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第017話

「この変態共ッ!!」


パンツ一丁で畳に正座させられている3人は、友達または娘、はたまた孫から思いっきり罵倒の言葉を食らっていた。


ちなみにお叱りを受ける前に、服を着ようと思った3人だったが変態に服は不要だろうと、マリンは許可しなかった。

──パンツはマリンの目線が一点に固定されてしまうので温情である。


「さ、サラや。

 流石にわし老人だし、風邪をひいて」


「何か言いましたか?」


「アッイエ、ナニモ……」


ダグラムの命乞いをものともせず、サラも絶対零度の視線をむける。


「……まさか、まだ尾行していたとは」


「うるさいですよ、変態じじい」


「ぴぇッ」


小さく悲鳴を上げるダグラム。

彼としては、風呂の事を悟られず、事実に沿ったカバーストーリーを与えてあれだけ無害だと印象付けたはずなのに、まさかまだ尾行を続行しているとは想定外も良いところだった。

そして、


「……え?

 尾行って何の事ですか……?」


別に難聴主人公ではないゲイリーがその言葉を聞き逃すわけもなく、普通に驚きながらダグラムに尋ね、


「うるさいよゲイリー。

 そんな事を疑問に思う暇が変態の君にあると思うのかいッ?」


そして、旗色不利の予兆を感じたマリンに言論弾圧され、呆気なく沈んだ。

腐っても王太子として教育を受けた彼女にとってこれくらいの誤魔化しは朝飯前である。

そしてここにいるもう片方の王族、というか国王陛下様は、普通に口をつぐんだままだった。

しょぼくれながらもダグラムはそんな王様に耳打ちする。


「黙ってないであんたも娘を止めてくれ。

 王様じゃろ?」


「王様だろうが何だろうが、今の娘に強く出れるわけあるまい」


項垂れる王様にまたしても難聴主人公ではないゲイリーが反応する。


「えっ?

 サラさんって王女様なんですかッ?!!」


「違うッ?

 王女はボクッ!!!」


秒でサラが王女様なのと驚くゲイリーに自分がそうだと即反応するマリン。

しかし、半裸でもゲイリーはやはりゲイリーだった。


「え……ッ?

 だって、マリン様は男じゃないですか」


「ちがうの、王女なのッ!!」


「そりゃあ、自分の友達が王女なんてびっくりですけど、

 男なのに自分が王女なんていうのはどうかと……」


「だからぁッ、本当にサラは違うのッ!!

 ボクが王女なのッ!!」


地団駄を踏み真っ赤な顔で否定するマリンだが、ゲイリーは全く信じるつもりがないのか、火に油を注いでいる。


それを見て王様達はまるで信じられない者を見るような目でゲイリーを見ていた。

王様は特に信じられなかった。

マリンは幼さが残るが、彼女の母親に似て確かに美人だ。

女性だと言われたら、そうかもと信じたくなる程度には女性的な顔つきをしている。


「……割り込んですまないが、ゲイリー君。

 君はなぜそこまでかたくなにマリンが女性ではないと言い張るんだい?」


凄く嫌な予感がする。

そんな気持ちを押し込めて王様はゲイリーに尋ねた。

ゲイリーはあんたも俺を騙そうとしているのかとでも言いそうな表情で、言った。


「だって、そもそもマリン様は男子更衣室を使ってたし、

 トイレだって男子トイレに入ってたんですよ?

 もしマリン様が女性なら、これほどの変態行動がありますか?

 そんな人が今俺達を変態だとか罵るわけないじゃないですか」


はじめ、ゲイリーが何を言っているのか判らなかった。

でもその言葉は徐々にその場にいた全員に浸透していく。


まず、王様が顔を覆いながら土下座のような体勢でばたんと身体を折った。

罪悪感処の話じゃない、娘に男として振る舞わせると言うことが何を意味しているのか、その断片がえぐり込むように突き刺さったのだ。


次にダグラムだ。

妙に納得した。

ここはお貴族様の子供が通う学園だが、まさか生徒1人ひとりのために学園中にトイレや更衣室があるわけが無い。

必然的にトイレも更衣室も男女で分かれている。


そりゃ、男として信じるわ。

女として誘われないわ。


あれ?

だとすると安全確認のために孫娘も男子トイレや男子更衣室に入ったという事だろうか?

