マウスバロウ
次に瞼を開けた時に見た天井には黄色い電灯がついていた。まぶしさに目を細めながら体を起こそうとするが、起き上がれない。強烈な渇きと熱がワンテンポ遅れて襲ってくる。足のある場所が激しく痛んだ。そこに誰かが影を作った。影は俺の口元に何か冷たいものを当てた。そこから冷たい何かが流し込まれる。水だ。ほんのり生臭い水は俺ののどを潤し、少しばかし熱を冷ましてくれた。おでこに何か冷たいものが当てられ、それで体が少し楽になった俺は再び瞼を閉じ、深い眠りへと沈んでいった。
起きては水を飲み、眠る繰り返しがしばらく続いた。徐々に熱が抜け、体が楽になると、とうとう起き上がれるようになった。黄色い電灯に目を細め、体を起こす。あたりを見回すとバーのような場所であることが分かった。俺は、バーのソファ席で横たえられ、給仕服を着た少女に面倒を見てもらっているようであった。体を完全に起こすと少女が小走りに寄って来る。
「もう大丈夫なんですか?」
「・・・ああ。だいぶ楽になったよ。ここはどこなんだ?」
「ここはバー、ブラウンラット。マウスバロウの憩いの地です。」
「マウスバロウに着いたのか・・・。」
俺は思わず首輪をつかもうとして、それがないことに気付いた。
「外させてもらいました。後でベヒーモスに、お礼を言ってくださいね。」
「一生外せないものかと・・・。」
「ベヒーモスの怪力なら一発なので。超合金だってねじ切れますよ!」
「はは。すごいな・・・。」
「奴隷市から来たんですか?」
「いや、ウェイストホールからだ。」
「ウェイストホール!二人目ですね。珍しい。あそこの警護抜けるの大変だったでしょう。」
「犬にテーザーガンに有刺鉄線。確かに苦労した。一人は捕まっていたな。」
「ああ。やっぱりそうだったんですね。スタティスが心配していました。家族のような間柄だったようです。」
「その人のおかげで逃げおおせたようなものだ。鉄柵を登っているときに管理者に見つかって・・・でも、捕まっていたその人が暴れてくれたおかげでテーザーガンを避けられた。」
「そうだったんですね。スタティスに会ったら伝えてあげてください。」
彼女が俺の手に煙草を一本持たせた。
「これは?」
「今からボスに会ってもらいます。マウスバロウの創設者です。我々を受け入れてくれた寛大な方でもあります。私の方から、あなたをここに受け入れたことは話してあります。その煙草に火をつけて吸ってもらったらあなたは晴れてマウスバロウの住人です。」
「受け取ってもらえなかったら?」
「今から考える事ではありませんよ。礼節をわきまえていればボスは受け取ってくれるはずです。あなたの中にも、初期記憶はあるのでしょう?」
「ああ。」
初期記憶。正直言って忌々しいそれは、俺が元は人工的に作られた遺伝子組み換え人間であることを意味していた。初期記憶には人としてのふるまい方から、一般常識が存在している。その為生まれてすぐ言葉を理解できたし、口の方が発達すれば喋ることもすらすらとできる。俺が、これらを忌々しいと思っているのは、人間らしくないと思っているためである。普通に生まれてきた人々には、初期記憶なんてない。俺にとって、これは一種の奴隷の証拠のように感じていた。
少女が俺の手を引いてバーを出て、長い通路を歩いて行く。アリの巣のようにマウスバロウは枝分かれしているようであった。そのうちの一つの空間に出ると少女は
「頑張って。」
と残して、俺を置いて行った。俺は一歩踏み出してその空間に入っていった。元は質が良かったであろうチェアにその人は座っていた。ぐるりとこちらを向くと、軽く手を上げる。齢七十くらいに見えるその人はしわがれた声で俺にもっと近づくように言った。その指示に従って近づくと性別不祥な顔が俺を見上げた。指を差し出したのを見て首をかしげていると、
「エレノアからもらってないのか?」
そう言った。俺ははっと気づき煙草を取り出した。老人の手に優しく乗せるとライターを渡される。火をつけてやると老人は満足そうに俺を眺めた。
「ウェイストホールは、どうだ?相変わらず、放射性廃棄物で人は死んでるか?」
「はい。ここに来る前に何人かが熱を出して寝込んでいました。数人ぐらいはきっと死んでいるころでしょう。」
「全くひどい話だ!装備さえあれば死なずに済んでいるだろうに。資源は潤沢にあるはずなのにな。もっとウェイストホールでの出来事を聞かせておくれ。」
