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第018話

やっと落ち着いた王様とダグラム、そして、サラ。

サラは少し離れた位置から、未だ険しい顔で、自分の祖父と王様に尋ねる。


「先ほどの話は……本当なのですか?」


彼女の問いに比較的落ち着いているダグラムが答える。


「全て本当だ。

 海の向こうの島国は真珠が名産でな、主にそれを貿易しておる。

 ほら、貴族の婦人にも人気があるし、見た事があるだろう?」


「東側の貴族夫人が真珠を付けているのはよく見かけます」


「そうさな。

 何せ、この国では真珠が取れんでな。

 我が領から近いほど輸送費は安いのだ。


 さらに言えば、知っての通りこの国に風呂への根強い偏見が蔓延しているのも事実だ。

 ハーレム王以降も、外で裸になりたがる変態貴族や娼館へ移送されることを

 風呂落ちといったりと、とにかくマイナスイメージがつきまくった。

 そのせいでこちらとしてはかの島国の人間に他の土地に行った際の注意喚起までしておるよ。

 過去にトラブルがあったのでな……」


当時の事を思い出し、ダグラムは眉間を揉んだ。

王様もため息をつく。


「貴族教育に入浴行為の見識を盛り込んだのはもう何代も前の国王だ。

 当時は、洗浄魔法の過渡期でな、まだ入浴文化が細々と残っていたが

 騙され乱暴される婦女子が多かったらしい。


 洗浄魔法の発祥はここ王都だ。

 浴場を潰してしばらくは、この王都は酷く悪臭のする街だったらしい。

 当たり前だ、当時は風呂どころか、水浴びすら忌避されていたのだ。

 洗浄魔法もないのだから、病気を患う者も多くいたそうだ。


 だからこそ、美意識の強かった女性が被害に遭っていたのだろうな……」


「……地獄絵図ですね」


「しかり……。

 その点ヒノセットはまだマシだった。

 土地柄、風呂を捨てられるわけもないし、そもそもが要所とはいえ王都民から見たら田舎領。

 羨ましい事に領民の結束力もあり、歴史をさかのぼれば一時期は

 他領の者を疎外していた事もあった。


 これは王都が荒れていた時期とぴたりと一致する。

 そういう土地柄故か、現在では、ヒノセットの住人は他の土地の者に気づかれないよう

 隠れて入浴するそうだ」


「お前の母親も昔は風呂好きだったんだがな、王宮にあがってからは入っていない。

 こちらでは不要どころか、傷になりかねんしな」


「本当に……宮廷闘争とは難儀なものよ」


「ゲイリー様は何故、そんなにまで隠されている入浴を知っていたんですか」


「腹を割って話したところ、どうやらひょんな事からお湯に浸かった事があるそうだ。

 それが気持ちよくて忘れられないのだという」


「温泉に入ったと?」


「いや、魔法の練習中に大量のお湯を出した事による事故だそうだ。

 入浴はな、好きなものはそんな体験だけでも好きになってしまうのだ」


「ゲイリーは泳げもするそうだからな、さもありなん」


男2人が半裸でうんうん頷いている。


「サラよ、わしがお前に行った奴に対する見解は何もでたらめと言うわけでは無い。

 ゲイリーは風呂の魅力に取りつかれ、執着し、迫害されることを恐れていたのだ。

 なまじ、貴族ながらにこれほどの技術を身につけさせてしまうのほどに、な」


3人はゲイリーの作り上げた、気兼ねなく風呂に入るための隠れ家を見る。

サラは複雑な気持ちになりながらもため息をついた。


「……分かりました。

 スゥ男爵領にあった家屋の破壊痕、(私達)レベルの彼の隠し癖、全てに辻褄が合います。

 確かに、衝撃的でしたし、心をかき乱されましたが、お爺様の言うようにしょうもない秘密だったようですね……」


そう言ってサラが納得するのを見て、王様と前辺境伯は心の底から安堵した。


勿論、ゲイリーが2人に語った事に関しては嘘も方便である。

風呂はもちろん好きだが、本当にど真ん中で好きなのはラブラブお風呂シチュである。

その欲望が不特定多数に向いてないだけで、正直、ゲイリーはかのハーレム王と似たような思考回路をしているような気がしないでもない。

しかも全てが嘘じゃない分、質が悪い。


そして王様もダグラムも実の所、全てを話していない。


前辺境伯(ダグラム)の言っていた霊湯は確かにあり、美肌や不眠症等に効くのは間違っていないが、その別名は【子宝の湯】という。

子供ができにくい場合は行くと良いとされている場所だ。

これのおかげで、辺境伯家は代々多産なのだ。


そして、王様は、公務の合間を縫ってそんな秘湯に行ったり、秘密裏に王宮に作らせたりして、マリンの弟をこさえた。

当時の国王夫妻は藁にも縋る思いで利用していたが、今や入浴が趣味である。

言わずもがな夫婦円満の秘訣と言っても良いかもしれない程度にどっぷりたっぷり使っている。


結局、男どもは欲望のまま……綺麗な言い方をすれば純愛のために変態行為を肯定しているのだ。

要するに、多少マシなだけで、この3人はなにも高尚な精神でマリンとサラを言いくるめたわけではないのである。


──まぁそんな欲望まみれな動機が大人から見れば純情なサラに分かるわけもなく、彼女は眉間を抑えながら目下の心配を口にする。


「それにしてもマリン様、大丈夫でしょうか。

 ゲイリー様は無体を働く方ではないとは思っていますが、

 流石にマリン様は自棄を起こしているだけなので、どうなるのか見当がつきません……」


その言葉を聞いて、王様もダグラムも確かにその通りだと、頭を抱えるのだった。


◆□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□◆


ゲイリーは緊張した面持ちでマリンを待っていた。

よくよく考えると友達と風呂に入るなんて前世でも経験していない事だったのだ。

ちなみに先ほど王様と前辺境伯と一緒に入ったが半分脅されていたようなものなのでノーカンである。


(とはいえ、これでマリン様が入浴を受け入れてくれれば、

 純愛ラブラブお風呂シチュについて語り合えるかもしれない。

 まぁ、このせか、いや、この国だとシチュの話題は相当難度の高い変態だと

 思われてしまうかもしれないけれど、多少の猥談くらい、

 男同士なんだから大丈夫だと思いたいなぁ)


