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鏡に囚われた少女  作者: 最上優矢
第一章 鏡に囚われた少女

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勘違い

「あっ、内田さん」


 無意識に。

 僕は内田さんを呼び止めた。


 このとき、僕はどんな用件で彼女を呼び止めたのか、分からなかった。

 滑稽だが、それでも呼び止めたのだから、きっと彼女に何かを言おうとしたのだろう、と僕は必死になって、その“何か”について考えを巡らせる。


 内田さんは立ち止まると、若干警戒した様子で後ろを振り返った。


「はい?」

「ええっと……そう、だね。うん、うん。そうそう、そうだそうだ」

「…………」


 用件を思い出すまで、どうにか場をもたせようとする僕だが、内田さんの無言の圧力は半端ではなかった。


 プレッシャー。


「あの、その……んーとね」

「……なるほど、そういうことですか」

「えっ」


 当の本人でも分からないことが、なぜ彼女に分かるのか、僕はドキッとした。


「そういうことって、どんなこと……?」

「お手洗い、ずっと行きたかったんでしょう? 浜崎先生はまだ泣き止みそうにないですし……ちゃちゃっと行ってきたらどうですか、宗田さん」


 なんだろう、気のせいか内田さん、わずかに口角が上がっているような。


「あのね、内田さん……あっ」

「どうかしましたか」


 思い出した。


「さっき、きみは浜崎先生のことを貧乏神って罵ったけど……なんで浜崎先生が貧乏神なのさ。

 浜崎先生がきみを貧乏にさせたわけじゃないだろうに」


 そのことですか、と内田さんは手を腰に当てた。


「生徒指導室でですね、浜崎先生の提案する最悪な案が通ったからです」

「最悪な案って?」

「聞いて驚くことなかれ……今まで私がアルバイトで稼いだ分だけのお金を、盟玄高校に寄付する、とかいう馬鹿げた案です」

「わお」

「ね、貧乏神でしょう?」


 僕は曖昧にほほ笑むことにした。

 あえて言いはしなかったが――そんなメチャクチャな案が出たのは、浜崎先生は内田さんのことを嫌っているからだろうな、と僕は勝手に想像した。


 誰が誰を好きとか、誰が誰を嫌いとか、そういった情報はあっという間に、この校内では出回る。


 たぶん、いや絶対。

 浜崎先生が内田さんを嫌っているという情報は、内田さん自身も把握済みに違いないだろう。


 騒然としている二年一組の教室が、普段の様子に戻ったのは、それから一時間の時間を要した。

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