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人外

「ヤナは三年、ライちゃんにいたっては約十五年もの時間を、仮想現実で過ごしたっていうの? しかもその理由が、復活した女神様に殺されそうになっていたライちゃんを、無理矢理助ける為とか……本当にあんた、無茶苦茶ね」


 作戦室で今朝方に起きた一連の出来事を話す中、アリスが呆れながらも顔は笑っていた。


「今回は俺だけじゃなく、ライも相当な無茶だがな。いくら鍛錬出来る時間を確保できるからと言っても、十五年は俺でもそこまで鍛錬狂い(変態)ではないと思うが……」


 俺はおもわず、ライに残念な子を見る様な目を向けてしまった。その十五年という仮想現実の日々をヤナビと共に過ごしたという事実が、あの純真な心を持ったライが居なくなってしまった事を確信させていたのだ。


「ヤナビ先生、なんだろう……会えて話ができて物凄く嬉しいはずなのに、ヤナに残念な感じ見られた上に、変態扱いされる事に酷くイラつきを覚えるんだけど」


「ライ様、そのイラつきこそが、貴方が成長出来た証なのです。マスターは、所詮マスターでしかありません。理想と現実の差とは……かくも厳しく残酷なものなのです」


「うん……そうだね」


「おい、普通の声で俺をディスるな。ライに至っては、涙目で俺を可哀想な人を見る様な目で見るんじゃない」


 ライは、こんな子じゃなかったはずだ。ヤナビの奴に、完全に毒されてしまっている。


 無念だ……


「主様がライの身体を創りあげる過程で、それだけの精神時間を過ごしてきたという事でしたが、身体の方は以前と何か変わっているのでしょうか?」


「ヤナビ、その辺はどうなんだ? 特にライは、ユーフュリアに俺の眷属だと言われていたが」


「先ずは、ライ様の状態について説明致します。ライ様に関しては(・・・・)、精神的な成長を除けば、基本的に変わっている事は悪神の眷属であったのが、マスターの眷属に変わったというだけです。その為、女神の帰還以前と以降では、身体的な変化はその程度です」


 ヤナビの言葉に、俺が口を出す前にシラユキが不安そうな表情を隠さずに、声を上げた。


「ねぇ、ライちゃんに関しては(・・・・)ってことは、ヤナ君はそうじゃないってこと?」


「その様になりますが……マスター、皆様の前で現状の状況を説明してしまっても良いのですか?」


「そうだな……『こいつらが知らなくて良い情報は、伏せ…』…ライ?」


 俺が念話でヤナビに情報隠しを支持しようとすると、すぐさまライに腕を掴まれた。その目を見た時に、心の中で自分の失敗に気がついた。どうやら、俺がしようとしていた事を見抜かれた様だ。女神の帰還から事が起こり過ぎて、ヤナビから自分の状態を詳しく聞いておくのを忘れていたのが、ここにきて災いした。


「今、念話でヤナビ先生に、自分の情報隠しを指示しようとしたでしょ」


「十五年振りに俺に再開した割には、鋭いな。俺の魔力の流れでも、見ていたのか?」


 俺はライの指摘に苦笑しながらも、ライの魔力流れを見る目の精度が高まっている事に感心していた。


「魔力の流れとか、そんなんじゃないよ。たとえ十五年振りだとしても、ヤナのそんな顔を忘れるほどに、私の想いは軽くないよ。それに、たとえヤナの念話を私が止めなくても、誰かが絶対止めたか、話が終わった後にヤナに何を隠したか問い詰めたと思う」


 ライに言われて周りに目を向けると、全員が厳しい目を俺に向けていた。


「おいおい、そんな怖い目を向けるなよ。自分の事なんだ、先に聞いておきたいと思うのが普通だろう」


「あなたが全てを抱え込む様な人じゃなければ、私達もこんなにもあなたの隠し事を心配する事はないわ。全員が、間違いなく感じているのよ? あなたの纏う雰囲気が、昨日までと全く違うことに」


