護る者
『ちょっと、君さぁ。人の家を訪ねるのに、その家を吹き飛ばすとか何考えてるのさ』
魔王城のあった場所の辺り一面を更地に変えた上に、神火により浄化されているというのに、悪神をその身に降ろしている魔族は、さも楽しそうに嗤っていた。
「きれいに掃除してやったんだ。むしろ、感謝の言葉はないのか?」
シェンラと瘴気に堕ちた雷電竜が頭上で激しく戦闘をしている中、地上では糸が張り詰めているかの様な緊張状態であり、誰もが迂闊に動けないでいる様だった。
『確かに、すっきりしたけどなぁ……せっかくそれらしい城を建てていたというのに、見事に更地にしてくれちゃったね』
「知るか。で、来てやったわけだが、茶の一つでも出すつもりはないのか?」
『神が、人ごときをもてなせと……ふふふ、まぁ、良いだろう』
魔族の男は、一瞬目を鋭くしたが、すぐに顔を歪めて嗤い顏に戻った。その嗤い顔を見た俺達は、地面に燻っている神火を使い、奴が何かする前に出鼻を挫こうとした。
「『|形状変《デフォルマ……!? 瘴気が!?」
しかし、俺達の前に立っていた全身が黒く染まった四人の少女達から瘴気が溢れ出すと、まるで消火器で火を消すかのごとく、瓦礫や地面を燃やし浄化していた神火を瘴気が覆い、跡形もなく消していった。
『ちゃんと消しておかないと、火事になったら大変だろう?』
「……火事になる様なものは、吹き飛ばしてやったが? 魔王城を中心に、消毒してやったからな、流石に魔王は無事みたいだったが」
俺はそう言いながら、人形の様に全く動く気配のない黒の少女達を見た。魔王城へと来るまでの間に、セアラやエイダから魔王に関する情報を聞いていた俺は、魔王が人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族の少女の姿をしているのを実際に見ると、心底胸糞が悪くなった。
世界の混乱を避けるために、魔王の姿はこの世界の上層部、すなわち各国の王などの首脳陣しか知り得ない情報だった。
何故、魔王がそんな姿をしているかは、誰も知ることがないことだった。今の今までは……
『それはそうでしょ。魔王があれぐらいの浄化の炎で、消えるわけがないさ。なんて言ったって、コレは最初の巫女達の身体なんだからさ』
「……は? 今なんつった?」
悪神の言葉に驚いているのは、俺だけではなかった。俺の後ろにいるセアラ達もまた、動揺している様だった。
『ふふふ、良い反応をしてくれるじゃないか。あれあれ? 知らなかったのかい? 前にクリエラと戯れてた時に、僕を封印しようとした結界陣の要に使った女神の巫女の身体を奪ったんだよ。その時に魂も奪えたら、逆にクリエラを僕が神界に閉じ込める事が出来たんだけど、魂は逃げられちゃったんだよねぇ』
楽しそうに話す悪神は、偽りを言っている雰囲気ではなく、ただ面白い話でも話すかの様だった。
『まぁ、逃げられたけど、目印つけといたからすぐに分かったけどね。だけど、悪いことしたなぁ。だって、アレでしょ? 転生するごとに、殺されちゃったんでしょ? 自分達が命を捨てて護った世界の住人にさぁあ! 見つけられ、裏切られ、殺されて……あぁ、可哀想な僕の巫女……あははははは!』
「このクソッタレが……おい!? 待て! お前ら!」
「シラユキ!? 待ちなさい!」
俺とアリスの言葉など、まるで耳に届いていないかのように、セアラ、アシェリ、エディス、ライ、そしてシラユキが飛び出していた。その顔は正に憤怒に染まっており、冷静さを感じることは出来なかった。まるで、半狂乱しているかの様に吼えながら、隙だらけのまま一直線に悪神が降りている魔族に向かっていってしまった。あまりに突然の突撃に、他のメンバーがすぐに動けないほどだった。
