第一王子と面会しよう!
後半はリエト視点です。
アベルたんを横に侍従長の後をついて王宮の回廊を進む。
天井が高く、大理石の柱が立っている回廊を抜けると、王宮のなかではこじんまりとした、それでも十分立派なドアに突き当たった。
「あの、こちらは?」
「こちらは王子宮の温室になります。第一王子殿下はこちらでの謁見を希望しておりましたので、こちらへお進み下さい。」
仕立ての良い服を着た侍従長は90度に腰を曲げ、ドアを開けた。
眩い光が差し込むガラス張りの空間にはバラの花が咲き乱れて、道を囲むように生い茂っていた。
侍従長はそれ以上案内する気はないらしい。
とりあえず道らしきものを2人で辿って行くと華奢な柱の東屋があり、そこに置かれた白いテーブルと椅子に第一王子が座っていた。
「よく来た、ミモザ。こちらに来ると良い。」
第一王子はこちらに気づくとそう声を掛けた。
「第一王子殿下、本日は…」
「堅苦しいのはもう良い、アベルもミモザもこちらへ座れ。」
挨拶もそこそこに席をすすめられ、腰掛けると王子手ずから脇にあったティーセットで紅茶を注いで渡された。
「まずは一服、飲んでくれ。」
王子の様子を上目遣いで観察しながらティーカップに口をつける。
適当に注いでいたように見えたけど、香りがよく渋みもなくて美味しい。茶葉がいいのかもしれない。
ティーカップを置くと第一王子が口を開いた。
「ミモザは、本当に雰囲気が変わったな。
私は以前のギラギラとしたありとあらゆるものを求めているような強い瞳が好きだった。」
思わず口に含んでいた紅茶を吹きそうになった。
王子は肉食系女子がお好みでしたか…。
「リエト殿下も変わられましたね。
少し勢いが無くなったというか、憑き物が落ちたような…。」
よく言えば私の話す隙間ができるようになりました。言わないけど。
「そうかも知れないな。
私は何かを強く求めて生きる人間が好きでな。
以前のそなたや、ユヒトがそうだった。
ユヒトが蟄居になって、そなたもその様子だと淋しくてな。」
「リエト殿下はユヒト殿下と仲が良かったのですね。」
「ユヒトがどう思っているかは分からんが、少なくとも私は好ましく思っていた。
ユヒトが望むのなら王座もユヒトが手にすれば良いと思っていたな。」
「…そうだったのですね。」
「知っているとは思うが、私が正式に立太子することに決まった。
正直、私には国を治める大事な適性が欠けていると思う。
ミモザ、王太子妃となり、私に足りない部分を補ってはくれまいか?」
「え、嫌です。」
「…話を変えるが、そなたはこの国がどのような国であると望ましいか?」
「えーー?普通に生きられればそれでいいので、別にこのままで構わないです。
あ、王族への不敬罪とか怖いので、できれば身分差がもう少しマイルドになればいいなーとか。」
「…なるほど、分かった。
ミモザ、今まで苦労をかけたな。
アベルと幸せになると良い。」
こじれると思っていた別れ話があっさりと済んで肩透かしを食らった気分になる。
隣のアベルたんを見るとアベルたんも意外そうな顔をしている。
「この後すぐにローザスとも面会を控えている。
他に何か要件はあるか?」
「いえ、大丈夫です。」
「分かった、ではミモザ、息災でな。」
「はい、第一王子殿下も。」
第一王子の前を辞して出入り口に向かう。
「何だか思ってた反応と違いましたね。」
「だな。今回色々あって何か思うところがあったのか、良い変化だと良いのだが。」
「この後友梨愛さんも面会の予定を入れていたんですね。」
「だな。知らなかったが、姉様のことだ、正式に婚約を破棄するのかもしれない。」
「何かそんな感じがしますね。」
元きた回廊を2人で戻っていく。
会話が途切れて静かになると先日のことが思い出されてドキドキする。
アベルたんは今日私がピンクの髪の下に赤い石のイヤーカフをつけていることに気づくのだろうか。
ミモザ達と別れて温室で20分ほど待っていると入り口の方から土を踏む音が聞こえてきた。
銀の髪を揺らしながら歩く、長身の女性を見遣り、手を上げる。
「ローザス、こちらだ。」
「リエト殿下、ご機嫌よう。」
「ああ、とりあえずそちらに座ると良い。」
略式の礼をとって目の前の椅子に座らせる。
「先ほどまでそなたの弟とミモザが来ていた。」
「あら。まあ、大体の話の内容は察しますが。
リエト殿下はどうしますの?」
「ミモザにアベルと幸せになるよう伝えた。」
「…良いのですか?」
「ミモザは変わった。あれは私の好きだったミモザではない。」
「…そうなんですね。
そういえば、立太子の決定、おめでとうございます。」
「まあ、さほどめでたくもないがな。
ユヒトに譲るつもりでいたから途方に暮れているところだ。」
「まあ、そうでしたの?
でしたらその玉座、私に下さいません?」
「そなたに?何故だ?」
「私だって王族の血を引いていますわ。お婆さまは先王の妹ですし、5つ前のアインベルト公爵は王弟でしたわ。
それに、私、この国を変えたいんですの。
会社をやっていると色々思うところがありますの。この国は女性が働きにくいし、税金も高いし、だからと言ってその税が国民にあまり還元されていませんわ。
このままだと国内の商業や産業は衰退するばかり。それを変えたいんですの。」
「…なるほど。
なあ、ローザス。私と婚約し直さないか。
この2年ばかりのお前に対する態度は本当に申し訳なかった。許して欲しいとは言わない。
償いとなるか分からんが、私はお前が国を運営しやすように傀儡の王となろう。
ローザス、お前がやりたいようにこの国の運営をやってみるがいい。」
「…良いのですか?」
「ああ、今まで気づかなかったが、お前の瞳もおもしろそうだ。」
「まあ、光栄ですわ。でも、どうしましょう。
私、あなたのことは手間のかかる弟のようにしか思えませんわ。」
「まあ、問題なかろう。
一緒にいることが退屈でないのなら何とかなるだろう?」
「確かに退屈はしなさそうですわ。イライラはするかもしれませんが。」
「ローザスは手厳しいな。改めてよろしく頼む、ローザス。」
手を差し出すと、ローザスはにやりと微笑み、強く手を握り返してくる。
「こちらこそ。後悔しても遅いですからね。」
強く輝く瞳に、これでしばらくは楽しめそうだと思う。