老人は激しい感情をのぞかせながらそう言った。俺は、名物おじさんの話や、見せしめの鞭打ち処分が月に一回あったことを語って聞かせた。老人はうんうんとそれを黙って聞いていた。
「仲間の肉はまずかろう。酷なことをするものだ。」
「はい。人の所業とは思えない。」
「ここには、仲間の肉を食らう必要も、飢える必要もない。危険な病に怯えることもな。不自由が完全にないわけではないが、安寧は確かにある。仲間と協力して生きることを誓いなさい。裏切らず、助け合うことを約束すればいつまでもここにいていい。」
「誓います。もう、あそこには戻りたくない・・・。」
「エレノアの元に戻りなさい。彼女からここの事をいろいろ教わるのだ。名前も必要になるだろう。彼女がきっといい名をくれる。たくましく生き延びなさい。」
俺は頭を下げて、元来た道を戻った。幸い方向を指し示す看板があったためバーにはすぐに戻れた。
給仕服の少女は俺に気付くとすぐに駆け寄ってきてくれた。
「エレノアっていうんだな。煙草はすぐに受け取ってもらえたよ。」
「へぇ、珍しいこともあるのね。ボスってば、中々焦らして煙草を受け取ってくれないことがほとんどなのよ。そうね、自己紹介が遅れたわ。私はエレノア。バー、ブラウンラットの看板娘よ。」
彼女はスカートの裾を持ち上げてお辞儀した。可憐な少女にぴったりのしぐさだ。
「ここで生きていくにあたって、仕事と名前が必要ね。こっちに来て。」
エレノアの案内で、カウンター席に座る。彼女は再生紙を取り出して、俺の前に置いた。
「どんなことが得意?」
「根気がいる事なら得意だ。力仕事なんかもできる。」
「あなたは小柄だからなー。力仕事は大男たちの専売特許だから。根気がいる仕事と言ったら、農業かしら?繊細さはある?」
「難しい質問だな。細かい作業自体はあまり得意じゃない。ごみの処理でも、分別は他の奴に任せてた。」
ごみの中にも危険物が混ざることがあった。そういうやつは最初に分別して、分解後、確認するときに危なくないように別の穴に分けて入れることが多々あった。大半は問題なく溶かされるが、たまに残る時があると手を怪我する奴は点々と居た。混ざっていると、油断して怪我をしてしまうのだ。そして、そういう作業は苦手であった。
「そうね・・・。資源の運搬とかの方がいいかしら?」
「というと?」
「バーに酒とかを仕入れるの。ほとんど運ぶのがメインよ。本当は人手は足りてるんだけど、もうすぐ六十になるおじさんが休みがちになっているから、その穴を埋める形で入れないか相談してみるわね。」
彼女が紙に「バーの仕入れ作業希望」と書く。
「あなたの名前を決めましょうか。うーん。どうしましょう。」
「名前を決めるのに何か法則性はあるのか?」
「特には。特徴で付けたりもするけど。あとは、好きなものからとか。ちなみに、マウスバロウに連れてきた人間か、マウスバロウで初めて会った人間がその人の名前を付けるしきたりなの。」
「先に名前があったら?」
「大体改名することになるわ。皆名前と一緒にトラウマを背負っていることが大半だからね。」
彼女がペンを回す。
「そうね・・・。レッドは安直かしら。うーん。ヴァーミリオン。」
「ヴァーミリオンって?」
「オレンジがかった朱色の事よ。火傷の跡にしては色が明るすぎるかしらね。」
「気に入ったよ。でも少し長いかな。」
「じゃあ、ヴァンで。」
生まれて初めてもらう名前が再生紙に書かれる。
ヴァーミリオン ーミリオに訂正線を引いて ヴァン
「ヴァン。マウスバロウを案内してあげる。」
紙を折りたたんで懐にしまうとエレノアは俺の手をつかみ、立ち上がらせた。
「前にも言ったけど、ここはバー、ブラウンラット。マウスバロウの入り口で、酒や煙草を嗜むものの交流場所。私はここの看板娘で、フィッシュアンドチップスはここの名物料理。フィッシュは培養魚肉なんだけどね。リザルがマスターをやっていてマウスバロウ全体の事とか、巷のうわさを知りたかったらお酒を頼んでから聞くといいわ。情報はタダでは売れないらしいから。」
カウンターの向かいにいる男の人がスマートにお辞儀した。俺も、お辞儀を返す。
「次は、商店街に行きましょう。」
そう言って手を引かれ通路に入りアリの巣構造の一つの巣の部分に入る。空間は中々広い。露店が立ち並び様々なものを売っているようであった。道の真ん中にエレノアは立ち両手を広げた。
