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一人の男

「ゴーンべ室長、アレから何日経った?」


「丁度、二ヶ月になりますね。既に、全冒険者にギルドの強制クエストとして発行しておりますし、コイス事務局長と協力して、周辺の村をこの都に避難させています。高ランクの冒険者の配置についても順調に進んでいますし……ギルドマスター、そんな険しい顔をしなくても良いのでは?」


 キョウシロウは、ゴーンべ室長からの報告を聞いている最中、厳しい表情を一度も崩さなかった。


「仕方ないだろう。ユーフュリアの話では、ヤナ達が魔王や悪神を討つために動いているらしいじゃないか」


「えぇ、どの様な手段を用いて魔王城へ向かっているかも、ユーフュリア様が女神様からの神託から判明しましたが、天空竜すら届かぬ高度を移動とは、いやはや驚かせ……」


「俺も行きたかったぁああああ!」


「でしょうね! もう諦めなさいよ! この戦闘狂が! あんたとアヤメ(血狂い)殿を抑えるのに、どれだけの人員を割いてると思ってるんだ! しかも、毎日二人で憂さ晴らしの様に、鍛錬場で仕合するんじゃない! 補修費も馬鹿にならないんだ!」


 キョウシロウの言葉にキレたゴーンべ室長が、我を忘れるほどに怒り狂うが、キョウシロウは溜息を吐くだけだった。


「はぁ……いいじゃねぇか、それくらい。そのおかげで、アヤメが此処に止まってるんだから。俺が相手しなくちゃ、あいつフラフラとどこ行くかわかんねぇぞ」


「う……上手い事、逃げられた気がしますが……ところで彼等は、魔王城にどれほど近づいているのでしょうか」


「どうだろうな、移動方法すら聞いてもよく分からんからな。まぁ、だが……そこまで時間は掛からんはずだ。そこまで高高度を移動していれば、先ず魔物には出くわさない筈だ。更に一直線に目的地向かって移動できる。案外そろそろ魔王城真上当たりにでも行ってるかもしれんな」


「という事は……」


 キョウシロウの予測にゴーンべ室長は、緊張を高めていた。


「あぁ、ユーフュリアが受け取った女神の神託通りであるならば、いつ魔族共が押し寄せてきても可笑しくない。しかも何時ぞやの時の様な高位の名持ち(ネームド)魔族がな」


「ヤナ殿達が魔王城にて悪神と接触すると同時に、各国を狙いに来ると言う事ですからね……召還陣を管理するジャイノス王国、世界樹を護るエルフの隠れ里、防衛の最前線である騎士国スーネリア、そして最古の迷宮を抱える都市国家デキス。それに連携は取れていませんが、神託によれば女神様の聖域を護るという獣人族の里があるとか。何処を魔族に落とされても、この世界にとって致命傷となりえます」


 ヤナ達が騎士国スーネリアを旅立った直後、各国の首脳陣は改めて会議を行っていた。ユーフュリアは、直ちに魔王城へヤナを送り出す様にとの神託を受けていた。それもヤナの持つ戦力を、こちら側に残さない形である。その為、ヤナ達を加えた会議をする前にあらかじめ各国の首脳陣には、ヤナ達をこの世界から追い立てる形で送り出し旨を共有化していた。


「俺達は俺達で、自分の世界を護れという事なんだろうさ。自称普通の異世界人に神殺しを託したわけだからな。だが、ユーフュリアは難題を女神から吹っかけられたな。あのお節介の塊みたいな奴を、こっちの世界に憂いを残さず送り出せとはな」


「ヤナ殿の事ですから、自分が魔王城へと乗り込むと同時に各国が襲われると知れば、身を削って何をするかわかりませんからな。ドワーフ王国とジャイノス王国が同時に襲われた際の報告を聞いていれば、今度はどれだけ無茶をするか想像も出来ません」


「そうだな。そして巫女達の為にも、ヤナには悪神を討ってもらわんとな」


「えぇ、神託によればヤナ殿が悪神に負けるもしくは巫女の魂が悪神に奪われるとなる際には、手段は分かりませんが女神が巫女達の魂を使い再度封印を試みるという事ですから……世界の為とはいえ、巫女達が救われないにも程があります」


 ゴーンべ室長は、悪神の巫女として世界中からな虐げられてきた巫女達が、そんな世界を救う為に犠牲になろうとしている事を、本当に申し訳ない気持ちで一杯だった。


「彼女達に対するこの世界の仕打ちは、償い切れるものではないだろうよ。悪神に仕向けられた事だとしても、あまりにも酷い。だが……たった一人の異世界の男が、王城の離れの塔に隠されていたお姫様の呪いを解き、奴隷になった獣人の少女を救い、掟という鎖をエルフの少女から断ち切った。この出来過ぎた英雄譚の仕上げは、世界を奪おうとする神に挑むとか……くっくっく……あっはっはっは! 面白すぎだろ!」


 キョウシロウが笑い出すと、暗い表情だったゴーンべ室長もつられるように、表情を柔らかいものへと変えていった。


「ヤナ殿に関しては、変態的な逸話が多すぎて、飽きませんからな」


「くくく、だからだろうな、期待しちまうのさ。滅びゆくこの世界を、たった一人の男が救う。そんな物語を後世の奴らが笑いながら話す為に、俺達が彼奴が思いっきり暴れられる舞台を作らなくちゃならねぇ」