 エディスが、俺の言い訳に対して厳しく応える。俺がおもわず溜息を吐くと、ヤナビが念話ではなく、皆に聞こえる程の声で話しかけてきた。


「マスター、自分の事を後回しにするから、こんなことになるのですよ」


「仕方なくないか? 色々急展開過ぎるんだよ、全く。これもそれも、あのポンコツ駄女神が悪い」


「ヤナ様、文句を言いながら時間稼ぎはお止めください。ヤナビ様に、現状の状態を説明する様に指示を出してください。ここまで来たら、私達は皆一つ何ですから。何がおきていたとしても、決してヤナ様を逃がしません」


「……最後が、唐突に危ない思想になったな」


「王女が、王の意向を無視し、更には女神の巫女でありながら、駆け落ち的に冒険者についてきた訳ですから、マスターの責任は重大です」


 俺はヤナビの言葉に、そんな見方が確かにあると戦慄して、おもわず絶句してしまった。しかし、そんな俺のリアクションに対して誰も何も言ってもらえない為、諦めてヤナビに説明を指示するのだった。


「……ヤナビ、俺の現状を説明してくれ」


「マスター、リアクションを無視られた事くらいで、心が折れないで下さい……」


 そして、ヤナビが俺の現状について話をし始めるのだった。


「先ずはマスターの種族からですが、これまでは異世界人としてこの世界に認識されていました。しかし、今回ライ様の身体を"無"から創り出した事により、"人"から"神"へと至る階段に完全に登り始めました。そして一度、神へ至る階段を昇り始めれば、人へと降る事は出来ないでしょう。平たく言えば、これまでは言動と能力が人外染みていましたが、名実共に『人外』となったという事です」


「若干ディスられ気味なのは、置いておくとしてだ……神へと至る階段を降りられないとは、どういう事だ」


「存在の位階は、自ら下げる事は出来ません。それは自らの存在否定となり、魂すら消滅する事だからです。ただし、更に位階が上の者が強制的に降ろさせる事は、可能ではありますが……神に至る者の位階を下げさせるなど、余程の位階の高い神でしか無理でしょう」


 ヤナビがその余程の高い位階の神に、女神クリエラや簒奪神ゴドロブの名を挙げなかった事から、奴らはそこまでの存在ではないという事を示していた。


「そうか……簡単に言えば、物凄くパワーアップしたって事でいいよな? なら、さほど問題じゃなさそうだ。気になるのは、魔力の関係や『神の依代』なんかが今まで通り使えるかどうかだな」


「魔力に関しては、マスターにとっては朗報です。これまでの通常の魔力に加え、マスターは魂の中に神格が形成されつつあり、これが神気を生み出す為、いずれ自分自身の扱える様になるでしょう。神気を完全に神格が形成されれば、魔力に神気を上乗せする形で、勇者様方と同じ様に、元の世界に帰還する事が可能でしょう」


「な……それは、本当か!? 還れるのか、元の世界に!」


 ヤナビの想定外の言葉に、一瞬我を忘れて問い詰めるように聞き返してしまった(・・・)


「ほら、やっぱり……ヤナ君、帰りたかったんじゃん……帰れなくて構わないだなんて、嘘だったじゃん!」


 俺の失言を聞いて、珍しくルイが大声を張り上げ、目には涙を溜めながら、俺に向かって叫んでいた。


「あ……それはだな、ルイ。そりゃ、帰る手段が見つかれば驚きもするだろうよ」


「あんたねぇ、帰る手段が予想外だったんでしょうけど、今の反応を私達が見て単に驚いただけと思う訳ないじゃない。ルイもだけど、コウヤとシラユキや私だって、あんたが私達に気を使っている事ぐらい分かるわよ。もっと自分の大根芝居を、自覚したほうが良いわね」