「ここが商店街。欲しいものがあったらここに来ればいいわ。お金はいるけど、大概のものはここで得られる。おすすめはミントのガム。中流層の町で売られているものと変わらないのよ。値段も安いし、腹は満たせないけど食べた気になれるよ。膨らませられるのも面白いしね。」
そう言って彼女がガムを一つ買ってくれた。手のひらに緑色に着色されたガムが乗っかる。口の中に入れると、すっきりとした味がした。しばらく噛んでから飲み込む。商店街を出て、さらに奥へと入っていく。
「ここが住宅街。壁は薄いけど、一人一人が個室を持てるの。大体四・五畳くらい。ベッドが置けるわ。小さい机と椅子もね。家賃がかかるからあなたはしばらく共有の宿舎で寝泊まりすることになるでしょうけど。」
住宅街の入り口をざっと眺めて別の穴に通される。そこには、仕切りなどもなく、ウェイストホールで見たような二段ベッドがぎちぎちに詰められ、何人かが横になっていた。
「一人一ベッドだから、ウェイストホールよりは快適だと思う。スタティスが言ってたわ。下段だけでも二人で眠るって。」
「そうだな。二人で寝ていたよ。冬場はお互いの温度があってよかったが、夏場は暑くてきつかった。それでも、疲れてしまえば寝れたけどね。」
エレノアがそうだろうと頷いて、今度はと、手を引く。
「こっちは共用のシャワールーム。水の出はあまり良くないけど無いよりはましでしょ。下水まで続いてるから匂いが来てしまうのがネックかしら。」
確かに少し前に嗅いだ下水の匂いが漂ってきていた。さらに奥へと進んでいく。
「薬草園と工房。わずかな水と光で育つ薬草を育ててる。ドクダミとかね。さっきのガムに使われているミントもここで育つのよ。工房では、いろいろな物を作ってる。服に道具類、さっき見た住宅街の家具とかね。」
遠くでトンカン音が聞こえた。ほのかに煙く、熱も感じる。
「暑いな。」
「そうね。次に行きましょう。」
手を引かれ次に行った空間は、まぶしく目を細めざるを得なかった。
「ここは?」
徐々に目が慣れてくると、青々とした緑が茂っているのがわかった。
「農地。ここはね、ユートピアのはずれだから外からの光を取り込めるのよ。稲とか小麦とかいろんなものを育ててる。労働の手も多く必要な場所なの。でも、案外繊細さも求められるから。」
風がそよいでいた。心地よさに両手を広げ、全身で自然を感じた。
「みんなここに休みに来るのよ。邪魔をしなければ出入りは自由だから。」
暫く眺めて、通路に戻る。
「最後よ。」
そう言って通されたのは一番奥。アリの巣で言えば女王でも住んでいそうな場所。壁にガラスが細かく張られていた。初期記憶で知っている。ステンドグラス。
「ここは・・・。」
「教会よ。何十年もかけてボスが作った、マウスバロウの中心地で我々の拠り所。死んだらここに埋められる。ウェイストホールにいるような微生物がいるの。あそこのものほど早く正確に分解するわけじゃないんだけどね。怪我人や病人の治療場所でもある。」
「俺はバーで面倒を見てもらったよな。本来はここに来るのか?」
「そう。私が無茶を言って、バーにあなたを置かせてもらったの。死者の隣で私が見つけた人が治療されるのって、なんだか縁起が悪いような気がして。」
「縁起なんて抽象的なもの信じているのか?」
「まあね。縁って意外とあるものよ。あなたを私が見つけたようにね。」
エレノアが奥へと進んでいく。扉がいくつかある。かすかにうめき声が聞こえ、人の気配がした。扉の奥で、病人が寝かされているのだろう。天井は吹き抜けで、何かの根が降りていた。根は、壁を伝い、かなり広範囲に存在している。
「この根は?」
「ご神木の根。命の源。マウスバロウでの信仰対象よ。」
「神はいないって証明されたのに?」
「それは、遺伝子学の中ででしょう。ここで生きる人々にだって、心の支えはいるもの。」
エレノアが扉の一つを開ける。そこにはいくつもの加工された石が並んでいた。
「ここが墓地。死者が出るたびに工房で作られた墓石が置かれていくの。ここで得た名前を刻んで生きていたことが証明される。」
その様は圧倒的だった。ウェイストホールでは知りえなかった、得られなかったであろう死という重みがそこにはあった。存在証明がこの場所を特別なものにしていた。
「俺もここに・・・?」
