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鏡に囚われた少女  作者: 最上優矢
第一章 鏡に囚われた少女

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教室での騒動

 いつからだろうか。

 高校二年生にもなった僕だが、そんな僕は昔から、幽霊などといった、ありえないとされる存在を信じている。

 それを恥じたことは一度もないし、老若男女問わず、周りにいる人たちにはそのことについて、誇るように公言している。


 僕が幽霊の話をすると、ロン毛でつり目をした背の高い同級生の江口徳也(えぐちとくや)くんは決まって苦虫を嚙み潰したような顔をし、「またその話か、ピュアでチビの宗田唯人(そうたゆいと)くん! 実に非科学的だ。まあ聞け、そんなことより……」と女性がいかに醜いかを、鬼も怯える剣幕で僕に説明するのだった。


 そんな悪口よりも、僕は彼がどのようにして女性蔑視をするようになったのかが気になってたまらないのだが、世の中、知らないほうがいいこともあるのだと、彼の邪悪な瞳と目を合わせながらうなずき、いつも僕は好奇心を抑えていた。


 のどかな春ももう終わろうという、五月下旬のある日。

 その日、K県にある公立盟玄(めいげん)高校では、ちょっとした騒動が起きていた。


 それはパッチリとした大きな目を持つボブヘアで小柄な内田藍(うちだあい)さんという僕の同級生が、校則で禁止とされているアルバイトをしていると発覚したあとのこと。


 ショートホームルームが始まるとともに、内田さんは担任教師の浜崎瑠偉(はまざきるい)先生というロングヘアで切れ長の瞳をした背丈のある彼女に向けて、「貧乏神!」と罵ったのだ。


 この罵りは勢いよく放たれた矢となり、浜崎先生のような豆腐メンタルの持ち主にはよく刺さった。


 新米女性教師の浜崎先生は放心したように教壇から降りると、「それじゃあみんな……短い間だったけど、先生ね、先生やめてくるから。校長室、行ってくるね」と教室から出ようとした。


 もちろん、僕ら良心のある二年一組の生徒たちは総出で、浜崎先生を引き止めたが、内田さんが放った矢による傷は相当深刻で、しまいには浜崎先生は泣き出してしまった。


 誰かが校長先生に知らせに行ったらしく、今や一組の教室には我らが校長や教頭先生をはじめとする先生方が複数集結していて、それぞれ泣きじゃくる浜崎先生をなだめる事態にまで陥った。


 ……さて。

 このカオスとなった現場を見た隣の席の江口くんは、なんと言ったか?


「いつだって女は騒動の元だ。醜い。実に醜い。女ども、海底に沈んでしまえ」


 だそうだ。


「きみのような残酷な男子高校生が、今後誰も現れないことを切に願うばかりだよ」

「おっと、唯人くんというあろうお方が、悪口とはな。残念だ」

「僕が悪口を言うほど、きみの女性蔑視は重症なんだってば」

「たわけ! いずれオレは女どもに寄生された世界を変える漢だぞ」


「……ここ、笑っていい場面?」

「笑いたければ笑うがいい」


 僕は乾いた笑い声を上げた。


「なぜ笑う」

「えぇ……?」


 と、そのとき、教卓付近で先生たちから事情を聞かれていた内田さんが戻ってきた。


「来たな、すべての元凶の女よ」


 江口くんは舌なめずりをし、内田さんをビシッと指差した。


 指を差された内田さんは立ち止まり、「なんですか、このケダモノは」と露骨に嫌そうな顔をした。


「ケダモノではないのだが……何を隠そう、オレは下等生物である女どもを、やがてこの地球から浄化する使命を持つ偉大なる漢。

 分かったのなら、さっさと口を慎め、ゴミにも劣る女」


「ええ、そうですかそうですか。では、ここではっきりさせましょう、性差別野郎。

 あなたのハラスメントで、どれだけの女性が傷つくか、脳みそのないあなたは理解していませんね。 

 あなたに悪口を言われた女性が、自殺でもしたらどうするんですか。そしたらあなた、責任取れます?」


 まあまあ、と僕は仲裁に入った。


「矛を収めなよ、二人とも。ね?」


 ふん、と江口くんは机に頬杖をつき、なおもブツブツとつぶやいていた。


 内田さんはジトッとした目で江口くんを見ていたが、やがて興味をなくしたようで、再び歩き出す。

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