階段を登るということ
「ヤナ! コウヤだけじゃなく、シラユキまで……どうなっちゃうのよ!?」
悪神を降ろしていた魔族は、完全に崩れ去る直前、シラユキを黒の球体に捕らえた。これで巫女達は、全員が悪神に捕らえている状況になった。更に事態を落ち着かせてくれないのが、瘴気を纏いこちらに攻撃を放ってくるコウヤと、上空で今も激しく戦闘している二体の古代竜だった。
「アリス、少し落ち着け。ルイ、アリスが落ち着くまでフォローしてやってくれ。エイダ、今からヤナビに身体を創るから、二人で連携してコウヤを相手にしてくれ」
俺は皆にそう告げると、神火の式神によりヤナビに身体を創り、その身体にサングラスをかけた。
「……今から少し女神と話しをする! 少しの間、コウヤの相手をしておいてくれ!」
「マスター、マスター。ほらほら、背徳的感じに仕上げたシスターになってみましたよ?」
「やかましいわ! せっかく無視してんだから、構ってもらいに来るな! しかも仮にも神の分体が、そんなもんになるんじゃねぇ!」
「え!? コレも、マスターのご友人から借り……」
「コウヤ! もっと攻撃カモォオオン! こいつに無駄口吐かせる暇を与えないでぇええ!」
そして俺の願いが届いたのか、コウヤからの攻撃は激しさを増し、ヤナビは俺を構う暇がなくなると判断し戦前に飛び出していった。
「『なぁ、アレってお前の分体だろ? なんとかしろよ、お前にそっくりのポンコツじゃねぇか』」
俺は神殺しの刀である『天』『地』を睨みつけながら、そう念話で問いかけた。
『アレは既に私の分体とは言えないから、責任なんて持てないわね。って、普通に私に話しかけてきたけど、バレちゃったかぁ』
ちょっとしたイタズラがバレたみたいな感じを出してくるが、そんな駄女神に構ってやるほど俺は優しくない。むしろイラッとくるから、女神だろうとしばきたい。
『縛りたい!?』
「『あぁああ! もう嫌だぁあああ! 呪いか!? これって何かの呪いか!? 神なんてクソばっかだ!』」
『いやいやいや、そんなやっ君もほぼ神みたいなもんだからね? むしろ肉体を持ったまま神に至ろうとしてる時点で、よっぽど変態だからね?』
「『嫌ぁあああ!?』」
俺は、再び絶望淵に立たされた。俺の心が折れかけいると、やけに冷静な声が聞こえてきた。
"割と余裕あるわね、あんた……悪神は取り敢えず去ったみたいだけど、セアラ様達が捕まってるのわかってる?"
"戦場で余裕を持てるのは、大事な事だが、度がすぎると油断となるぞ"
「『その声は……カヤミ! ディアナ!』」
俺は手に持つ刀から直接頭に響いてくる二人の声に、喜び強く柄を握りしめた。
"あん……そんなに強く握られたら……"
"いきなりそんなところを……ん……あぁ……"
「まともな奴は、何処にいるんだよぉおおお!?」
信じられるのは、もはや己のみかと女神を無視して動こうとすると、先程よりは多少はマシな口調で俺に女神が話しかけてきた。
『それだけ元気になれば、大丈夫ね』
「『今のやり取りで、かなり疲れたが?』」
『今、巫女達を捕らえているのは、簒奪神に嘗て奪われた最初の巫女達の成れの果て……彼女達は、瘴気に侵されながらもこの世界を護る為に、簒奪神を封印している神界を創り出す術の要石として存在し続けている。だから、封印術を解除しない限り、例え打ち倒されても滅びる事なく存在し続けるの。だから、瘴気に侵された彼女達は、世界を護ると同時に、世界を奪う瘴気を撒き散らす装置として利用されてしまった……』
「『……俺の文句は無視か。やっと真面目に話し始めたと思ったら、やたら重い話をしやがって』」
突然、真面目に話し始める女神にイラつきながらも、女神の話す内容はしっかりと聞いていた。その残酷すぎる事実に、何を想えば良いのか分からない程に、かつての巫女達が憐れだったのだ。
「『ならば要石の巫女である魔王を完全に滅ぼすには、封印術を解除しなければならないが、解除すれば悪神が復活するってか……しかも、魔王は本来五体いた筈なのに、四体を大っぴらにして、一体はこれまで隠して瘴気拡散の保険としたってところか?』」
『それもあるかもしれないけど、一体は絶え間なく封印神界に対して外部から瘴気で侵食してきたのでしょう。要石の巫女達の身体を奪われた時点で不完全になった封印術を、外部からと内部から瘴気による侵食を進めてきたとしか考えられない』」
