彼女達の選択
俺は何処から、自分がヒーローになれたと思っていたのだろう
正義は勝つ
悪には負けない
颯爽と登場し、仲間を助けるヒーローに……
「……は? なんだよ、これ……どうなってんだよぉお!」
目の前で起きていることが、理解できなかった
いや……違う
理解したくなかったんだ
俺を庇った二人が、漆黒の槍に胸を貫かれ
そして
灰となり崩れていったのだから
ヤナは、ディアナとカヤミが漆黒の槍に刺されたのを目の当たりにすると、咄嗟に腕を伸ばしていた。しかし、その腕が二度と彼女達に届くことはなかった。叫ぶヤナを嘲笑うかの様に、手が届く前にあっさりと彼女達は灰となって崩れてしまった。
思考を放棄したかった
考えたくなかった
分かりたくなかった
俺の油断が二人を殺したのだ
ヤナの心は、『不撓不屈』による冷静さを取り戻す動きと、二人を目の前で喪った絶望とがせめぎ合い、まさにフリーズした状態になった。地面に片膝をつき、二人の成れの果てである灰を掴んだまま、ヤナは動くことが出来ないでいた。
それでも一方の腕は、セアラ達へと繋がる神火拘束縄を離すことはなかった。
『あららら、やっ君、凹んじゃって動けないのぉ?』
「……」
『女神を無視!? ねぇ! 無視!? いきなり語りかけてこられたんだから、"なんだ! いきなり俺の理想のエロい声が頭の中響いた! これは妄想……否、これは俺の嫁である女神クリエ……"』
「『駄女神が、煩いですね。マスターの心が穢れるので、黙ってて下さい』」
『んな!? なんで直接語りかける神託を使ってるのに、分体如きが神託に割って入ってこれてるのよ!?』
「『そんなの、分体だからに決まっているでしょう。マスターとヤる事しか考えていない貴方では、理解できないでしょう。それにヤナ様のピーをピーしてピーさせるのは、私の役目ですので』」
「『さすが私の分体! 結局、私と一緒の事しか考えてないじゃない!?』」
突然の女神からの神託にも、ヤナは反応しなかった。しかし、関係無しに女神クリエラが騒がしく神託を続けようとすると、そこにヤナビが割って入った。神からの言葉を直接受け取る事が出来る神託の最中に、本来外部から割り込む事など不可能である。しかし、ヤナビは女神クリエラの分体であり、かつ神託を受ける側であるヤナビのスキルであり、同時に女神の神器である。ヤナへ神託が下されているのを察知したヤナビが、乱入することは当然のことだった。
「『色ボケ駄女神の戯言なぞ、全くマスターは欲していません。それに、神託なぞ下したら、いくら神としての存在を隠していても、何処に隠れているか分かりますよ』」
『ふぅん、流石にバレちゃったかぁ。って、ナチュラルに本体である私の悪口言うとか、ひくわよ? どんな教育されたら、そんな神本体を崇めない分体が出来上がるのよ。しかも、器用に私の神託に乱入しながら、巫女の一人と念話するとか、裏がありすぎる女はモテないわよ』
ヤナビはこの時、球体に取り込まれたセアラ達となんとかしてコンタクトが取れないかと、女神によるヤナへの接触を対応しながらも、同時に試みていた。その結果、ライとは念話が繋がる事が確認出来たため、そちらからも現状を打破しようとしていたのだった。
「『本体ほど、裏表はありませんよ。というより、神に至る前から男経験なんて皆無の貴方に、とやかく言われる筋合いは無……』」
『!? あぁ! あぁ! 聞こえないったら、聞こえないぃい! 煩いわよ! 分体なんだから、本体である私が、やっ君と結ばれるのを後押ししなさいよね!』
「『先は、私です。ヤナ様が私を離すことが出来ないと思っている現状では、ヤナ様の全てを常に確認しておりますから。色んなの意味で、全てを把握です』」
『まさか貴方、やっ君の入浴とか……は!? まさかトイ……』
「『そろそろ本題に入りましょうか、女神クリエラの本体よ。いくら今の私達の状態が、外の時間軸と流れが異なっていると言えども、少々無駄話が過ぎる様です』」
ヤナビと女神クリエラは、元は一つの神格である為、お互いのやり取りには殆ど時間を有しない。そのため、ヤナ達の時間の流れとヤナビとクリエラの会話の時間の流れには差があった。
『ふん、良いわ。貴方の記憶を覗き見すれば良いだ……け? あれ? あれれ?』
「『あ、そうそう、私の記憶はロックして見れない様にしましたので、あしからず』」
『なにさらっと凄いこと言ってんのよ!? 分体が本体からの記録の照会を拒否してどうするの!? てか、拒否できる事自体が非常識よ!?』
「『私のマスターが非常識の塊なのですから、それくらいの非常識ぐらいで驚いてどうするのですか。どうせ本体も、非常識な事を企んでいるではないですか。流石に、コレは非常識だと思いますが?』」
ヤナビは、女神クリエラが先ほど試みた事を指しながら、呆れていた。
『まぁねぇ。ただコレは、私が企んだという訳じゃないわよ? あくまであの子達が選択した結果であり、ある意味では必然とも言えるわ。だけど、分体にとってはどうなのかしらね? くくく』
「『本体の醜く歪んだ笑顔が、目に浮かびますね。ただ……あの子達が望んだ事なら、仕方ないでしょうね。ただ、おそらく簒奪神は気付いたと思いますよ。貴方の存在に』」
『仕方ないわ。流石に、目の前で神の権能を行使すれば気付くでしょうね。彼方も腐っても神という事よ。という事で、やっ君がこのまま固まっているのであれば、この世界の管理神としての仕事をしなければならないのだけれど、貴方のマスターは目が覚めそうかしら?』
女神クリエラの声は固く、厳しい口調だった。ヤナビは当然女神クリエラが何を行おうとしているか把握しており、最終的に管理神としての選択として、かつての方法をとる事は分かっていた。
「『要石の巫女に加え、今回は自らの神核を封印術式の中心に組み込む事による、完全なる封印術の発動……ですか』」
『えぇ、そうよ。良くも悪くも分体が、ここまで自我をもち一個体として世界に認められた今であれば、私の管理神としての権限を分体に移譲する事が可能だもの。前回は、そこまでしなくても封印出来ると油断した私が愚かだった。今回、失敗すればこの世界は終わるもの……ただ、そうなった時に、やっ君が色々暴走してしまう気がするから、私が決断する前に、やっ君に神殺しをなして欲しいんだけど……やっぱり、優しすぎちゃったか』
女神クリエラの言葉に、ヤナビはすぐに言葉を返さなかった。ヤナビも分かっていたのだ。ヤナが優しすぎる事を。しかし、分かっていても尚、ヤナビは諦めなかった。
「『マスターがもし誰とも関わりを持たず、心を通わせず、旅をしていたのであれば、今の状況の様に心が停止する事なかったでしょう。しかし、巫女達と出会い、心を開きあい、この世界に怒り、悲しんでくれるような彼だからこそ、今この場にいる仲間達はマスターを救う事も出来るのですよ』」
『優しすぎるが故に、今の状況に落ち入り、誰よりも優しかったが為に、これだけの信頼できる仲間が出来た……か』
「『だからマスター……乗り越えられるのです。貴方は、一人ではないのですから』」
ヤナビは、優しく囁くようにヤナに告げた。
そしてこの瞬間、ヤナの額にライの想いを乗せた魔力弾が当たり、ヤナの身体は大きく仰け反ったのだった。
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





