修羅場を切り抜けよう!
き…気まずい…。
アベルたんのデレに浮かれてこっちを完全に忘れてました…。
公爵家の客室での応接セットに腰掛け、目の前には私の推しのシュタインさま。
本来ならここは天国かと思うかも知れないけど、空気が重い。
それもそのはず、私はうっかり推しの恋人を奪ってしまったからだ…。
うぅ、シュタインさま。私はそんなつもりじゃぁ…。
王宮からの帰り道、アベルたんは結局イヤーカフに気づいてくれなかったけど、部屋に戻る途中すれ違ったシュタインさまに目ざとく見つけられ、とりあえず人気のないところで話そうと思って今に至る。
どうしよう…。
とりあえず当たり障りのないことから…。
「シュタインさま、火事の際は魔法での補助、ありがとうございました。」
「…私のことはただのシュタインと。大聖女であるミモザ様に様付けで呼んでもらうなど恐れ多いことです。」
「ぴぇっ、私の方こそ恐れ多いです!シュタインさまは尊すぎてとても呼び捨てになんかできません!」
「公爵子息のアベル様のことは親しげにアベルたんと呼んでいるのにですか?」
「ぴぎぃ!」
思いっきり変な声出た!いきなりこんなジャブ打たれるなんて!
こちとら恋愛偏差値低いのに、修羅場は乗り切れません!
「…ぷっ。すみません、いじめすぎましたね。ミモザ様が呼びにくいようでしたらそのままで構いませんが、シュタイン呼びに慣れていただけると嬉しいです。」
推しの微笑み尊い…!
恋敵にすら優しいなんて、さっき減った心のHPが回復しました!
「火事の時の魔法は私は大したことはしていません。私の飛ばした水蒸気の量を増やして強風で火に叩きつけたのはミモザ様の魔法の実力です。
それに火元を作ったアベル様が火魔法を使うのをやめたから鎮火したのもあります。
そもそも私はアベル様の計画に乗っかっただけですので大したことは何もしていませんよ。」
推しが謙虚で尊い…!
「そんな事ないです!シュタイン様が近衛兵に潜り込んで、率先して私を守っていただけたからこそ、あの時ユヒト殿下を言い負かすことができたのです!」
「それもまたアベル様の策略ですよ。
それに良くも悪くも私はユヒト殿下との面識はありませんでしたしね。
身分的にも私位低くないと近衛に入るのは無理がありましたし。」
推しが謙虚すぐる…、いや待て、これはもしかしてノロケと嫌味なのか?
私が喪女すぎて嫌味に気づかなかっただけなのか…?
「シュタインさま、すみませんでしたーーーーーー!」
とりあえずソファーの横で日本人のお家芸の土下座を決める。
「ミモザ様!?」
目の前のシュタイン様はさすがに土下座にビビったようで、あたふたと私の体を起こしにかかる。
肩に少し強めに力が掛かるが気にしていられない。
この土下座で推しの許しを乞うのだ!!!
「ミモザ様、やめて下さい!」
「いえ、やめません!私など馬に蹴られて当然の行いをしてしまいました!」
「とにかく立ちましょう!床は汚いです!」
「いえ、公爵家の床は美しいです!」
「……お前ら何をしている?」
「アベルたん!」
「アベル様!」
「何でここに?」
「部屋の前を通りがかったらやたら賑やかでな。
気になってノックしてみたら返事もないし、不届き者が入っていても困るから覗いてみたら、まあ、この有様だ。」
「丁度良かったです!お二人にまとめて謝罪いたします。」
「全く状況が分からない。とりあえず椅子に座って落ち着いて話せ。」
「あ、アベルたんがやさしい。」
「うるさい、いいから早く座れ。」
仕方なく日本人の伝家の宝刀を引っ込めてソファーに座る。
シュタインさまも私とアベルたんの顔を見比べながらとまどいつつ席に座った。
アベルたんは呆れたようにため息をついて、ドアの外にいた次女にお茶を頼んでゆったりと席につく。
…解せぬ。
思わずジト目でアベルたんを見遣る。
「…何だ?」
「アベルたんの態度が落ち着き過ぎてる…。修羅場に慣れていません?」
「修羅場?何を言っている?…まさか、お前、まだ勘違いを?」
「改めて謝罪します!シュタインさまのアベルたんと知っていたのに、うっかり調子に乗ってこのようなイヤーカフをつけてしまいました。
身の程を弁えておりませんでした!
