第2話 白竜 王都に入る
翌朝、地面の湿った匂いと共に目を覚ます。
外へ出ると、大粒の雨が土砂降りになって降っていた。
シュラークを起こし、朝食にする。
木の実がなっている木に近づいて色鮮やかな色をしたのを15個ずつ取り、彼女の元に戻る。
「これは?」
『雨の日にしか実がならんというやつだな。名前は知らんが美味いぞ、水々しいからな』
青と紫の木の実は噛めば口の中に広がって、甘みが広がる、種もないからな。
木の実を食べ終えて、彼女を見つめる。
「...私、本当は冤罪で捕まったんだ」
『そうか、それで?お前は何を知っている』
シュラークは麻袋の中から手帳を取り出して何かが描かれているものを見せてきた。
それは砲台のようだがこれは...。
文字を見ると竜種殲滅用と書かれていた。
「この兵器はレーザー砲で、当たっただけで骨ごと塵にするんだ」
『そうか、ならお前はどうしたい、壊すのか?』
「それは...まだ分からない」
彼女は手帳を胸に押し当て、両手で包み込む。
『まずは王都とやらに向かう』
「だけど雨が止んでからにしないか?」
『む、そうだな、この状態で飛んだらお前は風邪を引いてしまうな、少し待て』
外に出て、上を見上げる。
前脚をかざすと魔法陣が出現した。
大きくなり、威力が上がっていく。
「なぁ白竜、空に向かって何してるんだ?」
『中に戻れ、吹っ飛ばされても知らんぞ』
3.5メートルの球体が出来上がると、それらを掴んで思いっきり投げ飛ばす。
しばらくして雨の音は聞こえなくなった、これでしばらくは雨は降らないだろう。
洞窟の中に入り、早速準備に取り掛かる事にした。
調理器具を大きな鞄に突っ込む。
背中に背負い、彼女を首元に乗せる。
「重くないのか」と聞かれた。
平気だが?全く何を言うと思ったら...。
翼を広げ飛び立つ、森が小さく見え、しばらく飛んでいると目的の国は山に囲まれていた。結界が貼ってあり、生半可な攻撃では破れないように強度が上がっていると見た。
高度を下げ、地上に着く。
既に魔力を極限まで抑えているため、バレることは無いだろう。
『ここからは歩きで行く』
「それって竜が入れない特殊なもの?」
『あぁ、よく知ってるな』
「それなら建物が揺れるくらいの特大な魔法はどうだ?」
『ゴブリン共を滅ぼしたアレか、疲れるし人間にバレる』
「あれゴブリンに使ってたの!?どうりで衝撃が届いたと思ったら...」
『あれは手加減している、大陸の地盤が抉れるほどじゃない』
しばらく歩いていると、装飾が派手な馬車とすれ違う。
馬が止まり扉が開いた。
そこには綺麗な鼻筋に整った顔、ミントグリーンの瞳に、アッシュグレーの髪色をしている人物がシュラークに近づいてくる。
「失礼、お嬢さんは何処から来たのかな?」
「えっと、私は...」
「昨日、ゴブリンの巣が破壊されていてね、見たところ、極めて高い魔力量が確認されてて、皆警戒しているんだ」
「は、はあ...」
「私はカスパー・ヴァルザーという。覚えてくれると助かるよ」
馬車に乗り込んで、走り去っていった。
あいつの目、シュラークを観察するように見ていたな、まるですべて分かっているかのように...。
「ヴァルザーって、確か名門な公爵家だよ」
『ふん、くだらん』
鼻息を鳴らし、再び警戒心を露わにする。
歩いていると、シュラークがこんな事言ってきた。
なんでも竜種は体を小さくする事が出来ると、だが小さくなる魔法は調整が難しいから苦手だ。
首を横に振って拒否する。
「えー!?なんでだよ!不便じゃないか!その図体で王都の門潜れんのか!?」
『チッ、仕方ないな』
魔法陣を発動すると、20m以上ある巨大がみるみる小さくなる。