「そうだよ、ヤナ。僕達はそこまで、鈍感でも無関心でもないよ。それにヤナは諦めない(・・・・)でしょ?」


 アリスコウヤは、微笑みながらそんな事を言ってくる。俺は思わず頭をかきながら苦笑してしまった。そしてその流れでシラユキを見ると、一人号泣していた。


「えぇ!? シラユキ泣きすぎだろ!?」


「だ……だって……ヤナ君が帰れるんだよ……わ……あの時……私が一緒に連れて……来ちゃったんだもん……だから……だから!」


 泣き顔を隠す事なく俺を真っ直ぐ見るシラユキは、色んな感情がごちゃごちゃ混ざった様だった。シラユキに向かって俺は右手を向けながら拳を作ると、親指を立てたのだった。


「シラユキ……結果オーライって事で!」


「軽い!? ヤナ君、軽いよ!? 号泣している私に対する反応が、何で雑なの!」


「当たり前だろ! これまで、非モテ人生を歩いてたんだぞ! 上手い対応なぞ、できる訳ないだろ!」


「えぇえ!? そこは諦めないでよ!?」


 俺は笑いながら、シラユキの文句を聞いていた。そしてシラユキもそんな俺につられて笑ったのだった。



「ヤナ様、元の世界へのご帰還が可能になり、おめでとうございます。召喚国の第一王女として、心からお慶び申し上げます」


 ひとしきりシラユキとのやりとりを終えると、セアラが俺に対して一国の王女としての言葉を述べた。


「あぁ、ありがとう。召喚国の王女として、セアラはずっと責任を感じていただろうが、一先ずその事に付いては、肩の荷を降ろすんだな」


「そうですね……異世界の勇者様達は、使命を終えると元の世界へと帰られるのは、この世界の常識ですので、ヤナ様がいずれ元の世界へと戻られると言うのは、覚悟はしております。帰られる前に、しっかりヤレる事はヤッて頂きますが」


「……」


「マスター、ちなみにヤると言うのは、ヤラシイ意味でのヤ……」


「やかましいわ! 周りも、全力で頷くんじゃねぇよ! 特にそこの、騎士と刀鍛冶の色欲コンビ! 目がガチで怖いから、止めなさい!」


 数名の危うい目線を交わしながらも、場が先ほどの緊張した空気が緩み和んだところで、俺は自分の話を切り上げると次に、ヤナビにセアラ達の女神の帰還に際しての変化について説明を促した。


 ヤナビの説明によると五人の巫女達は、女神が目覚めこの世界に帰還した事で、より強い女神の加護を受けられる様になったと言う事だった。あのポンコツ駄女神の言っていた通りと言うのが癪だが、いわゆるパワーアップイベントとなっていた。


 そして、一先ず話さなければないない事を話し終えると、最後に魔王城の場所やここからの到着時間を、魔王城へと行った事があるシェンラとこの後で話すことを決めると、宇宙戦艦ヤナトの艦内設備の説明に移った。


 ひとしきり艦内を案内し終わると、全員にシェンラとの行程の打ち合わせが終わり次第、再度連絡を入れる事を伝え、一度解散とした。


 俺とシェンラは中央作戦室へと戻り、魔王城までの到着時間を話そうとすると、すぐにシェンラが口を開いた。


「お主、自分の帰還方法が見つかった事を餌に、肝心要の事を隠したじゃろ」


「何の事だ?」


「妾以外では、その事に気付いているのはエイダぐらいじゃったがな。アレもお主に気を使って、皆の前では黙っていたのだろう。他の者達は、神格になるという事が、本質的にどうなるかということを、明確には理解できぬからの。ライの奴は、もう暫くすれば気付くじゃろうがの」


「だから、何の話をしてるんだ」


「位階が上がったお主なら、自然と理解しているだろう?」


 シェンラは、俺の目から心を覗き込む様に、真っ直ぐに俺の目を見据えながら、その言葉を口にしたのだった。



「神の位階に近い者はすべからず長命であり、神核を持つ者にいたっては、寿命はない(・・・・・)という事なのじゃ」



 俺はシェンラの言葉に、すぐさま言葉を返す事が出来なかったのだった。

↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)

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