Side リエト
生きることはひどく億劫だった。
飢えることも、凍えることもなく、一般的には恵まれているのだろう。
幼い時から求めるよりも前に全てあたえられていていたのに、自由は無かった。
しかし、特に自由を得たいと思うことも無かった。
4歳になる年に、同い年だという弟に出会った。
自分と同じ金の髪を持った利発そうな少年だった。
私は彼、ユヒトと一緒に家庭教師にからの授業を受けることになったのだ。
ユヒトは目をキラキラさせながら授業を受けて、一心不乱に打ち込んでいるように見えた。
好きこそものの上手なれとはよく言ったもので、ユヒトは私よりも覚えが良かった。
何かの本で下の兄弟をよく褒めると良いと読んだ気がするので誉めてみると、何とも微妙な表情をされた。
褒め方がよくなかったのかもしれない。
一心に授業に取り組む弟を見ているのは不思議と面白かった。
自分にはここまでの熱意で取り組めるものはない。
それが分かっていたからこそ、一所懸命に取り組める弟の姿は新鮮だったのだ。
自分も何か夢中になれることはないかと、絵や音楽、文学にも手を出してみたけど、特に興味を引かれることはなかった。
6歳の時、ユヒトの母親が死んだ。
母がユヒトの養母となったが、母は授業からユヒトを抜こうとした。
正直、授業よりもユヒトが取り組む様を見たかった私は、一緒に授業を受けられるよう騒ぎ立てたところ、一緒に受けられる希望がかなった。
ユヒトは以前と比べるとさらにギラギラした必死そうな、意欲的な瞳で授業に取り組むようになった。
それは非常におもしろかった。
時期を同じくして婚約者が決まった。
筆頭公爵家の令嬢である、ローザス・アインベルトだ。
初めて会った時、彼女は非常に理知的で落ち着いた態度だった。
それはとても退屈に感じた。
しかし、国母とはこのようなものだろう。勉強熱心で頭の良い彼女なら良い王妃となるだろう。
私の興味の持てるもの探しは続いていたが、それに対して苦言を呈してくるのには辟易したが、ユヒトが彼女を授業と同じように熱心な瞳で見ているのが面白くてそのまま婚約者の地位にいてもらった。
そのまま漫然と毎日が過ぎ、学園に入学した。
入学してすぐの事件をきっかけに私は1人の少女と出会った。
稀有な聖魔法への適性を持つ、ミモザという少女だった。
彼女もまた、弟のような飢えたような瞳を持っていた。
物欲しそうな瞳で何かをねだられるたび、ついそれに答えてしまう。
希望を叶えても何一つ満足する事のない瞳を持つ彼女は非常に興味深かった。
時を同じくしてユヒトも飢えた瞳で接してくることが増えた。
ユヒトは何か物をねだるのではなく、私にこうして欲しいという要望を遠回しに伝えてきた。
それはローザスに冷たく接することだったり、私が授業を放棄することだったり、ミモザと遊ぶことだったりだ。
これらの事がユヒトにとってどんな利のあることかは知らないが、簡単にできることだったので従ってみた。
そうして卒業パーティーの直前、ユヒトはローザスがミモザをいじめたという出来の悪い証拠を信じてローザスと婚約破棄するよう助言してきた。
いつにも増してギラギラと輝く瞳に、ユヒトが求めていたものを理解した。
王座など、求める者がつけばいい。
王座を手にしたユヒトを見たくて、つい、協力しようと思ってしまった。
結果としては予想外の連続で婚約破棄はできなかった。
卒業パーティーで違和感を感じていたミモザは公爵家に引き取られた。
ミモザに無理やり会いに行ったら以前のギラギラした雰囲気はなりを潜めていた。
ローザスの仕業なのか?
急な変化に戸惑ったが、まだ戻るかもしれない。
一縷の望みをかけて色々アプローチしたが、以前のミモザの瞳に戻ることは無かった。
ついにはあれだけ欲しがっていた豪華な衣装を返し、穏やかな瞳で愛する人を見つけたなどという。
色々言ってみたが、ミモザは穏やかな目をしたままだった。
それはひどくつまらない展開だと思った。
それでもユヒトはギラついた瞳で、国宝の剣を持ってアベルと戦えという。
もうその瞳で私に接するのはお前だけだ。
ユヒトの願いを叶えたいと思う。
ドアから鍵の開く音がして部屋から出ても良いと父から告げられた。
ユヒトはどうしているのか訊くと、今度はユヒトが自室で謹慎しているらしい。
全く状況が掴めなくて混乱する。
なぜユヒトが謹慎しているのだろうか?
混乱する私に父が告げる。
「半年後、お前が立太子する事に決まった。」
ああ、それはひどく億劫だ。




