生贄か礎か
「ヤナ……そう言うことだったんだね」
コウヤの言葉に俺は、返事をする事が出来なかった。立体映像に映るユーフュリアの、次の言葉を待っていたからだ。
「『つきましては、この五名の所在を先ずは把握しなければなりません。この合同会談に出席している方で、五名の所在をご存知の方はいらっしゃいますか?』」
ユーフュリアの言葉に、合同会談に居合わせてる全ての者達が俺達の方へと目を向けている。
「それならば、今あんたが名を挙げた全員、俺と一緒に騎士国スーネリアにいる。もっと言えば、今この場に揃っている」
「『……その声は、ヤナ様ですね。その節は、大変お世話になりました。勇者シラユキ様以外は、ヤナ様のお仲間ですから、今もそこにいるのですね』」
「……あぁ、そうだ」
ユーフュリアは、立体映像越しに俺を見ていた。俺はユーフュリアの目に、アイツの気配を感じながらも、平静を装いながら言葉を交わす。
「『ヤナ様の事は、神託により以前より詳しく私も理解しております。しかし、これはこの世界の存続をかけた戦い。この世界を守る全ての手段を、我々は考えなければなりません』」
「だから、公表したということか?」
俺は僅かに殺気を漏らしながら、ユーフュリアに目を細める。当然、この世界の安定を最優先するのであれば、要石の巫女を利用しない手はない。俺もそれが分かっている……分かっているが、それと自分の心は別の話だった。
「『それが、女神クリエラ様のご意思です』」
「女神の意思ねぇ……あのポンコツ駄女神の意思と言われても、全く納得出来んな」
「『な!? クリエラ様に対して、何ということを!?』」
俺の駄女神発言に、ユーヒュリアルは見るからに怒りの表情を浮かべ、それをまったく隠さずに俺に叱責するかの様に言葉をぶつけてきた。
「ヤナ!? そんな女神様を馬鹿にするような事を、こんな所で言ったら……」
コウヤが心配そうに俺に向かって呟いているが、その心配はすぐさま実現する事になる。映像通信魔道具に映る各国首脳陣に加え、この場にいる者達から明らかな怒気を向けられているのが、手に取るように分かった。
仲間達や勇者達からは、どこか呆れてるような気配を感じるが、そこはもう無視だ。あんな女神と直接話せば、俺のこの想いは全員に間違いなく伝わるはずだ。
「女神は外面は良いですから。マスターだけですよ、ありのままの女神を見たことがあるのは」
「見たくなかったよ? 俺にも、外面の良い女神様で接して来くれよ……」
ヤナビに力なくツッコミを入れていると、ユーフュリアが怒りの表情ままに口を開くのが見えた。
「『女神クリエラ様を侮辱する事は、この世界に生きる者を敵に回す危険があると分かっているのですか?』」
ユーフュリアの強い言葉に、騎士国員達も同調するように俺に向かって敵意を向けている。この世界に生きる者であれば、それは当たり前のことだろう。ジャイノス王国の王や、ギルドマスターであるキョウシロウでさえ、映像通信魔道具の映し出す表情は険しかった。
しかしだ……こいつらもまた、俺のことが分かっていない。筆頭は、あの駄女神だが。
「だからなんだと? あのクソ女神は、既に俺に対して喧嘩を売ってきた。俺から仲間を、最悪の形で奪おうとしやがった」
「『たとえヤナ様の仲間を女神様が奪ったとしても、それが神の意思なら受け入れ……それは、何の真似ですか?』」
「ヤナ殿!? この場は各国首脳が集まる会議の場! 何をしようとしているのですか!」
俺に向かってルーイさんが、俺と同じく抜刀した状態で叫んでいた。セルファさんは慌てず椅子に座ったままだが、目を細め厳しい視線を向けており、シャイス騎士団長は全身に魔力を纏っているのが分かる。いつでも俺を攻撃できる態勢といったところだろう。