「そう……ですね。所詮私達は人の子であり、神に挑むという発想自体がありませんでした。その英雄譚を、是非とも酒を飲みながら楽しみたいものですな」


 ゴーンべ室長は、ギルドマスター室の窓側へと移動すると、そこから夜空を見上げた。キョウシロウもまた同じように、ギルドマスターの椅子から外を眺めるのだった。




「王よ、そろそろ休まれてはどうなのじゃ」


「アメノか……そうもいくまいよ。娘を死地へと追いやる親などに、休息なぞありはしないのだ」


 アメノは気配を消して王を警護していたが、あまりにも鬼気迫る様子のジャイノス王に、思わず声をかけてしまっていた。アメノに声をかけられた王は、それでも手を休める事なく執務室の机の上に積まれている魔王関連の資料に加え、王都の防衛戦の報告書等を休む事なく目を通していた。


「セアラ様が王城に帰られた時(・・・・・)、王が過労死していましたでは洒落にもなりませんぞ。それにサーレイス殿からも、度が過ぎれば王を気絶させてでも休ませて欲しいと頼まれておるのじゃが、そうせざる負えないのですかな?」


「あのお節介め……」


 ジャイノス王は顔をしかめながら、溜息を吐くと椅子の背もたれにゆっくりと背中を預けた。


「ヤナ殿やセアラ様方が騎士国を出立してからというもの、王は文字通りに身を粉にして動かれているではありませぬか。サーレイス殿のみならず城の者は、いずれも王の状態を心配しておりまするぞ」


「だがな、アメノよ。我々は何としても、この王城を護られねばならぬ。勇者殿も含めヤナ殿を何としても元の世界に帰ってもらう為にもな」


 再び表情を険しくした王に、アメノは呆れるように首を振りながらも、会話を続ける事にした。こうした会話をする事により、王は手を休める事を知っていたからだ。


「ですが、ヤナ殿は魔力量が送還陣を起動させる程ではないと、聞いておりましたが?」


「あのヤナ殿であるぞ? そんな些細な事で、物事を諦めると思っているのか?」


「ない……でしょうな。アレは、病的に諦める事を嫌いますからな。何とかして、帰るでしょうな。しかし、王はよくセアラ様の事を国民に伝えましたな。全てを伝えるとは、思ってもみませんでしたぞ」


 アメノは、先日国民に対して王家からセアラ王女が悪神の巫女であった事、そしてそれをヤナが救ったという事。そして、ヤナ達が悪神を討ちに向かっており、近く大規模な魔族の侵攻が女神から神託で予言されている事を発表した事に、少なからず驚いた一人だった。


「何処で、余は甘えていたのだ……長らくこの国は、瘴気の侵食を受けてこなかった。侵食されし大地より最も遠く離れた位置にあるため、我が国の国民性は穏やかであり、その分他国に比べ危機意識が低いのだ。それは、我も同じだったのだ。きっとヤナ殿が、何とかしてくれるだろうと……解決さえすれば、セアラの事はわざわざ公表しなくて済むと……」


「ヤナ殿は、それで構わないと言うでしょうがのぉ」


「この世界は魔王討伐を幾度ともなく、異世界の者に託してきた。それが当たり前の事だと、認識してしまっていた。何故、魔王が復活し瘴気が消えぬのか。そして巫女達がこの世界から殺されている事に疑問すら抱かず、嘆くだけであった。それをあの男は、怒ったのだ。神に対し、仕方ないと諦める事なく、抗う事を選んだ」


 ジャイノス王は、背もたれに身体を預けると、目を瞑りながら天を仰いだ。


「だから余も、選んだのだ。セアラを隠し護るのではなく、共に戦う道を」


 ジャイノス王の言葉に、アメノは微笑むと口を開いた。


「そして全てが終われば、きっと孫も期待出来るでしょうし、必ずや生き残り勝たねばなりませんな」


「…………セアラはまだ、若い。ヤナ殿も、そのあたりは堅い男だと、余は知っておる」


「ヤナ殿が、全てから解放されしセアラ様から年齢を盾に逃げられると、到底思えぬのですが?」


「………ヤナ殿の、諦めぬ意識に期待するのみだ」


 ジャイノス王は、遠い目をしながら呟くのだった。




「…………ぞわぞわっときた」


「もうそろそろ魔王城の真上に辿り着きますから、さすがにマスターでも震えが来ましたか?


「そう……なんだろうか?」


 戦艦の甲板に立つヤナは、やや今の寒気を感じた感覚に不安を覚えながらも、思考を魔王城へと向けた。


「やっと着いたか、二ヶ月程か? 予想より大分かかっちまったな」


「想定より高い高度まで、瘴気が蔓延していましたので仕方ないかと。濃い瘴気に行く手を大分阻まれ、速度が上がりませんでしたので」


 ヤナは、戦艦を覆う様に漂う瘴気に目を向けた。


「さくっと神を斬って、終わりたいものだな」


「そうですね。全て終わらせたところから、マスターの本当に戦いが幕を開ける訳ですから。当然、私も参戦させて頂きます。今のうちに宣言しておかねば、乗り遅れますから」


「何に乗り遅れるってんだよ」


「マスターに」


「……駄女神系統は、ポンコツばっかりか!?」


 ヤナの悲痛な叫び声もまた、瘴気の闇に吸い込まれていくのだった。



↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)

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