ダグラムはここで考えるのを辞めた。


しかしサラは違う。

安全確認のため、手抜きは許されない。

男子更衣室も男子トイレも中に人がいないか確認してからマリンを通した。

あくまでただの部屋としか認識してなかったが、目の前の半裸3人が嫌が応にもそれらがなんのための部屋だったのかを知らしめてくる。


──自分は異性が上半身、ないし下半身が裸になる部屋に躊躇なく入っていたのだ。


というかよくよく思い出すと、サラは既にゲイリーの裸もばっちり見ていた。

そりゃそうだ。

マリンの命令とはいえ、彼の部屋の屋根裏に潜んで彼を監視していたのだ。

むろん、着替えていた生まれたままの姿な彼も見ている。

しかも天井から覗き見ながら。


今まで思い出さなかったのは出来るだけ思い出さないようにしていただけだった。

よく考えると、彼に惹かれているように感じていたのも、異性の彼が裸だった記憶があったからだ。

御庭番なのに男に免疫もなく、不可抗力とはいえ、初めて裸を見た異性がゲイリーだ。

そりゃ意識もする。


サラは顔を真っ赤にしながら膝から崩れ落ちた。


最後にマリンである。

嫉妬、失望、怒り、その他様々な感情が爆発している初恋マリンは始め、何を言われているのか分からなかった。

彼女にとってそれは当たり前の事だ。

──当たり前のことである。

────当たり前のことだった。


が、彼女も薄々気づいていた。

というか、ちょっと、ほんのちょっとだけ、爪の先ほどの欲情をトイレで抱いたことがある。

食を巡る膠着状態の時にふと便器に座りながら考えてしまったのだ。


──このトイレ、ゲイリーも使ってるんだよね。


と。


そこから何かをしたわけではない。

普通に用を足しただけである。

しかし、マリンの思考は先ほどのゲイリーのクリティカルヒットで完全に真っ白になっていた。


そんなわずかな時間の隙を流れ弾で心的に満身創痍な王様は見逃さなかった。


「……アクアマリン、それにサラ嬢。

 この国では別に入浴、お風呂に入る行為は違法ではない」


全員が王様の方を振り向く。

マリンとサラはショックのあまり有り金全部溶かしたような顔をしている。


「そもそもは、昔この国でハーレム王を自称する貴族が公衆浴場で盛った事が発端だった。

 その時は洗浄魔法もなく、身体を洗うという、入浴行為は人間にとって必要不可欠なモノだった。

 しかし、まもなくそのハーレム王が病気を患い、

 それが浴場を起点とした感染症である事がわかってしまった。

 国には病が流行し、最終的に公衆浴場……その時の感染源である施設を取り壊すことにより、

 蔓延防止策としたのだ。


 だが、これだけでは終わらなかったのは、皆が知る通りだ。

 いつしか、風呂と言うものは捻くれて伝わり、変態の代名詞となるまでになってしまったのだ。


 しかしな……」


王様は、息を整えながら、力を溜める。


「そんな常識、海を越えたら何の意味もないッ!!」


その言葉に学生の3人は目を見開いた。

特に驚いているのはゲイリーだ。


前世の定着した4歳の時、使用人にお風呂の事を聞いた時のあの般若のような顔……。

あのリアリティショックのせいで、この世界で入浴行為が変態の代名詞だと思っていた彼の驚きは相当なものだ。

それは彼だけではない、子供の頃から入浴のお誘いは閨のお誘いであり、入浴行為自体が露出癖のある変態の所業だと教えられてきた女性たちへの衝撃も相当なもので、マリンはふらついて、へたり込んでしまうほどだった。


