第2話 白竜 王都に入る
地面の湿った匂いと共に目を覚ます。
外へ出ると、大粒の雨が土砂降りになって降っていた。
シュラークを起こし、朝食にする。
外に行き、湖の近くに木の実がある木に近づき、15個ずつもぎ取っていき彼女の元に戻る。
布を潜って、地面に落とす。
「これは?」
『雨の日にしか実がならんというやつだな。名前は知らんが美味いぞ、水々しいからな』
彼女に手渡して、一緒に食べる。
噛むと口の中に広がって、甘みが広がる。
完食した後、彼女を見つめたがまた神妙な顔になっていた。
「...私、本当は冤罪で捕まったんだ。殺人の疑いでな?だが私はやってない!」
『あぁ、知っている。貴様は機械弄りが得意な変人だと師匠から聞いているからな』
デカい声で否定されて、前脚を蹴られてしまうがそんなの痛くも痒くも無い。
散々喚いて、急に大人しくなった。…なんだコイツは。
「あっ、そうだ。これを見せようと思ってな」
シュラークは麻袋の中から手帳を取り出して中を開くが手帳の大部分が破られているので読めなかった。
「………ま、まぁいいさ!図面はまた書き直せばいい!頭の中に入ってるし」
雨音を聞きながら時間が過ぎていく。
羽根ペンを動かし、書き終えた羊皮紙を我に見せにくる。
それは我の背中に合うように革製となっていた。
皮か…ベヒーモスを狩ればいけるか。
そろそろ目的の国に行くとしよう。
『早速だが北東にある国に向かう』
「えっ、だが雨が止んでからにしないか?」
『む、そうだな。この状態で飛んだらお前は風邪を引いてしまうな、少し待て』
外に出て、上を見上げる。
前脚をかざすと魔法陣が出現した。
大きくなり、鉄球サイズになる。
「なぁ白竜、空に向かって何してるんだ?」
『中に戻れ、吹っ飛ばされても知らんぞ』
それらを掴んで思いっきり投げ飛ばす。
分厚い雲は割れ、青空が顔を出す。
これでしばらくは雨は降らないだろう。
洞窟の中に入り、早速準備に取り掛かる事にした。
彼女は左右に固定されていた布を取り外し、綺麗に畳んでトランクケースに入れた。
手帳や、筆記用具など入れて、一旦収集魔法の中に入れた。
すべて入れた後、翼を広げ飛び立つ。
森が小さく見え、しばらく飛んでいると目的の国が見えてきたが結界が貼っており、、生半可な攻撃では破れないように強度が上がっていると見た。
高度を下げ、地上に着く。
彼女を下ろし、魔力を消した。
『ここからは歩きで行く』
「それって竜が入れない特殊なもの?」
『あぁ、よく知ってるな』
「それなら地面が揺れるくらいの特大魔法はどうだ?」
『ゴブリン共を滅ぼしたアレか、疲れるし人間にバレる』
「あれゴブリンに使ってたの!?どうりで衝撃が届いたと思ったら...」
『あれは手加減している、大陸の地盤が消滅する程じゃない』
馬車の音が聞こえ、咄嗟に姿を透明魔法で消す。
装飾が派手な馬車が停車し扉が開いた。
そこにはスラッとした長身に綺麗な鼻筋に整った顔、ミントグリーンの瞳、そしてアッシュグレーの髪色をしている人物がシュラークに近づいてくる。
「失礼、お嬢さんは何処から来たのかな?」
「えっと、私は...」
「昨日、ゴブリンの巣が跡形もなく破壊されていてね、ある1匹の竜を探しているんだが、何かあれば連絡が欲しいよ、私はカスパー・ヴァルザーという。覚えてくれると助かる」
馬車に乗り込んで、走り去っていった。
馬車のが見えなくなった所で解除する。
「ヴァルザーって、確か名門な公爵家だよ」
『ふん、くだらんな』
「なぁ、さっきはいきなり見えなくなったがどうしたんだ?」
『…癖だ』
もうとっくに見つかっているというのに、何をやっているんだ我は…。
歩いていると、シュラークがこんな事言ってきた。
なんでも竜種は体を小さくする事が出来ると、だが小さくなる魔法は調整が難しいから苦手だ。
首を横に振って拒否する。
「えー!?不便じゃないか!その図体で門潜れんのか!?」
『…チッ、仕方ないな』
魔法陣を発動すると、20m以上ある巨体がみるみる小さくなる。
そうして、子猫サイズまで縮んだところで彼女から黄色い悲鳴が聞こえた。
「かっ、可愛い〜〜!!えっ、このままサイズを維持し続ける事って出来るのか!?」
『黙れ、女』
大きさを元に戻すと、彼女は不服そうな表情をした。
半日掛かってやがて夜になる、今日は野宿確定だな。
焚き火を作って、暖を取る。
「うぅ...さ、寒い...!」
『もう少しマシな服は無かったのか?』
「これしか無いから仕方ないだろ...!」
炎魔法を使い焚き火の火力を上げる、炎の竜巻が空に舞い上がる。
「うわああああぁぁぁっっ!!!な、何やってるんだよ!?」
『寒いんだろう?』
「だからって竜巻上げてどうする!!このままじゃ憲兵にバレるぞ!」
『その時は追い払えばいい』
炎の竜巻は弱まり、通常の火力になった。
シュラークは火を絶やさないように枝を投げる。
パチリとした音がして、火の粉が少し舞う。