「怒りに我を忘れてるのか!? 『五指』『神火の大極柱』『形状変化』『神火拘束縄』! くそ! 間に合……」
『わないよ?』
俺の言葉を切るように発せられた悪神の声は、俺の背筋を凍らせるには十分だった。奴の口角が避けんばかりに吊り上がると、右腕を飛び出した五人に対して向けた。
『それぞれの相手は、分かってるね? さぁ、迎えに行くんだ。僕は、余りの一人をもらって行くよ』
悪神の言葉に反応する様に、魔王達が一斉に飛び出し、シラユキを除いた四人掴みかかり、それと同時に瘴気を身体から爆発的に溢れ出した。そして瘴気がすぐさま球体と成り、それぞれが魔王と一緒に瘴気の球体に包まれた。
「マスター!」
「わかってるよ! 全く良い予感がしないっての! 『神火拘束縄』! 五人の身体に、巻き付け!」
「ヤナ! シラユキが!?」
俺の放った神火拘束縄は、四つの瘴気の球体の中に吸い込まれると、球体の中でセアラ達に巻きついたのを感じ、一方の神火拘束縄を俺が掴んだまま、油を染み込ませたロープを燃やすかの如く勢いで、神火の清めを走らせた。
しかし、それが出来たのは四人だけであり、シラユキには届かせる事が出来なかった。
『こんな縄で、僕の巫女を亀甲縛りにしようとは、変態が過ぎるんじゃない?』
悪神を降ろしている魔族が、シラユキに放った神火拘束縄を掴み取り、嗤いながら引き千切った。シラユキは、他の四人と異なり瘴気の球体に覆われていなかったが、魔族の身体から溢れ出ている瘴気が、まるで巨人の腕のような形に変わっており、そのままシラユキを掴んでいた。
「マスターが、亀甲縛りにされるのは、簒奪神を滅ぼした後です! 適当な煽りで、マスターを馬鹿にしないで貰いたいものです」
『ふ、女神の分体風情が、神を滅ぼす前提で話を進めようとするとは、随分と不遜じゃないか』
「ヤナビ、俺に冷静さを失わせない為に言った返し文句だよな?」
ヤナビの全く空気を読まない台詞に、肩の力を抜くと、頭を冷やしながら状況把握に努めた。そして、今にも動き出しそうなここに残っているメンバーに、安易に動くなと各自に目配せをすると、セアラ達に念話で話かけたのだった。
「『セアラ、アシェリ、エディス、シラユキ、意識は戻ってるか?』」
「『えぇ、あなた。だけど、ごめんなさい……こんなへまをするなんて』」
「『主様、申し訳ございません。何故か、全く精神を制御出来ずに暴走してしまいました……』」
「『挑発だと理解していた筈なのですが、身体の底から湧き上がった怒りに、心が乗っ取られてしまったようです』」
「『ヤナ……最初から足手まといになっちゃうなんて、私なんの為に強くなったのか……』」
「『お前らがブチ切れたのは、おそらくは巫女としての性質か転生を繰り返してる魂の所為だろうと、俺は思っている。こちらの世界で、全く巫女としての虐待にあっていないシラユキさえもブチキレて突撃しやがったからな。悪神の事だ、煽りの言葉に巫女達にだけ効くような"挑発"を仕掛けられていても不思議じゃない』」
あくまで推測の域を出ないが、的外れではないと俺は考えていた。そうでなければ、あれ程狂ったように巫女だけが、隙だらけで突撃しない筈だ。そんな柔な精神に鍛えた覚えは、俺にはない。
「『だが、もう少しその辺の鍛錬もすべきだったか……もう少しナメクジ以下だと思わせるほどに罵り叩きのめす鍛錬を今度……』」
「マスター、話がずれていますよ。かつ、セアラ様達がドン引きしていますので、本題に移りましょう」
「『そうだったな。神火拘束縄から神火の清め《アブルーション》をお前らに纏わせたことで、恐らく正気に戻ったんだろう。中の状況はどうなっている? 暗闇で何も見えない感じか? 外から見ていると暗闇が球体をなしている感じなんだが』」