俺は、自分に敵意を向ける者全てに、殺気を放っていた。俺は二振りの神殺しの刀を構え、ユーフュリアを見据えた。
「俺から仲間を奪い、この世界の生贄とすることが神の意思と言い、この世界が俺に牙を剥くというのならば……この世界もまた俺を敵に回すという事だ。その覚悟もまた、お前らは持っているという事だな?」
「『それが女神様の御意志ならば、要石の巫女達にはこの世界の礎となって頂きます』」
ユーフュリアの迷いなき言葉は、映像通信魔道具越しでも分かるほどに揺るぎない信念を、十分すぎる程にこの場にいる者全てに伝える強さだった。
「そうか……ジャイノス王にキョウシロウ、あんたらも同じ考えか?」
映像通信魔道具越しにキョウシロウとジャイノス王へと尋ねると、先にジャイノス王口を開いた。俺を見る目からは、話し始めようとする今もなお迷いが見て取れた。
「『ヤナ殿、今でも迷っているのだ。一国の王として、セアラの父親としてどうするべきか。悪神の聖痕が消え、セアラの笑顔を見る事が出来た。しかし、今度は世界を救う為に身を捧げよと……民を守る王族としては、判断は一つなのだ。女神様意思という事であれば、尚の事……』」
「……お父様……」
ジャイノス王の判断は、要石の巫女としてセアラを捧げることに、反対は出来ないというものだった。王族として、民を守る為に身を捧げることを、第一王女であるセアラに求めたのだ。
そして、ジャイノス王の言葉が途切れると、キョウシロウがゆっくりとした口調で話を始めた。
「『ギルドマスターとしての判断は、"各自の判断に任せる"だな。ギルドとして巫女達を拘束するような依頼を冒険者達に強制する事はしない。だが……そのような依頼が持ち込まれた時に拒否することもしないし、その依頼を誰が受けても問題にはしない。"女神の意思"が大義名分としてある今、そんな人攫いみたいな依頼も受ける事になるだろう。俺の管轄じゃねぇが、闇ギルドみたいな奴らなんぞは、大手を振って動くだろうな』」
「まぁ、そうなるか……大義名分ねぇ。騎士国の対応は……言わずもがなといった所か」
俺はキョウシロウの話を聞いた後、部屋を警護する騎士達を見回すとセルファさんを見ながら、そう呟いた。騎士達は全てが戦闘態勢になっていたからだ。
「当然だ。騎士国は、この世界を護る盾。女神様の御意志に反する事は、我々はしない」
ルーイさんの言葉に、誰も騎士達は意を唱えないという事は、そういう事なんだろう。ルーイさんの言葉に、俺が溜息を吐くと同時に、ヤナビが念話で話しかけてきた。
「マスター、気づいていますか?」
「『あぁ、神々しい癖に胸糞悪い。あのクソ駄女神の神気がどういう訳か、ユーフュリアの映像通信魔道具から流れ出てやがる』」
各首脳陣が話をしている間もユーフュリアの映像通信魔道具からは、女神の神気が流れ出ていた。しかも相当に隠蔽された状態でだ。何度も女神の神気を纏った事がある俺や、女神の分体であるヤナビで、やっと気付きほどだ。
「『エルフの女王であるエイダ様も、この場に同席していらっしゃる筈ですが、ご判断を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?』」
俺とヤナビがユーフュリアに警戒を強める中、ユーフュリアがエイダへと問いかけた。エイダは、ユーフュリアの問いかけに対し少考する事もなく、すぐさま答えた。
「我々エルフは、女神様の眷属といっても差し支えない程に、女神様を崇拝し世界樹を守りし種族。種族としての答えは考えるまでもなく、女神様の御意志に従うという事でしょう。特に前王等は、率先してダーリンを捕獲し……要石の巫女を拘束しに赴くでしょう」
「『……俺を捕獲と、あいつ言わなかったか?』」
「マスター……どんまい」
エイダの言い間違いに寒気を抱きながらも、予想通りの答えに更に自分の表情が険しくなっていくのが感じ取れた。
