第019話(完)
そんなどったんばったん大騒ぎをした数日後。
教室移動中のゲイリーに、マリンは腕を思いっきり巻きつかせて、身体を押し当てていた。
「あ、あの……少し離れていただけると……」
「ヤダッ♪」
明らかに耳を赤くして、精一杯の抵抗を見せるゲイリーをマリンはぴしゃりと跳ねのける。
結局、あの後混浴もしなければ、恋人になるような進展もなかった。
入浴中にゲイリーがぶっ倒れてそれどころじゃなかったから、それは仕方がない。
そのあとゲイリーの状態が安定したのを確認し、マリンはサラの付き添い(道連れ)でゆっくりと風呂を堪能した。
上がった頃にはマリン達はその気持ち良さの虜になっていた。
身体を洗った時の洗浄魔法を使った時とは違うつるつる感とうるおい感。
お湯につかった時の芯から温まる感覚。
上がった後の石鹸やシャンプーに混ぜられていたほのかに香るラベンダーの香り。
それに何と言っても、変態の所業と色眼鏡で見ていたが、あの風呂のおかげでマリンはゲイリーに自分が女性だと思い知らせることができた。
相当高度な変態的所業だったはずだが、今の彼女は、彼に知らしめたと言う事実がたまらなく嬉しかった。
ドギマギするゲイリーを見るのも楽しいし、現在進行形で、どこを見て良いのか分からずに彷徨っている彼の視線も面白い。
端的にマリンは吹っ切れていた。
そりゃそうだ、裸を見せたのだ、これ以上何を怖がるというのか。
ただ、好意は行動で伝えているが、言葉にはしていない。
──それは外堀を埋めたあと。
もちろん、彼女はクラスメイトを含め、周囲に自分たちが同性カップルだと思われている事も知っている。
おかげで横恋慕されることも無い。
たまに女性のお姉さま方が耽美な目線でこちらを見てくるが、それは些細な事だった。
誰にも邪魔されない自分を意識してくれるゲイリーとの固有結界。
マリンは、それがたまらなくうれしかった。
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今日もマリンたちはゲイリーの隠れ家で風呂に入り、ゲイリーお手製の和食に舌鼓を打ったあと、笑顔で帰っていった。
風呂の支度はするが、もちろんゲイリーは覗いたりはしない。
その度胸もないし、せっかく風呂文化を受け入れてくれた彼女達を失望させたくはないからだ。
マリンたちが帰ると、ゲイリーの時間。
「あ゛~~……」
ゲイリーは、開けた空に浮かぶ月を見上げながら露天風呂の中でだらしない声を出した。
やはり風呂は良い。
疲れがお湯に溶けていくようだ。
入浴剤は流石に作れる気がしないので、季節になったら柑橘系でも入れてみようかと思案していると、ふと騒動の後、多少血走った眼の王様達に言われたことを思い出す。
何とか湯あたりから回復したゲイリーは王様達から自分の処遇について聞いた。
彼らは将来的に島国との外交官としてゲイリーを登用しようと考えていたようだ。
偏見が多いこの国でフラットな考え方ができる数少ない人物がゲイリーなのだ。
そんなに偏見が多いのかとゲイリーが尋ねたところ、
「貴族は特に暗喩が大好きでな……。
風呂に入ろうと言われたら閨に誘われたと思う人間がほとんどだ。
例外は……この辺境伯と宰相ぐらいか。
外務大臣も怪しい」
「……そんな人間が外務の長で大丈夫なんですか」
「他の周辺諸国相手だと辣腕なのだ」
「OH……」
との事で、相当頭の痛い問題らしい。
そして風呂文化の伝播にも尽力してもらいたいと王様が伝えるとゲイリーは2つ返事でOKした。
まさかの政府公認を受けたゲイリーは舞い上がる。
もちろんその危うさも承知の上だ。
無遠慮に風呂は良いぞと王都の中心で愛を叫んだところで、社会的に死んでしまうのが落ち。
今はとにかく、風呂に関して後ろめたさがまるでなくなった事がとてもうれしかった。
もちろん、外交官になるのも風呂文化の伝播も学園を卒業したあとのことにはなる。
「……良しッ!!」
両頬を叩きながらゲイリーは気合を入れる。
未だ何をすれば良いのかわかってはいないが、とりあえず夏休みを利用して辺境伯領にでもいってみようか、あそこの港には島国出身者もいるらしいので、情報収集がてら霊湯には入れたら御の字だ。
初めての異世界天然温泉……その存在にゲイリーは心が踊る。
踊った心で考えるのはやはりお風呂シチュエーション。
自分が入っていると背中から声を掛けられ振り向くと……。
そこまで妄想した所で、ふらっと湯船に倒れ込む。
不意打ちでマリンの裸を思い出してしまったのだ。
これまではどこか2次元めいた妄想だったのだが、先日思いっきり彼女の裸を見てしまった。
──いや、見せられたと言うべきか。
「うぅ……」
ゲイリーは自分でも認めるおっぱい星人である。
そのおっぱい崇拝の精神が認めている、あれはとてもおっぱいだった。
大きい? 小さい? そんな次元じゃない。
この世には惹かれるおっぱいというものが存在するのだと初めて知った。
前世含め、まともに異性のおっぱいを見たので残当である。
ちなみに母おっぱいは無効である。
残念ながらゲイリーはそこまで変態ではなかった。
さらにマリンについては、ゲイリーはその下半身も見ているが、現在の彼は思い出さないようにしている。
刺激が強すぎて頭がおかしくなりそうだったからである。
もちろん、もうマリンを男だとは思っていない。
ついてなかったから当然だ。
不意に下半身を思い出したゲイリーは鼻を抑えて、風呂のへりにもたれかかった。
(あぶない……また鼻血を吹くところだった)
うーっと唸りながらマリンの顔を思い浮かべてしまうゲイリー。
正直、更衣室やトイレに女子が混ざっていたとか、それなんてエロゲ?
と事情を聴いた今でも思うが、現実で起こっているので仕方がない。
あとサラがマリンの専属メイドで、王女だったマリンの護衛を兼ねている事も知った。
そのあと、様々な羞恥でサラに睨まれたゲイリーだったが、ちょっと新たな扉を開きそうになっただけで、サラが何をしていたのかまでは勘づけなかった。
勘づいていたらおそらくさすがのゲイリーもサラを痴女か変態認定していたかもしれない。
普通の人間は屋根裏に潜んで異性を監視したりはしないのでこれも残当である。
(そう言えば、お湯を取り換えてないし、今俺が入っているお湯にはマリンとサラの出汁も出ている事にな……)。
そこまで考えた変態は、なんとか這って湯船から上がった。
流石に刺激が強すぎた。
ひんやりする石床に全裸であおむけで寝転がりながら月光を浴びる。
「あああぁぁぁ~……」
顔を手で覆いながら恥ずかしさでいっぱいになるゲイリー。
王女とかメイドとか外交官とか風呂文化の伝播とかそんな事はどうでもいい。
とにかく、マリンとこれからどう接していけばいいのか。
前世も高校生で今世も学園の生徒である思春期ゲイリーの頭は、今夜もアオハル特有の煩悩で溢れているのだった。
─おわり─
ゲイリーの目的も一応達成されたのでこれにて完。
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