「『で、その最後の一体はあっさりシラユキを捕らえる為にお披露目したって事は……』」
『既に封印術は、いつでも破られる状況にあるのかもしれない』
「『遊んでやがるって事か、クソ神が考えそうなこった。で、あんたはクソ神が遊んでる隙にもう一度巫女達を使って封印術をやるために、潜んでやがったって訳か。本当に、神なんて碌な奴がいねぇ』」
『神なんてものは、そんなものですよ。特に私の様な、世界を維持し発展させる事が存在意義である管理神は、一個の生命体の生き死により世界を優先させます。これは、管理神の本能とも言えます』
「『管理神の本能ねぇ……はぁ、だが前と同じ事をすれば、同じ結果になるだけだろ』」
女神の声は、何処か寂しさを滲ませていた。どんな経緯でこいつが管理神なったか俺は知らないし、特に聞く気もない。だが、それでも……こんな駄女神でも、楽にしてやりたいと何処か思ってしまう自分は、本当にどうしようもなく甘いのだろう。
『その通りです。ですので今回は、要石の巫女に加え、私の神格を術の中心に定めて発動させます。流石に、神格を術の中心の要とした封印術であれば、完全な状態の術を完成させる事が出来るでしょう。その後の世界の管理については、あそこで嬉々として嗤いながら、私の勇者に襲いかかってる分体が役目を果たす手筈です』
「『今度は自分自身も巻き込んでってか……で、それを聞いた俺がどうするかは、分かってるのか?』」
『そうですね、大体は見当が付いてますよ。だから貴方が簒奪神に敗れる時の為に、隠れていたのですから……管理神が世界の存続を一人の人間に預ける訳にはいかないのですよ。ただ、期待はしています。だから、各国の多くの民が犠牲になると分かっていても、貴方の力を他人を護る事ではなく、神を討つことに集中させたのですから』
各国首脳陣の態度は、無理矢理に俺を神殺しに専念させる為だったと明かされたが、何処かそんな気がしてなくもなかった俺は、大して驚く事もなかった。
だが、どこか気に食わない。
管理神が一人の男に、自身の存在意義すらも賭ける等ありはしない。そんな事は分かってる。
現に今も、仲間を目の前で殺され、捕らえられ、奪われた。ヒーローになったと何処か勘違いしていた駄目な男。
それが俺だ。
子供が持つ様な英雄願望を、今も持ち続けるただの凡人。
それでも、俺にはどうしても動かずにはいられない時がある。
「『自分の神核を使ったあんたは、どうなるんだ?』」
『単なる封印術の装置として、永遠と存在し続けるだけです。意識もなく、ただただ存在するだけの要石。ただそれは、貴方に同情されるものではありません。それが管理神としての役割なので……』
「『同情なんてする訳ねえだろ! 巫女達も巻き込んで、同じ目に合わせようとしている神なんぞに!』」
『……ふふ、そうですね』
それでも、俺は許せない事がある。
「『笑えねぇんだよ!』」
『……は?』
「『管理神の役割? 管理神の使命? 本能? 知るかそんなもん! 体良く諦めてるだけじゃねぇか! 完全なる封印? 敵が同じ神である時点で、"完全"なんてあるかよ! それが分かってるから、そんな声してんだろ! 俺の大嫌いな諦めや絶望が、あんたの声から伝わってくるんだよ、胸糞悪い。何が俺には期待しているだ……俺が死んだら、自分が死んで尻拭いをしますなんてのを、俺が許す訳ねえだろが!』」
『そ、そんな事を言っても、私は管理神であり、この世界を護る女神なのよ! 神とは、そういうものなのよ!』
「『神神神とうるせぇな。なんで神が一番、この世界に縛られてるんだよ。あんたはこの世界の奴隷か? 道具か? 本当にただの管理装置なのか? 俺はそう見えないぞ?』」
「『何を言って……』」
「『俺は、あんたと悪神しか神と言う奴を知らない。それに自分自身が神になろうとしていると言われた訳だが、怒り悲しみ、苦しみ妬み。結局、力があるというだけであんたら神だって俺らと何が違うんだよ。俺は例え神になったとしても、神に縛られる事なんて御免だね。俺には、力を持った只の女にしか見えないあんたが、俺の目の前で命を捧げて世界を護ると言う』」
悲劇は好きか?