「マスター、女神はユーフュリア様を通じて、自分の神気をこの場に届けています。その為、ユーフュリア様の言葉は神気を纏い、神託という本来であれば多少なりとも検証が必要な言葉を皆が鵜呑みにしています」
「『そこまでしたら、洗脳だろうが……駄女神の癖に、やり方がエゲツないんだよ』」
俺が念話で駄女神に対して罵っていると、手に持つ刀もそんな俺の気持ちに呼応するように、震え淡く紅く刀身が染まっていた。おそらく俺の怒りに、刀達も応えているのだろう。
「ん? マスター、その刀ですが……」
ヤナビが何かを俺に言いかけた時、事態は動き出そうとしていた。
「『ここには居ないドワーフ王も、女神の御意思にそうでしょう。ならば、世界の答えはひとつ。要石の巫女を使い、今度こそ完全に悪神を封じ込めるという……』」
「ふふふ、それはどうでしょうか。私は、ダーリンの側につかないと言っておりませんよ」
「『はい?』」
ユーフュリアの言葉を遮るように、エイダが言葉を発した。そしてその言葉は、女神ではなく俺に味方するというのもだった。
「『何を……言っておられるのですか? エルフ族は特に女神様に身を委ねる種族ではありませんか。ましてや、貴方様はエルフの王であるハイエルフ。最も女神様に、その身を捧げる者である筈でしょう』」
これまで終始表情を変えなかったユーフュリアの顔が、驚きの表情になっていた。そして俺や仲間達以外の者達も同じく驚いていたが、ハイエルフであるエイダが女神の意思に背くと発言すればそうなるだろう。
「……なんだろう、この嫌な予感」
「エイダ様ですからね……ただ、マスターの味方になりそうな気配は有難いですが……」
エイダは俺を見ると悪巧みをしていそうないつもの嗤い顔ではなく、優しく微笑んでいた。
「確かに私は、ハイエルフの王。前王含め他のエルフの者達は、例外なく女神様の御意志に喜んで従うでしょうね。しかし、私は既にダーリンのものになっているのです。妻として、夫に付いていくのは当然の事」
「『妻……しかし、ヤナ様の妻である前に、貴方様はハイエルフの王であるべきではないのですか?』」
「本来であれば、女神様に寄り添い、一番の僕として動く筈のハイエルフの王。それを、ダーリンは自分の者としたのです。そう、謂わば寝盗りと言って差し支え無いでしょう」
「差し支えしかないわ!? 何てことを首脳陣が集まる会議の場で、言っちゃってくれんだ! お 前 は ア ホ か!? ほら見ろ! 一気に場が、微妙な空気になっちゃっただろうが!」
エイダがぶっ飛んだ発言をすると、周囲から俺に向けられる目線は、敵意から軽蔑の類に明らかに変わっていた。
「今の状況の方が、メンタルに大ダメージだぞ!?」
「まぁ、マスター絡みでシリアスは無理でしょうね」
「やかましいわ!」
俺とヤナビが言い合っていると、部屋に凛としながらも怒りを含んだ声が響き渡った。
「『それでは、あくまでヤナ様の側につくのは、エイダ王一人という事でしょうか?』」
「そうなるでしょう。ただ、少なくとも私の他にもダーリンにつく者……即ち神に抗う者達はいるでしょうね」
エイダはユーフュリアから視線を外すと、セアラ達に目を向けた。彼女達は、エイダの言葉に同意するように頷くと真っ直ぐに俺を見ていた。
「マスター、二つ名に『神から巫女を寝盗る者』とか取得出来そうですね」
「……冗談にならない上に、俺とヤナビの周りだけが他の空気感と違うから、そろそろやめような?」
既にセアラ達は俺の周りを護るように、戦闘態勢に入っており、周囲の騎士達を牽制していた。
「『そうですか……ならば仕方ありませんね。女神様の御意志に沿う事は、この世界を救うこと。ヤナ様より、要石の巫女を譲ってもらうしかないようです』」
「譲るねぇ……奪うの間違いだろ?」
「『神の御意志のままに』」