人様のものに手を出すなど人として道に反する行いであります!
お二人の輝かしい未来のために身をひく所存で…はっ!もしかして偽装結婚ですか!?でしたら最大限協力を…
「まてまてまて!」
アベルたんが頭痛を堪えるように手を頭に当てて、深くたため息をつく。
「アベル様、ミモザ様のおっしゃってる意味が全く分からないのですが…」
「理解しなくていい!このバカは俺とお前が愛し合っていると勘違いしてるらしい。」
「私とアベル様がですか?まさか、男同士ですよ?」
「そういう常識は良くも悪くもこいつには通じない。」
「え?まさかのBL展開ではないんですか?だって前にシュタインさまがネコって…」
「お前の言っている言葉の細かい意味は分からん。
なぜお前が勘違いをしたか知らんが、俺は男を恋愛対象にする趣味はない。」
「私も恋愛対象は女性ですよ。」
「えー、えー、えー、だとしても前のお二人の態度でてっきりそうだと…」
「お前が勝手に変な勘違いしただけだ。
俺が好きな女は決まっている。いいかげん気付け。」
突然のデレきたーーーー!
突然の事で反応できなくて言葉が出てこない。顔が熱くなる。
「…やはりお二人はそのようなご関係なのですね。」
「え!え!え!、いや、私たちはまだ何も…!」
「あ゛?お前ふざけんな。そのイヤーカフつけといて何でもないだと?」
「だって、常にツンのアベルたんのデレが見たくてつい!!」
「お前っ!何だその理由!!!」
「ぴえーーー!、そんな怒らなくても!」
「…なるほど、ではまだ私もチャンスがあるわけですね。」
「「え?」」
「状況は分かりました。今日はまだ仕事もありますのでここで失礼させて頂きます。」
シュタインさまはそう言ってきっちり礼をすると、私の手をとって甲に口づけを落とす。
「ミモザ様。また改めて伺います。次お会いするときはぜひシュタインとお呼び下さい。」
口元に笑みを浮かべながらそう言われて完全に固まる。
もう推しへの容量オーバーです…。やばい、鼻血でそう。
固まった私を見て微笑むと部屋から出ていく。
「…お前、どういうつもりだ?シュタインが変に調子づいたじゃないか!!」
「え!?私のせい?シュタインさまは推しなので不可抗力です!」
「はぁ?お前、ピンク頭ごときで俺を袖にするつもりか?」
「そんなつもりは全くありません!」
アベルたんは大きくため息をつくとこちらのソファーに近寄ってくると、ソファーの背もたれに片手をつけて私に凄んでくる。
「ひぅ!!」
間近で細められた目つきの悪い目に見つめられ、息が詰まる。
ときめかない壁ドンならぬ背もたれドンに背に冷や汗が落ちる。
「お前、覚悟しておけよ。半年後には婚約だ。」
そう言ったかいなや、アベルたんは顔を近づけてくる。
近過ぎて見えないタイミングで唇のわきに柔らかな感触を感じる。
これはもしかして…!ひぇぇ!
再び固まる私を尻目にアベルたんは腹黒スマイルを浮かべて部屋を出ていく。
とりあえず死亡ルートは回避できたみたいだけど、もう心臓が持ちません!!
ああ、もうこれ、あかんやつやーーー!
初めての拙い小説でしたが、最後まで読んで頂いてありがとうございました。
ブックマーク登録や評価、いいねもありがとうございました。反応が頂けるので小説を書く上でのモチベーションになりました。
エタりたくなる時もありましたが、無事完結できて良かったです。
次回作は未定ですが、7月頭からもう1作品書いていきたいと思います。
ご縁がありましたらまたよろしくお願いします。




