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カウントダウン

 自分の意思が塗り潰される


 まるで自分の意思のように感じながらも、これ(・・)は私の感情ではない



 怒り


 苦しみ


 哀しみ


 そして


 絶望



 突然、私の心は制御を失った。この世界の敵である悪神の言葉に、暴走と言って良い状態になったのだ。視界も狭くなり、ただ一点しか見える状態になかった。そしてその目標である悪神に向かって、ただただ一直線に走り出してしまった。


 そして私はあっさりと、悪神の手に落ちてしまった。ただただ、目の前の悪神のみに敵意を漲らせ、それ以外は全く気にならなかった。



 だからだろう。



 私は見ていたのにも関わらず、その時は何も感じる事がなかったのだ。


 ヤナ君に向かって瘴気に染まる漆黒の槍が投げられたというのに、私の目線は悪神から外れることはなかった。


 ただひたすらに、力任せに暴れようと無理やり片腕を、瘴気による拘束から解き、悪神に向かって魔法を放とうと腕を振り上げた時だった。自分の腕に、いつの間にか縄が巻かれていた。


「……あったかい……な」


 腕に巻きついている縄は、とても温かく、その温もりは私の身体全体へと広がっていった。身体全体が淡い火に覆われたというのに、全く怖さがなかったのは分かっていたからだろう。


 これは神火であり、ヤナ君に優しさを形にしたような温もりだと。


 私を拘束していた瘴気は、神火により浄化され、私が自由になった瞬間に、すぐ近くで声が聞こえた。それは、本当に彼の様に力強い言葉だった。


「シラユキ姉は、返してもらうよ。クソ神野郎」


 ライちゃんは私の腕に巻きついていた縄を引っ張り、私を魔族の側から引き離すと同時に、私に目を向けてきた。その目線の意図を汲んだ私は、すぐさま悪神に対しスキルを放った。


「『剣火乱舞』!」


 至近距離からの剣撃の乱れ突きに対して、悪神は嗤いながら手をこちらへかざすと、障壁の様なものを展開した。その障壁に私の剣撃が衝突した際の衝撃を利用し、その場所からの離脱を試みた。


『逃げられたか……なら、代わりにこっちを戴こうかなっと』


「こっち? な!? ライちゃん!?」


 魔族から発せられる悪神の言葉が、何を指すのか血だらけのライちゃんを見た瞬間に悟った。それと同時に、魔族の身体から先ほどまで私を拘束していた瘴気の腕が、ライちゃんに向かって伸びていた。ライちゃんは、自分が狙われている事がわかっていながらも、身体が思う様に動いておらず、間違いなく瘴気の腕を躱せそうになかった。


「させるわけないだろう! 『勇者の盾』!」


「コウヤ!」


 コウヤがライちゃんを抱えながら、瘴気の腕と自分の間に、巨大な盾を創り出していた。


「シラユキさんは、早くヤナの所に! エイダさん! アリス! 弾幕で援護を! ルイ! そこからライちゃんの回復を頼んだ!」


 コウヤの言葉の声に全員がすぐさま反応し、エイダさんとアリスが魔法の多重発動により悪神を足止めしている隙に、私はヤナ君の元へと向かった。


「コウヤ君、いっくよぉお! 『聖癒砲』!」


 ヤナ君の隣で彼を支えていたルイが、ライちゃんに右腕を向け詠唱を唱えると、手の平からまるでレーザー砲の様な回復魔法が放たれた。すぐさまライちゃんに命中するとみるみるうちに彼女の傷が癒えていくのが見え、私は安心した。


 そして私が、ヤナ君の元へと辿り着いた瞬間だった。


「コウヤ様! 狙われているのは、貴方です! 勇者の盾の発動を、今すぐ止めてください!」


「コウヤ!?」


 エイダさんの焦る声が聞こえると同時に、私もコウヤの名を叫んでいた。何故なら、コウヤが発現させた勇者の盾が、黒い血管が浮き出ているかの様に変容し始めていたからだった。