震えも収まり、ぬくぬくとしていた。
「なぁ白竜、さっきは凄かったな。さっきのはどうやったら出来るんだ?」
『アレか?貫通魔法を圧縮したら出来た、アレを攻撃魔法に応用できないか試していたんだ』
「へぇ...アレが貫通魔法か、魔力は大丈夫か?」
『平気だ、だからさっさと寝ろ』
彼女が眠ったあと、空を見上げる。
月の光でほんのりと地面が明るい、焚き火の火を消して目を閉じて眠りにつく。
夜も更ける頃、馬のいななきと大人数の足音が聞こえた。
女を叩き起こし、攻撃魔法を展開して警戒する。
距離は100m、歩兵は剣を鞘から引き抜いて構えている。
後ろには弓兵もいた。
そして目の前に立っている男は、ヴァルザーとは違う人物だった。
月の光に照らされた髪色はラピスラズリ色をしていて、瞳は白群色をしている。
魔力は制御されていて、一筋縄ではいかない風格をしていた。
彼女を見つめ、剣を引き抜いた。
「君、パライオン・ストリートから出てきたよね。ダメじゃないか、脱走なんてとっくにバレてるんだよ?」
『何者だ貴様らは、返答次第では全員半殺しにしてやる』
火球を放とうと口を開けた瞬間、ゼロ距離まで接近されて顎を蹴り飛ばされた。
軽い脳震盪を起こすが頭を振る。
血の混じった唾を吐き、矢が放たれてきて我に向かってきた。
バックステップで回避し、火球を放つ。
バラバラに散開して騎士に直撃した。
爆炎と煙が上がる。
煙の中から現れ、胸を袈裟に斬られてしまった。
男の剣捌きを弾きつつ、攻撃魔法を撃つ。
奴は笑いながらそれを弾いてみせた。
氷塊と雷の魔法陣を二つ同時に展開し、放つ。
ヒラリと回避し、剣を振って斬撃を飛ばす。
避けるも、翼の翼膜に傷がついた。
飛び上がって、背中に剣を深々と突き立てる。
激痛に悶えるも、歯を食いしばって耐えてみせる。
『ぐううぅぅっっ...!!!』
「安心してよ、心臓には到達させないからさ」
剣を引き抜き、鞘に収める。
地面に降りて、汚れや血の付いた服を手で払う。
カエルレウスと名乗った青年は手をひらひらと振って、そのまま彼女を攫ってしまう。
どくどくと脈打つ流血は翼膜を伝い地面に流れ落ちるがしばらくして傷口は塞がった。
◇
外壁に辿り着き、入れる場所がないか探しているが何処にもない。
舌打ちをし、万事休すかと思った時足音が聞こえた。
後ろを向くと、冒険者一同が立っている。
剣を持っている男は余裕そうな感じだ。
ハンマーを持っている大男は前に出て、大きく振りかぶった。
後ろに下がって前足で掴み、投げ飛ばした。
すると魔法使いが杖を突き付け、魔法陣を我の周りを囲む。
その直後、強烈な睡魔に襲われて地面に倒れ込んでしまった。
———目を開けると、そこは牢屋の中だ。
身体中に枷が付けられ、翼膜はフックに吊り下げられていた。
看守らしき人がやってきて、我を見つめて鼻で笑って見せた。
そこへもう一人の看守がやってきて駄弁っている。
「それにしてもこのドラゴン、冒険者達が捕まえたって?凄いよな」
「あぁ、今頃王都でのギルドで祝杯あげてるだろ」
「それにしてもカエルレウス様が捕まえたシュラークっていう女、今頃処刑されているのでは?」
「あぁ、確か殺人の疑いが掛けられていとか—」
その直後、魔力を高めて牢獄の一室を破壊し、二人の兵士を踏み潰して前足だけで廊下を進む。
物音が聞こえ数人の兵がやってきたが全員灰にしてやった。さらに進むと槍を持っている男が立ち塞がる。
「あ?なんだこのデカい爬虫類は」
『黙れ』
「おおっ怖っ、だがな?これも仕事なんだ。悪い事は言わねえからさっさと檻に戻れっ!」
床を蹴って突きの攻撃を取る。
だがタイミングよく弾いた瞬間、凄まじい衝撃が襲い掛かって男は吹き飛ばされるが華麗に着地した。
何が起こったという表情をして、繰り出したのは攻撃魔法だ。
全て弾いてゆっくりと進む、男は顔を歪ませていた。
近くに来て見下ろすが、まだ槍は手放さずにいた。
胴体を掴んで顔の近くまで寄せる。
『シュラークはどこにいるか言え』
「しっ、知らない!そんな女!」
口答えをするので腕を掴んで握り潰す。
絶叫が部屋に響き渡った。
もう一度質問をすると情報を吐いてくれた。
早く彼女を探して外に出ないとな…。
廊下を移動していると、広場には多くの群衆が群がっていた。
真ん中にはギロチン台が置かれており、その下には彼女が寝そべっていた。
即座に壁を破壊し、救い出す。
大勢の人は悲鳴をあげて逃げ惑っている。
もうここには用は無い。
◇
処刑場を更地にして、王都の中心部に来ていたがもう既に辺りは暗くなっていた。
人々が逃げ惑う中、勇敢な人達が立ち向かっていったが失敗に終わる。
宿屋に辿りついた後、豪快に屋根を引き剥がす。
彼女を床に下ろし、トランクケースも彼女に返した。
翼で目隠しをしつつ周囲を警戒する。
新しい服に着替えて声がかけられシュラークを背中に乗せて王都の中を探索することにした。