ユーフュリアの言葉と共に、俺たちの周りの騎士達が一斉に身体強化を発動し始める。その目は、正気を保っているように見えるが、やはり身体は薄く神気を帯びているのがわかる。
「ヤナ……行くんだよね?」
俺が一層力を全身に漲らせた時、コウヤが話しかけてきた。コウヤの身体は、騎士達と違い神気を帯びておらず、それは他の勇者も同じだった。
「あぁ、このまま行くしかないだろ。あのポンコツ駄女神は、どうやら神らしい考え方で、この世界を維持しようとしやがったからな」
「神らしい……か。でもまぁ、仲間を犠牲にして世界を保たせるってのも、僕的には無しかな。やっぱり最後はハッピーエンドが良いよ」
「あぁ、そうだな。さてと……この状況が、駄女神の手の平の上の事なのかどうなのか分からんが、やるしかなさそうだな。念の為に聞いておくが、俺に背を向け周りに武器を構えている者達は、俺側に付くと認識するぞ?」
セアラ達に加え、勇者四人も騎士達向かって武器を構えている。その様子に苦笑しながらも、そうなるような予想はしていた。
「僕は、"勇者の中の勇者"だからね。誰かを生贄に、誰かを救うなんて出来ないよ。勇者なら"どっちも護る"だよ」
「女神様だったら、どっちも助けなさいってのよ。で、あんたはそれをやろうってんでしょ。どっちに乗るかなら……あんたの方が、性に合ってるわ」
「アリスちゃん……ヤナ君に乗るだなんて、大胆ひぎゃ!?」
こんなところでボケをかましてるルイは当然スルーするとして、コウヤもアリスも目には固い決意を宿らせていた。
「ヤナ君……私は、例え相手が悪神であれ女神であれ、貴方と一緒に救われたい。だから……貴方から、私は離れない」
シラユキは、真っ直ぐに俺の目を見ながらそう宣言した。
「まるで求婚の言葉のようですね、マスター」
「『うるさいよ。ここで茶々を入れるのは野暮ってもんだ』」
ヤナビの軽口をいなすと、指輪と腕輪を外すと全身に神火を纏い、そのまま足元から神火を広げていく。
「ヤナ殿!? 何をするつもりか!」
「ルーイさん、セルリシアを世界の為に捧げよと言われたとしたら、どうする? それが神なら、あんたはそれを受け入れるのか? 世界の為に、死んでくれと言うのか? 来世で会える事もない……そんな事を言ってくる神に、アンタは何と言う?」
俺が仲間を包む形で神火を展開し始めた時、真っ先に俺の前に飛び出したルーイさんに問いかける。
「……そんな神など……セルリシアを奪うと言うなら……」
「言うなら?」
「叩き斬ってやる」
「そうだよな。主人公ポジションのアンタなら、きっとそうするさ」
力強く答えたルーイさんの身体から、駄女神の神気が霧散していくのを見ると、俺は嗤いながらユーフュリアに口を開いた。
「ユーフュリア、いや女神クリエラ。寝坊してきた癖に、舞台の中心に立とうとするんじゃねぇよ。今のお前が何を企んでやがるかしらんが……俺は、神なぞ恐れない」
「『ヤナ様……』」
ユーフュリアが何かを言いかけた時、俺はシェンラに目配せすると、天井を指差し叫んだ。
「シェンラ! 天井をブレスでぶち抜けぇえ!」
「「「は?」」」
全員が一瞬呆気にとられる中、シェンラは可笑しそうに笑うと、幼女形態のまま天井に向かって口を広げた。
「ククク、誠に面白い奴よ、お主はなぁあ!」
閃光がシェンラの口から放たれた次の瞬間、爆音と共に天井が吹き飛んだ。
「さぁ、追ってこれるなら追ってきな。俺が行くのは、魔王と簒奪神ゴドロブのいる場所。お前らは、しっかりこっちの世界を護れよ! 『形状変化』『神火人間大砲』!」
俺達がいる床の上に出現させていた神火が変化していき、足元が神火の床になったところで、垂直に床が跳ね上がり、俺達を上空へと一瞬に飛ばしたのだった。
↓大事なお知らせがあるよ∠(`・ω・´)





