人たちの“山から下りられない”プログラム的な何かは解除され、みんな嬉しそうにしていた。
「ねぇねぇ、シロー」
「はい」
私はシローの隣に座っていた。
「怪人はさ、味覚あるの?」
「ありますよ」
私はカバンから酢だこを出すと手渡した。
「食べたことある?」
「ないですね。ボスは甘いものが好きなんで、甘いお菓子しか買ってこないんですよ」
「食ってみ食ってみ?」
怪人は袋を開けると、匂いを嗅ぎ、うげっという顔をしたものの、ちゃんと食べてくれた。
「おっ。これはなかなか…」
「でしょでしょ?」
私はさきイカも手渡した。シローは美味しそうに食べていた。
こんな感じで、帰りのバスも楽しんだ。