俺は嫌いだ
「『あんた、俺の正妻だとのたまったな?』」
『え? あ、うん。だって……前に求婚されたし? 私の世界を護ってくれるって、本気で思ってくれてるの格好良いし? 勢いとノリって大事だし? なんだかんだ私って、チョロいし?』
「『女神がチョロくて、どうするんだよ……で、今もそれは変わらないのか?』」
『あ、うん。面と向かって、確認されると照れちゃうけど……変わらないかなぁ』
「『そうか……分かった。なら、それで良い』」
『……は? え!? 良いの!? 押掛け女房じゃなくて!? 相思相愛パターンで!?』
「『あぁ。ライを奪おうとしたことは、水に流してやる。俺の力でなんとかなった上に、あの状況なら言動はムカついたが、結局ライへの影響は避けられなかっただろうからな』」
「『やっ君……』」
だから無理矢理にでも、俺はハッピーエンドを目指す
「『だから、何者にもクリエラを奪わせねぇ。この世界にもだ! クリエラは、俺の妻だと言った。そして俺が、それを認めた。これでクリエラは管理神である前に、俺の妻だ。俺の妻なら、俺に全てを賭けろ。出来るだろう? 俺の正妻を名乗るなら』」
『な……私は管理神……の前に、やっ君の正妻……!? 愛する夫を信じないで、正妻を名乗れはしないと言うのね!?』
「『そうだ。だから、封印する事に命を賭けるぐらいなら。俺に、クリエラの命を賭けろ。クリエラの大事なものは、俺が護ってやる。悪神を滅ぼす為に、俺に全てを賭けろ!』」
『……神としては、これからすることは失格……だけど、妻としては正解。やっ君に、世界の管理権限以外の力を譲渡するわ。これで封印術を発動する力でもなくなる……世界の存続を、貴方に背負える?』
「『自分が選んだ男を、信じるんだな』」
『そうね……ならば、ヤルことは一つよ』
「『あぁ、力を俺に譲渡し……が!? 意識が……!?』」
女神クリエラが、自分の力を俺に譲渡する事を決断した瞬間、唐突に俺の意識が遠のいていった。これが神の力を譲渡される衝撃なのだろうと、この時の俺は思っていました。
「……え? あれ? ベッド? んひゃ!?」
"此処は、私の神核の中。やっ君に私の力を譲渡するために、貴方の神核と繋げた世界。此処の時間の流れは多少はないの。さぁ、合意はとったきとだし、ヤルことやって蕩けて混ざって一つになりましょう"
ベッドに押し倒されている俺に覆い被さる女神クリエラの目は、肉食獣の目だった。
「……マジ?」
"マジ"
「本当は、必要ないとかは?」
"ガチで必要"
「……これは、その……別ベクトルで心の準備とか、純情とか、時間か無いし、その他諸々の……」
"大丈夫、さっきも言った通り、多少時間の流れが違うから"
「ってことは……?」
"好きなだけ頂けまぁあああす!"
「ひやぁあああ!?」
神の力の譲渡方法は……予想の斜め上でした。
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