湯舟に浸かりながらふぅ、と息を吐くゲイリーはやっぱりマリンの事を女性だとは認識していなかった。

あれだけの人間に言われれば少しは、そうかな? そうかも。と思うのが普通のような気がするが、仕方ない。

なにせゲイリーは彼女が男子トイレに入っていく姿を直で見かけているのだ。

その時のマリンは確かに多少辺りを気にしている様子だった。

まぁ、音姫のない世界だ。

している時の音を聞かれたくないという気持ちは、ゲイリーにもわかる。

あれだ、学校で大便をするのが恥ずかしいというあの感情だ。

学校でう●こしてたーっ! とからかわれたくない気持ちは誰にだってあるだろう。


そうなると、ふとゲイリーは思い直す。


(マリン様は男同士でも裸を見せあうのが苦手な人かもしれないな。

 今も時間がかかっているし……。

 そうなると、お風呂シチュより先に、アメニティや石鹸の話題について

 話を膨らませていくのが吉かもしれない。

 そう言えば、昔振ったラベンダーとかの話題に食いついていた気がする。

 とりあえずはそうだな、お風呂を好きになってもらう事!

 それを目標にしよう!)


察しが良いのに思い込みが激しいゲイリーはそんな事を考えながらマリンを待つ。


そうして、それから多少時間が経過し、異界の扉が開かれた──。


◆□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□◆


ゲイリーのもとに、マリンが入ってくる。

バスタオルを胸までしっかりと巻いてはいるが、その姿は裸である。

狭い肩幅、細めの身体、低身長に無い胸……ゲイリーがもう少し女体に詳しければ腰の位置でその身体は女性のものだと分かっただろう。


まぁ、それは大きなおっぱいに重力を惹かれている彼には酷な話なのかもしれない。


その性癖故、マリンのバスタオル姿を見ても男臭さがなく、見事なショタ体型だとゲイリーは内心感心していた。

関心のしどころがおかしい気がするが、ゲイリーなので仕方がない。

しかし、思考回路が少しおかしくても気遣いのできるゲイリーは、マリンの身体に言及したりはしなかった。


「初めてのお風呂で恥ずかしいのに入ってきてくれてありがとうございます。

 まずはそこの桶で軽く自分の体にお湯を掛けてください。

 身体に着いた目に見えない汚れやほこりを落とすのが主な目的ですが、

 いきなり入ると身体がびっくりしてしまうこともあるので」


懇切丁寧にレクチャーしながらも、自分の体にまるで反応しないゲイリーを見て、マリンの頭は沸騰寸前だった。

もちろん彼が純度100パーセントの善意で言っている事はマリンも分かっている。


(先ほど勢いで言ってしまった言葉に後悔しても、恥ずかしくて死にそうなのに、頑張ってここまでやったのに、こいつは……ッ)


そこまで自分の体に魅力がないのか、と。


そこまで自分が男だと思うのか、と。


真っ赤な耳を更に真っ赤にしながらマリンは射殺さんばかりにゲイリーを睨みつけた。


「ど、どうしました……?」


僅かな動揺がゲイリーに走る。

やはり男同士でも混浴は厳しかったのだろうか。


それはそうかもしれない、とゲイリーは思った。

(元々マリン様は、入浴が変態の所業であると教えられてきたはず。

 それをいきなり同性同士ではあるにしろ裸の付き合いをするのは抵抗があるかもしれない。

 やっぱり最初は1人で……。

 でも、これで俺が出ていっても良いのだろうか……)


床は掃除を欠かした事がなく滑る事はないのだろうが、石鹸等を使って身体を洗う場合はその限りではないかもしれない。

これで滑って転んで頭を打って流血騒ぎになると……。


(あれ? そう言えば、銭湯では先に身体を洗ってから湯船だったっけ)


とりとめもなく出てくる議題にだんだんとゲイリーの脳内会議は混迷を極めていく。

動揺したゲイリーの頭はそんな感じで多少混乱の様相を呈していた。


──だから止められなかった。


「……ゲイリー」


マリンに呼ばれ、ゲイリーは定まっていなかった視線を戻して、彼女をしっかりと両目で捉えた。

しっかり見た彼女は犬歯をむき出し、今までに見た事がないほど歪に笑いながら、バスタオルを広げた。


──バスタオルを広げた。


それはまさに極稀に確認される日本の春の風物詩、露出魔の行動のそれである。


一瞬の沈黙。


だがそれは一瞬の出来事だった。


マリンを待つ間、多少長湯をしていたゲイリーの血流はとある一点に集中的に集まり、まるでマンガのように鼻から赤い花びらとしてさよならバイバイしていった。


スローモーションになるゲイリーの思考。

ゆっくりと湯舟に倒れ込むのが分かっていながらそれが止められない。

ゲイリーの思いはただ1つ。


「お前……女、だったの……か……」


そうして、バシャンという水しぶきを上げながら、ゲイリーの女の子と混浴したいという念願は成就されたのだった──。

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