そうして、子猫サイズまで縮んだところで彼女から黄色い悲鳴が聞こえた。
「かっ、可愛い〜〜!!えっ、このままのサイズを維持し続ける事って出来るのか!?」
『黙れ、女』
大きさを元に戻すと、彼女は不服そうな表情をした。
半日掛かってやがて夜になる、今日は野宿確定だな。
焚き火を作って、暖を取る。
「うぅ...さ、寒い...!」
『もう少しマシな服は無かったのか』
「逃げるのに急いでたんだから仕方ないだろ...!」
炎魔法を使い焚き火の火力を上げる、炎の竜巻が空に舞い上がる。
「うわああああぁぁぁっっ!!!な、何やってるんだよ!?」
『寒いんだろう?』
「だからって竜巻上げてどうする!!このままじゃ憲兵にバレるぞ!」
『その時は追い払えばいい』
炎の竜巻は弱まり、通常の火力になった。
シュラークは火を絶やさないように枝を投げる。パチリとした音がして、火の粉が少し舞う。
震えも収まり、ぬくぬくとしていた。
「なぁ白竜、さっきは凄かったな、さっきのはどうやったら出来るんだ?」
『アレか?貫通魔法を圧縮したら出来た、あれは攻撃魔法にでも応用できないか試していたんだ』
「へぇ...アレが貫通魔法か、魔力は大丈夫か?」
『平気だ、だからさっさと休め』
彼女が眠ったあと、空を見上げる。
月の光でほんのりと地面が明るい、焚き火の火を消して目を閉じて眠りにつく。
夜も更ける頃、馬のいななきと大人数の足音が聞こえた。
女を叩き起こし、攻撃魔法を展開して警戒する。
距離は20m、歩兵は弓を斜めに構えていた。そして目の前に立っている男は、ヴァルザーとは違う人物だった。
月の光に照らされた髪色はラピスラズリ色をしていて、瞳は白群色をしていた。
魔力は制御されていて、一筋縄ではいかない風格をしていた。
「君、パライオン・ストリートから出てきたよね、ダメじゃないか、脱走なんてとっくにバレてるんだよ?」
『何者だ貴様らは、返答次第では全員半殺しにしてやる』
「あれ?確か絶滅したはずのドラゴンがいるね」
火球を放とうと口を開けた瞬間、ゼロ距離まで接近されて顎を蹴り飛ばされた。
軽い脳震盪を起こすが頭を振る。
血の混じった唾を吐き、矢が放たれてきて我に向かってきた。
バックステップで回避して、空に飛ぶ。
ロックオンをして火球を放ち、バラバラに散開して騎士に直撃した。
爆炎と煙が上がる。
いつの間にか背後に回られ、背中を深く袈裟に斬られてしまった。
落ちる訳にいかない。
翼を動かし、羽ばたく。
男の剣捌きを弾きつつ、攻撃魔法を撃つ。
奴は笑いながらそれを弾いた。
氷塊と雷の魔法陣を二つ同時に展開し、放つ。
ヒラリと回避し、剣を振って斬撃を飛ばしてきた。
避けるも、翼の翼膜に掠る。
目の前から消え、背中に衝撃が走った。
地面に叩きつけられ、そこから血が流れ出た。
激痛に悶えるも、耐えみせた。
『ぐううぅぅっっ...!!!』
「安心してよ、心臓には到達させないからさ」
地面に降りて、服を手で払う。
カエルレウスと名乗った青年は手をひらひらと振って立ち去って行った。
ゆっくりと立ち上がり、尻尾を使って深々と突き刺さっている剣を引き抜く。
シュラークの気配を探り、生きていると確認して思念を使って呼ぶ。
傷だらけの我を見て息を呑んだ。
大丈夫だと伝え、治癒魔法で傷を癒す。
荷物と彼女を背中に乗せ、低空で飛び立つ。
結界は円形状になっており、そこから街が建っている。
シュラークを下ろし、先に行かせる。
建物の中に入ると、レンガで作られた建物がたくさんあった。
目を輝かせて、遠くに行ってしまう。
体を縮めて、走っていくシュラークを追いかけたのだった。




