表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽聖女に全てを奪われ追放された無能令嬢ですが、隣国の冷徹王太子に拾われ、真の奇跡を開花させて溺愛されています  作者: 黒崎隼人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/14

第8話「復讐の序曲、世界で最も美しいドレス」

 オルティス帝国の広大な王宮の最上階にある、特別な衣装室。

 そこには、大陸中から集められた最高の仕立て屋や織物職人たちが、一堂に会していた。

 部屋の中央には、大きな姿見が置かれ、その前にエレニアが静かに立っている。

 彼女の周囲では、数人の針子たちが、息を潜めながら彼女の身体のサイズを測っていた。

 部屋の扉が静かに開き、アルフレートが入ってきた。

 彼の姿を見るなり、職人たちは一斉に深く頭を下げた。

 アルフレートはそれを手つきで制し、まっすぐにエレニアの元へと歩み寄る。

 彼の目は、鏡に映る彼女の姿を、一時も離さずに捉えていた。


「準備は順調のようだな」


「はい、アルフレート殿下。ですが、本当にこのような素晴らしいドレスを、私がいただいてもよろしいのでしょうか。帝国主催の建国記念大舞踏会に、私がこのような姿で出席すれば、周囲の反発を招くのでは……」


 エレニアは自身の肩を少しすぼめ、不安そうに鏡の中の自分を見つめた。

 彼女の目の前には、まだ未完成ながらも、息を呑むほどに美しいドレスの生地が飾られていた。

 それは、帝国の秘宝とされる「星紡ぎの絹」で作られた、深い夜空のような藍色のドレスだった。

 生地の至る所に、高純度の魔力を秘めた微細な結晶が織り込まれており、エレニアが僅かに動くたびに、まるで本物の星々が瞬くようにきらきらと輝く。

 その美しさは、ベルン王国の夜会で見かけた、どの令嬢のドレスよりも豪華で、洗練されていた。


「反発など、誰が口にできる。お前は我が帝国の最高位の賓客であり、何より、私の命の恩人だ。お前に世界で最も美しい装いを用意するのは、王太子としての、いや、私個人の当然の義務だ」


 アルフレートは彼女の背後に立つと、鏡越しに彼女の視線をしっかりと受け止めた。

 彼の大きな手が、エレニアの華奢な肩へとそっと置かれる。

 彼の体温が衣服越しに伝わり、エレニアの胸の奥がじんわりと熱くなった。

 アルフレートは職人の一人に目配せをした。

 職人は恭しく一歩前に出ると、ベルベットのクッションに乗せられた、ひとつの首飾りを差し出した。


「これは……」


 エレニアは思わず息を呑んだ。

 首飾りの中心に鎮座していたのは、先日、彼女自身がこの王宮で精製した、あの美しいエメラルドグリーンの結晶だった。

 帝国の至高の金細工師の手によって、結晶の周囲には細密な白金のツタが絡みつき、まるで大地の精霊が宿る果実のような芸術品へと昇華されていた。


「お前の紡ぎ出した奇跡の力を、世界中の連中に見せつけてやるのだ。特に、お前の価値を知らずに泥の中へと投げ捨てた、あの愚かな国の一族にな」


 アルフレートは首飾りを手に取ると、エレニアの美しい、なだらかなうなじへと自ら手を回した。

 彼の指先が、彼女の肌に微かに触れる。

 言葉を交わさずとも伝わってくる、冷たくも情熱的な熱に、エレニアの背筋に心地よい戦慄が走った。

 白金の鎖が首元で留められ、緑色の結晶が彼女の鎖骨の間で、静かに、しかし圧倒的な存在感を放って輝き始めた。


「……とても、温かいです」


 エレニアは結晶にそっと手を添え、つぶやいた。

 ベルン王国では、彼女の力は搾取される対象でしかなかった。

 しかし、ここでは彼女の力が、これほどまでに美しく、尊いものとして大切に扱われている。

 その事実が、彼女の失われていた誇りを、完全に蘇らせてくれた。

 彼女の瞳からは、かつてのお怯えや迷いは完全に消え去り、公爵令嬢としての気品あふれる輝きが満ちていた。


「ベルン王国からの招待状への返答は、すでに送らせた。レナード王子も、マリアという女も、喜んでこの舞踏会に出席するそうだ。自らの国が崩壊しつつあることも忘れて、帝国の権力にすがりつこうとな」


 アルフレートの口元に、氷のような冷酷な笑みが浮かんだ。

 彼はエレニアの腰を優しく、しかし確固たる力で引き寄せ、その額に静かに唇を寄せた。

 彼の吐息が彼女の肌を撫でる。


「エレニア、舞台は整った。お前を侮辱したすべての者に、完璧な絶望を与えてやろう」


 エレニアは彼の胸に顔を埋め、力強く頷いた。

 彼女の心の中にあるのは、もはや怨みではなく、自らの真実の価値を証明するという、静かな決意だった。

 世界で最も美しいドレスをまとい、彼女は間もなく開幕する復讐の輪舞曲へと、歩みを進める準備を整えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