10 ズッキュン
私たちは作戦を煮詰めた。
ハンゾウは幹部たちに掛け合い、魔法少女たちをかき集める準備を進めていた。
そんな中…
私はセイくんとドライブデートをしていた。
セイくんが運転してる姿…
ガチでカッコいいんですけど。
私は乙女の気持ちのまま、ただただそんなドライブデートを楽しんでいた。
車から降りると、セイくんはすぐに私の手を握ってくれた。
私はそんなセイくんを見上げると、セイくんはニコリと柔らかく笑ってくれた。
好き…
そう思った。
私は繋がれている手をもっと絡ませたくて、指を絡めてみた。
すると…セイくんはそんな私の手を、ぎゅっと握り込むようにしてくれた。
こんちきしょう。
借金まみれの貧乏人のくせに、私をドキドキとさせやがって。
でも大丈夫。
一緒に借金、踏み倒そうぜ。
そもそも悪党なんだから、滅ぼさなければいけないんだ。
んー…
空気が美味しい。
空が広い。
私たちは温泉街に来ていた。旅行ではない。車で行ける範囲の日帰り温泉だ。
私たちはまず、目的の足湯に向かった。
「ねぇねぇ、全国に怪獣出るけど、それみんなダーク・ロウの仕業なの?」
「うん。俺出張が多いって言ったでしょ?全国各地を回って怪獣を出してたんだ」
…たったひとりで…
全国各地を回って…
あのお面とマントをつけて…
ご当地魔法少女とそのたびに戦って…
……
めっちゃおもろっ。
「大変だったね」
私は心の中で笑っているのを隠し、セイくんのことを労った。
「うん。もう毎日が疲労困憊だったよ」
確かに。いつも疲れた顔してたもんな。でもなんだかそれが、色気になってるんだよな。
目的地に着くと、私たちは靴を脱ぎ足湯に浸かった。
「あー…夏に来るところじゃねーな」
「いいのいいのっ。周り見てみ?自然がいっぱい」
「…俺はしょっちゅう出張でこういうところに来てたよ」
「んじゃ、隣見てみ?」
セイくんは私とは反対側を見た。
そっちじゃねーっての。
「こっち見てみ?」
私がそう言うと、セイくんは私のことを見た。
「ね?ひとりじゃない。それにこの後、雰囲気のいい露天風呂にも行くし、お土産屋さんにも行く。出張の時は、そんなことしなかったでしょ?」
「うん。そういうことは何もしなかった」
セイくんはふっと柔らかく笑った。
くぅぅぅ。たまらんっ。
疲れた顔からは少し哀愁が漂っている。そんな顔で優しく微笑む彼。
もうズッキュンです。
色気ムンムンです。
私たちは暑い中、足湯を楽しむと、次に景色を眺めて楽しんだり、お土産屋さんを見て回ったりした。それから本命の露天風呂。私たちは出る時間を決めると、それぞれ温泉を楽しんだ。
「あー、気持ちよかったぁ」
「だね。汗も流せたし、さっぱりした」
「あ、セイくんあそこ。ソフトクリーム売ってるよ?」
「おっ。いいね。近くにベンチもあるから、そこで食べよっか」
ソフトクリームを買うと、2人でベンチに座った。
うんま。濃厚。
避暑地だからか、夕方になると、暑さは一気に引いていった。
「セイくん。私たちさ、一緒に暮らさない?そうしたら生活費結構浮くと思うんだよね」
「…柚ちゃんて結構現実的だよね。俺と一緒にいたいから、とか言われる方が嬉しいんだけど」
「だって世の中“金”ですから」
確かにセイくんとは一緒にいたい。
貧乏人同士が一緒に住んだって、結局貧乏には変わりないけど、それでも少しは生活が楽になる。
本当…可愛げないな。私。
「柚ちゃんがそれでいいなら、俺はいいよ。とりあえず俺のとこに来る?俺の家の方が少し広いし」
「え?いいの?」
「いいよ。柚ちゃん、そんなに荷物もないでしょ?」
「やったぁ。じゃあ魔法少女になって、さっさと荷物運んじゃおっと」
「ははっ。魔法の私物化だ。引っ越しのために魔法少女とか、おもしろっ」
「だってぇ、力持ちになるんだもん」
溶けて手に垂れてきそうなソフトクリームを、私は急いで舐めとった。
本当にうんま。このソフトクリーム。
ソフトクリームを食べ終わると車に乗り込み、帰路についた。
私はそのままセイくんの家に帰った。
2人でベッドの下に座ると、ビールを片手に、今日のことを振り返りながら話していた。
「柚ちゃん腕出して」
いきなりセイくんはそんなことを言い出した。
私はその通りに、片腕を差し出した。
するとゴソゴソとポケットから何かを取り出し、それを私の腕につけた。
ブレスレット…?
それはゴールドの華奢なバングル型のブレスレットだった。
「なに…?」
「遅くなったけど、誕生日プレゼント。ずっと渡すタイミングを伺ってたんだけど、結局ここになっちゃった」
スーパーで売ってる、ショートケーキとかでよかったのに…
借金まみれの貧乏人なのに…
こんなの用意してくれてたんだ。
こんなのもうズッキュンだよ。
私は隣に座るセイくんのことを抱きしめた。
「ありがと。大切にする」
「気に入った?」
「めっちゃかわいいっ」
私はその隙に、セイくんの匂いをこっそりと嗅いだ。
石鹸のいい香りと、セイくんの匂いが混ざってる…
ナニコレ…フェロモンってやつですか?
ダメだ…頭がクラクラする…
セイくんは少し離れると、私の顔をじっと見て、それからそっと唇が重なった。
この後私たちは、恋人同士らしい時間を過ごした。
ある日、私とセイくんはハンゾウに連れられ事務所に来ていた。
最終的な作戦を練っていたのだ。組織としては大きくないけど、その組織を動かしてるのはみんな怪人だと言っていた。
それなら心置きなくぶっとばせる。
「そういえば、なんでセイくんは空を飛んだりできるの?」
「あー、科学だよ」
魔法じゃないんだ…
「正確には科学と魔法の組み合わせ?なのかな。俺も仕組みなんかはよくわからないんだけどね。あ、ほら。あの黒いマント。あれを身につけると空を飛べたり、攻撃を防御することができるの」
なるほど。
そんな技術があるなら、一儲けできそうなのに。世界征服なんかより、そっちの方がよっぽど楽しいじゃん。
私の頭の中では、チャリンチャリンと、お金が貯まっていく音が響いていた。
それからも私たちは作戦会議を続け、悪の組織への襲撃は、週末に決まった。
来週なら、もう学校が夏休みに入るからね。
ま、私には関係のないことだけど。