俺はセアラ達と念話をしながら、神火拘束縄を形状変化で更に五本を創り出すと、シラユキに向かわせていた。悪神の降りた魔族がシラユキに神火拘束縄が届かない様に、俺と同じ様に瘴気の形を剣のように変えると、近すぎすぎた神火拘束縄を斬り落とそうとしていた。牽制しながら時間を稼ぎ、セアラ達の現状を確認する事を優先した。
「『私のいる場所は、どこかの荒野の様だけど、あなたの縄が何もない空間から現れてる感じになってるわ』」
「『私も同じです。主様の縄を辿ろうとしても空中で途切れてからは、その先には触れているような感触はありません』」
「『どこかライの空間断絶した中にいる感覚に近いですが、ヤナ様の縄がこちらに来ている事を考えると、そちら側からは私の方に入れるやも知れませんが、出ることは現状では難しいと感じますね』」
「『セアラ姉の言う通り、私の空間隔離と似ているよ、この場所。でも、とても気持ち悪い雰囲気だけどね』」
「『そうか、なら先ず……』」
『そんなに焦らなくても、ちゃんと説明してあげるって』
セアラ達の報告を聞いている中、悪神の声は楽しくて仕方ないと言わんばかりに明るい声で、話をし始めたのだった。
『巫女達は、それぞれに合う魔王と一緒に、別空間に言ってもらったよ。別に助けに行くのは構わないよ? だけど、そこから出てくるのは魔王を滅ぼさないといけないけどね。まぁ、強さ的には、今そっちの国を皆殺しに向かってる最高位魔族よりもそこそこ強いくらいさ。それと、残ってるこの子は……』
「ちょっと待てや……こっちの国を、皆殺しに向かわせてるだと?」
『君ねぇ、人が話してるってのに口を挟むんじゃないよ。しかも神の言葉を遮るとか、どんな教育を受けてきたんだか。まぁ、それも教えてあげるって。あ、ちなみに僕が今顕現しているこの魔族も、最高位の魔族だから、まだ暫く君達と直接遊べるから心配しないでね』
「そんな心配してねぇよ……」
『いやぁ、やっぱり悪役は楽しいねぇ。どうしても長話したくなっちゃうよねぇ……クックック、君が此処に来る時に、手ぶらで来るとは思わなかったからさ。当然こっちも、それに合わせて城にいた魔族と周りの瘴気纏いの魔物に出かけてもらったって事。行き先は……こんな感じだよ』
悪神がそう言いながら腕を水平にゆっくりと動かすと、瘴気が空中にシート状に固まっていった。そして、まるで映画の様にその瘴気のスクリーンに、見覚えのある景色が映し出された。ただし、映し出された場所は、例外なく全てに場所で戦火が上がっていた。
『おやおや、今回は君は色々小細工しなかったみたいだねぇ。冷たいなぁ、君が間に合わなかった何時ぞやのドワーフの国みたいに、また滅んじゃうんじゃない? さて、問題です。"君"と"この世界"、どっちが先に滅ぶかな? ハッハッハッハッハ!』
俺は目の前で見せられる光景に、目を奪われた。
次々と視点が変わる映像は、全て誰かを殺していた。
恐らく魔族や魔物の見ている映像を、此処に映し出しているのだろう。
まるで、俺が殺しているかの様な錯覚に陥った。
だからだろう。
俺は意識を悪神から外し、見せられる映像に向けてしまった。
「マスター!」
俺はヤナビの焦る声で、自分が隙だらけだった事に気付いた。
しかし、もうその時には遅かった。
「……は? なんだよ、これ……どうなってんだよぉお!」
カヤミとディアナの二人が
まるで俺を庇うかの様に立っていた
しかし二人は、漆黒の槍に胸を貫かれていた
そして
言葉を残す事なく
呆気なく灰となり、崩れていってしまった
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