「ぐ……やめ……やめろ……そんなこと……やめ……て……嫌ぁぁあああ!」


『ふふふ……そうそう、君は自分の闇を克服なんか出来ていないのさ。僕が言った"代わり"は、【全てを護る者】のさ』


「ラ……ライちゃ……僕から……離れろぉおお!」


「きゃああ!?」


「ライちゃん!? コウヤ!?」


 コウヤの身体から魔力が爆発するかのように放出されると、その爆発により至近距離にいたライちゃんが吹き飛ばされてしまった。


『これでお終いだと思った? そんな訳はないよねぇ?』


 悪神の底意地の悪い声が、聞こえたかと思うと、黒い球体から無数の手がライちゃんに向かって一瞬にして伸びていた。


「ライちゃん! 間に合わな……え?」


 コウヤに吹き飛ばされ、体勢が整わないうちに襲われたライちゃんは、瞬く間に黒い手に捕獲されてしまった。口も塞がれ詠唱も封じられていた。私に加えエイダさんとアリスもライちゃんを助けるために一斉に動いたが、ライちゃんはそんな私達に向かって強い目を返した。


 そして、抵抗する時間を使い、何かをヤナ君に向かって投げたのが見えた。それは魔力弾のように見えたが、その直後にライちゃんは黒い球体に飲み込まれた。


 そして、ライちゃんが投げた光る球は、ヤナ君の額に当たったのだった。


『やれやれ、まさか瘴気で隔絶された空間から出てこられる力を持っているとはね。ただ、さっきと何か変わったかな? ねぇ? 何か状況は良くなったかな? 異世界の巫女を取り戻した代わりに、異世界の勇者がコッチに来ちゃったよぉ? あははははは!」


 ライちゃんがヤナ君に何をしたのか考える暇なく、悪神は私たちに向かって挑発を行ってきた。怒りと焦りが私達の中に広がり始めると、更に事態を悪神は動かしに来た。


『まさかこんなに簡単に、不屈がショックで動けなくなると思わなかったんだけど、一応こっちも君達を迎える上で、準備してたんだよね。さて、僕の巫女達を閉じ込めた黒いその球は君達が魔王と呼ぶ存在が創り出している訳だ。そしてさっきも説明した様に、その黒いのには入るのは自由に入れるが、中にいる魔王を倒さないと中に入った者は出てこれない……筈だったんだけど、さっきはビックリしたなぁ』


 悪神の声は、いかにも楽しげで、私はそれとは逆に嫌な予感しかしなかった。


『ともあれ、さっきみたいな手は今のところは使えないだろうから、良いけどね。それでなんだけど、そろそろ締め切ろうとおもうんだよ』


「……締め切り?」


『あぁ、本当はさ。不屈がどの子を選ぶかと見て煽ったりしたかったんだけど、ちょっと拍子抜けにフリーズしちゃったから、それはもう良いんだ。でなんだけど、今から僕が三秒数えたら、その球の中には誰も入れない様にしちゃうね。それで完全に閉じ込めたら、魔王に中にいる巫女を殺させちゃうね。さぁ、誰が誰のところに行って、誰がここに残ってその役立たずの男を守りながら、"勇者の中の勇者"と戦ってくれるのかなぁ? でも、あれれ? 閉じ込めたら巫女の数は四人、そこの役立たずを除いた君達は、四人だねぇ。くくく、はぁい、数えるねぇ、三……二……一……』


 悪神が有無を言わせずにカウントを始めると、全員が一斉に動き出した。


『ゼロ』


 そして、カウントはゼロを迎えた。




『……へぇ……そういう感じになるとは、ちょっと意外だったかなぁ』




 ヤナ君を守る様に、アリス、ルイ、エイダさん……そして、私が立っていたのだった。

↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)

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