Side アベル5
王宮から公爵邸の自室に戻り、とりあえず公爵邸の客間に顔を出す。
客間のドアをノックすると、はーいと気の抜けた返事が返って来て、ピンクの頭が顔を出す。
「とりあえず一通りのことは片付いたから話がしたいんだが、今いいか?」
「はい!大丈夫です!」
ピンク頭は部屋にいた侍女にいお茶を入れるよういうと、客間の応接テーブルへと案内した。
小ぶりな1人掛けソファーに腰を落とすと、思わず深いため息が出る。
「アベルたん、お疲れですね。
もう少しお城に行かなきゃですか?」
「いや、もうあらかた片付いた。
今日はその報告をしようかと思ってここに来た。
お前は暇を持て余してないか?」
「いえ、昼間は教会でのお仕事もありますし、公爵家はご飯もおやつも美味しいし、毎日が充実しています。
友梨愛さんが忙しそうで、会えないのだけ寂しいです。」
「まあ、姉様は会社の事とか色々あるんだろう。」
そこに侍女が紅茶を持ってきて注いでいく。
あまり他人に聞かせる内容でもないので一旦口をつぐんで、侍女が部屋から出ていくのを見送って口を開く。
「第二王子の処遇が正式に決まった。」
ピンク頭が居住いを正して背筋を伸ばす。
「ここ一月、自室での謹慎を命じられていたが、来月に一代限りの子爵位と北の王領が下賜され、そこを治めることが決まった。」
「?それって実刑などはないということですか?」
とぼけた返答に胡乱な目でピンク頭を睨んでしまう。
「バカか?現王の実子で子爵など異例中の異例だ。
普通は新たに公爵家を作るか、国内外の王族や高位貴族に婿入りするのが普通だ。
しかも一代限りとは、例え子が出来ても、子は貴族とはならいということだ。
実質的に婚姻が禁じられたに等しい。
さらに与えられる領地が王領の一部とはいえ、北の所領だ。
北の所領はめぼしい産業もなく、農業にも不向きな土地柄で、そのため治めるたがる貴族が居なくて仕方なく王領となっていた土地だ。
北の所領の領主館で実質的な蟄居をしろということだろう。」
「へー」
「まあ、今回は処罰の対象は妾腹といえども王族だ。
しかも第二王子への民衆への反発が強くて処罰せざるを得なかったが、証人があるのは第一王子のオリハルコンの剣の持ち出しをできるよう政務官に圧力を掛けたことと、お前の聖女認定の妨害工作のみだから、この処分が最大限だと思う。
蟄居や婚姻の禁止も明文化していないだけ王の実子への配慮が伺えるな。」
「まあ、言うてもこちらもだいぶ捏造というか、妄想をゴリ押ししましたからね。」
「妄想だろうが何だろうが大衆に信じさせればこちらの勝ちだ。
証拠がないのはどちらも同じだ。」
「アベルたん、腹黒。」
「まあ、お前が守備よく大聖女として認められたのが大きいな。」
「本当それですよね。
てっきり5つの聖魔法全てが使えないといけないと思い込んでいたから、前聖女が使えた聖魔法が3つだとか、たとえ使える聖魔法が1つでもきちんと訓練すれば聖女として認められてたとか知りませんでしたし。
しかも1000年前の文献なんて、えるるんはよく調べましたね。」
「そんな訳ないだろ。」
「え?」
「ミヒャエル殿には過去に5つの聖魔法が使えた聖女がいた時代の経典のなかで、加筆が出来そうな経典を調べてもらってこっそり書き加えただけだ。
ソエボ大神官の経典は、経典とは名ばかりの日記のようなものだったと聞いている。」
「ええ!?それまずいんじゃない!?」
「バレなければ問題ない。」
「…もうヤダ。」
「まあ、うまく行ったんだからいいだろう。
あとは姉様の結婚の件はとりあえず今回の第二王子の不祥事を受けて保留となったし、第一王子は国宝破損による謹慎もとけて、この冬に立太子することが決まった。
まあ、第二王子がああなった以上第一王子しか王位を継げないからな。」
「ふーん。…ねえ、私、どこかで第一王子と話せないかな?」
「…お前の能力を使って好きに会いにいったらいいだろう?」
「私、王宮の配置良く分からないし、迷いそう。」
理由は迷子なのか…。
「まあいい、来週までにどこかで機会を設けよう。」
「うん、お願いします。」
「…あとこれ、つけておけ。」
「…?」
ピンク頭にベルベット生地の小箱をなげて渡す。
不思議そうに受け取ったピンク頭が中を開くと赤い宝石のついたイヤーカフが入っている。
「こっ、こここっ、これ!!」
ピンク頭の顔が火が出るように赤くなって、挙動不審になる。
その反応をみて内心ほくそ笑む。
「…つけて置くんだぞ。」
「はっ、はひ!」
こちらを凝視してくる金の瞳に耐えられなくて、誤魔化すように部屋をでる。
貴族では一般的ではないが、この国の平民には婚約したらお互いの瞳の色の石のついたイヤーカフをつける文化がある。
ドアを閉めてドアにもたれかかる。
顔に熱が集まってる自覚がある。
我ながららしくないことをしてしまった。
少し熱を冷ましてから戻ろうと思ってると部屋の中から声が聞こえる。
「…やばい…、アベルたんのデレについていけない…。てか、アベルたんのみみみっ、みみにっ、ぴえーーー!」
思わず右耳に付けている金の石のイヤーカフに触れる。
くそ、めざといやつめ…。
思わずドアの前にへたり込む。
顔に集まった熱はまだ引きそうにない。