王様は尚も続ける。


「ヒノセット東端にある港から海を超えた先には入浴文化の根付いた国が確かに存在している。

 風呂の効能は主に血行促進らしく、身体の凝り、関節の痛みなど多岐に渡る。

 そう、その島国では入浴とは健康法の一種なのだ。


 そして、その島国との交易は今のところヒノセットのみで行っている。

 アクアマリン、何故だか分かるか?」


「……わ、わかり、ません……」


「理由は簡単だ、ヒノセットには入浴文化が残っているからだ」


「「「えっ?」」」


「入浴の事を閨への誘いで、入浴を露出行為と思っている他の土地に住む国民が、そんな国と外交関係など結べるものかッ」


「──ここからはわしが話そう。

 洗浄魔法が伝播する過渡期に置いて、ヒノセットは伝播が遅かったのだ。

 さらに言えば、幸か不幸か感染症についての被害も出ていない。

 かのハーレム王が起こした事件は王都の出来事だったのでな。

 感染症がこちらまで届かず、さらに噂がくるのも遅かった。


 ……元々、湿地であることも関係していてな。

 あの気候と土地のせいで、領民から風呂を取り上げられる訳にもいかなかった」


昔から米食などの第一次産業が盛んだったヒノセットでは、仕事終わりに風呂に入るのはもはや定番だった。

それを禁止すると言うことは、領民に泥にまみれたまま、眠れというのと同義だった。


「さらに、あそこには、代々ヒノセットの当主のみが口伝で受け継いでいる霊湯がある。

 ただ一人の真なる変態の犯した罪で先祖代々御利益をもたらしてくれる霊湯を

 捨てられるわけがあるまい?」


霊湯、要するに温泉があると言う言葉にゲイリーは内心歓喜するが、女性二人はまさかの事実に固まってしまった。


「ダグラムさん、もしかして霊湯にも効能があるんですかッ?!

 体の冷えとかその、海の向こうの島国にある感じのものが」


「……あるとも。

 温泉の数が圧倒的に違うようだが、霊湯には美肌や不眠症に効果があると言われている」


「なるほど~」


半裸な上にこんな状況で温泉に思いを馳せるゲイリーを見てダグラムと王様は、


(こいつはホンモノだ)


と思った。

そして、今まで孤軍だと思っていたゲイリーは国外、更には国内にも少数とはいえ味方がいる事が分かり、あろうことか、一歩前に出てマリンたちにプレゼンを始めた、パンツ一丁で。


「確かに、風呂は裸で入るものです。

 裸になる事に恥ずかしさを覚えることもあるでしょう。

 でも、それでも余りある恩恵があるのですッ!!

 気落ちにも効果があると言います。

 そうだ、サラさんは女性なので難しいですが、マリン様!

 一緒にお風呂に入りましょう!!」


最後の言葉に反応して全員がゲイリーを睨みつけた。

しかし、彼は気づかない。


「同じ男同士、裸の付き合いをして腹を割って話しましょう!!

 先ほども王様? やダグラムさんと風呂について語り合っていたのです。

 きっと男同士裸の付き合いをすれば、マリン様も風呂が変態の代名詞だなんて偏見、

 払拭できるはずですッ!!」


ゲイリーの後ろで王様が怒り狂っていた。

ダグラムはそれを押さえつけながら事の成り行きを見守る事にしたのだが、それと同時に呆れていた。

同じ理由ならサラを誘っても良いはずなのに、どこまで純朴でどこまで天然な人間なのだろうか。


そら、1人娘を裸の付き合いに誘われたら王様のように、ラッキースケベでも狙ってるのかふざけんな! と切れたくもなるだろうが、マリンについてはもうこれは完全に、王様が元凶である。


誘いを断るも良い、受けるもよし。

どちらにしろ、この決断はマリンが下すべきだ。


(まぁ、普通に考えれば、ゲイリーの目の前で裸になるのだ。

 混浴を受けるはずがな……)


「わかったよ、入ってやるよ。

 入ってやろうじゃないかッ!」


マリンが青筋を立てて啖呵を切った。

こうでもしなきゃ、自分が女だと伝わらないんだろとヤケを起こしていた。


(あっれえええええええええええッ?)


ダグラムは驚愕の表情で口をあんぐり開けた。


「アクアマリンッ、やめ……ッ!!」


ダグラムは王様の口を塞ぎながら放心状態のサラを促し外に出る。


「ゲイリーは先に入っていろッ!!

 準備が出来たら直ぐに向かうっ、に、逃げるなよッ?」


「逃げませんって♪

 無茶を聞いてくれてありがとうございます!

 あ、タオルはそこにあるので、恥ずかしければ、前を隠してきてくださいね。

 ここはタオルをお湯につけちゃいけないとか細かなルールはないんで」


そう言いながら一目散にパンツを脱ぎ捨て、風呂につかるゲイリー。

彼らの言葉を後ろで聞いて、ある種諦めの境地に立ったダグラムは2人の邪魔をせず、王様を引きずりながら、孫娘を連れてクールに外に出るのだった、半裸のまま。


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