表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/3

残骸



古くからある様な、和風の旅館であった。入り口の前には立派な松の木が数本植えられ、綺麗に剪定されていた。”旅館 渚”とでかでかと看板がそびえ、その下の方に”伊勢 徹様”と書かれている立て札しかなかったことから、客は一人のみであるとうかがえた。



「すいませーん」



例の深い青色のジャンバーを身にまとった青年であった。彼が呼びかけたが返事はない。その後何回か呼びかけをし、ようやく気が付いた旅館の関係者がバタバタと足音を立てながら玄関へ向かってきた。



「もっ、申し訳ありません、、お待たせしました」



30代ほどの女性だった。簡素な着物を羽織り、髪もヘアゴム一つで雑にまとめていてとてもサービス業に従事するもののそれとは思えなかった。



「予約していたぁ・・・えっとぉ、伊勢様でございますね?ご案内します」



「あっ、いえ、、僕は予約はしていません。”扇 陽”と申します。ちょっと宿に泊まりたくて・・・」



彼は案内された部屋で持っていた荷物を置くと、バックからパソコンを取り出し調べ事を始めた。最初は黙々と作業をしていたものの、時間が経つにつれ独り言が増えていった。



「さて、どこにあるんだぁ・・・」



数十分後、あらかた知りたいことは知れたといった風に席を立つと、銭湯に浸かって、そして寝た。



―――――――――――――――――――――



彼、こと扇 陽の朝は早かった。朝5時に必要になりそうなものだけをバックに詰め、宿を発った。昨日充電を満タンにしておいたスマホのマップを使い、二車線道路を進んだ後、人気のない一本道の山道を進んだ。山を登っている途中、荷物の入っていない軽トラと一回すれ違ったが、それだけだった。

十五分ほど経っただろうか、相変わらず”人っ子一人いない”といったふうだが、代わりに空気がどんよりと、ジメジメとしてきた。森の湿気という奴だろうか、いずれにせよ暑くなったことに変わりはない。陽は上着を一つ脱いで、更に進んだ。

更にその五分後、目的地に着いた。端っこの家である。昨日、パソコンで調べた限りでは家全体は小さく見えたが、思った以上に立派な造りをしていた。だいたいが和風建築だったものの、いくつかの部分で洋風建築がそれに似合わぬ形で存在していた。改造工事が何回も行われて今の形になった、と言った風である。



陽は恐る恐る中へと入っていった。玄関のドアは硬かったが問題なく開いた。中は暗く、奥へ進めば進むほど、嫌な湿気と腐った卵の様な異臭がした。陽はその匂いを嗅いで、入ることを一瞬ためらわれたが、持参していたライトとマスクを使ってこの臭さを逃れようとした。この暗さはライトのおかげであまり大きな弊害とならなかったが、異臭はどうにもならなかった。マスクの隙間云々というより、ここ全体の空気すべてがその匂いとなって陽に押し寄せた。最初こそ我慢をしていたが、とうとう耐えられなくなり色々と模索していたところ、鼻をつまんでからはその匂いが幾分和らいだ。



まず探索したのは一階だった。普通の家(とは言いつつも構造からしてそうではないが)と変わらないようなものばかりが備わっていた。一階のどの部屋も探しては見たものの、部屋としてはリビングルーム、お風呂に洗面台、台所に、一階にあるベランダ、強いていうのなら玄関からまっすぐ進んで一番奥の右側にあった部屋が特殊ではあった。彫刻をするために作られた部屋のようだった。

室内全体はがらんとしていた。しかし、その広さでなお、奥の方にある2メートルはありそうな2つの仏像、動かないこと以外は本物と区別のつかないほどの迫力のある熊、そしてその下には人間の首がゴロゴロ転がっている光景に陽は度肝を抜かれた。しかしどれも彫刻であった。そして、それらよりも少し手前には大きな長机があった。おそらくはこの机の上で木などを彫り、彫刻とするのだろう。

その部屋を出ようとしたとき、ふいに目に留まったものがある。部屋の隅に木くずがまだ放置されたままなのである。木くずだけなら彼の目には違和感とすら認識させなかっただろう。だが、それを違和感足らしめたのは、その木くずの中に混じっていた、いくつかの固まった、白い残骸である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