「何年も先の事よ。今は忘れてしまいましょう。」
彼女に手を引かれて墓地を出る。
「さて、番外編よ。外に出ましょう。」
長い通路を歩いて、バー、ブラウンラットにたどり着くとエレノアが反対側の扉を開けた。
「ここからは危険な外だから気を付けて。マウスバロウという安全地帯ではないから。」
小さな段差を降りてあたりを見回すと土壁の通路だった。そこをしばらく歩いて行く。
「ウェイトがバーのバイヤーのリーダーなの。バーではよくお酒が入るから喧嘩とかも起こるんだけどね、そうなるとウェイトが納めてくれるの。大概ソファに投げ飛ばしてね、ソファちょっとぐらい寝心地悪かったでしょ。」
「マットレスの無いベッドで寝てたからな。気にならなかったよ。何人ぐらいと仕事するんだ?」
「二、三人よ。作業者自体は少ないから。後は、仕入れ先で数人と関わるくらい。」
「仕入れ先はどこなんだ?」
「これからわかるよ。まぁ、心配はいらないからね。」
通路が広がる。あの下水道が目の前には広がっていた。
「すぐよ。」
そう言って、エレノアは近くの梯子を上った。マンホールをどかして外に出る。若干の心臓のドキドキを感じながら後に続く。空が見えた。あたりを見渡す。ここは路地裏なのか、暗い。
「ここは?」
「酒場の裏通り。ここ一帯が酒場なの。他の店もあるけどね。夜の店の通りってやつよ。」
「中流層の住宅街じゃないのか?」
「少し歩けばそれもあるよ。いわばここは、ユートピアの一般人の生活区。遺伝子操作のされていない旧人類の住処。」
「危険じゃないのか?」
「ある一定範囲なら、それほどでは無いとだけ言っておこうかしら。」
彼女に再び手を引かれ一つの建物の裏口に入った。そこには人が一人、紙に何かをメモしながら立っていた。
「ウェイト。ロクバの代わりを連れてきたよ。ヴァン、挨拶して。」
「えっと、どうも。」
「人は足りてるって言ってるだろう、エレノア。」
こちらを見ずにウェイトが答えた。ここは、倉庫か?あるのはたくさんの樽。酒樽か?
「そう言わずにさ、ヴァンはウェイストホールから来たから、根気があるよ。ロクバもいい年だし、そろそろ引退でしょ。代わりはいるよ。」
「俺とユースで事足りる。第一、交渉なんてできるのか?」
「教えてあげてよ。苦労してきたんだよ、ヴァンは。きっといいバイヤーになれる。」
ウェイトがちらりとこちらを見た。目が合った。
「傷が目立つ。」
「眼帯を付ければいいよ。手袋も作ってもらえばいい。」
「誰が出すんだ?」
「えーっと。・・・私が立て替えるから。」
「制服もだ。酒の名前も覚える必要がある。」
「出すよ出す!お酒ぐらいなら、私でも教えてあげられるから。」
ウェイトがため息をついてこちらに向く。
「そこまで執着する必要があるのか?たかが、ウェイストホールから来た奴隷一人だ。苦労話なんてあそこにいる奴皆が持ってる。別に仕事につかなくても、教会で最低限の飯はもらえるし、寝床だって宿舎がある。働きたかったら、工房とか農地に行けばいい。」
「あまり繊細なことは得意じゃないのよ。それに、労働はした方がいいわ。何もせずに鬱になっちゃった子を知っているでしょ。やることはあった方がいいよ。」
「バイヤーでなくてもいい。」
「バイヤーなら、私もフォローしてあげられるし。なにより、二人だけでは大変なところもあるでしょ。力仕事は間違いなくできるんだし。」
「力仕事は代理が・・・お前、そいつを兄貴と重ねてるのか?」
「そ、そんなこと・・・ちょっとは・・・ううん。私が助けたから、責任を持ちたいだけ。」
「・・・。」
ウェイトが俺ともエレノアとも言わずにじっと睨んだ。
「とりあえず、確認は済んだ。中身を移し替えるから、そこで待って移し替えた瓶を運べ。順番は適当でいい。全部同じ銘柄の赤ワインだからな。容器はそれを使え。」
顎で近くの黄色いボトルクレートを指す。
「わかった。」
俺はボトルクレートをそばに運んだ。ウェイトが空瓶を持ってきて、酒を詰めていく。ボトルクレート一杯になった酒をマンホールまで運ぶと、エレノアがロープをくれた。結びつけて慎重に降ろす。梯子を下りて、ロープを外して店の中まで運んだ。往復は数時間続いた。最後のボトルクレートを店に運びきると、ウェイトが店までやってきた。
「全部裏にもっていってくれ。順番は白ワインの隣。赤いボトルクレートの中に入っているからわかるはずだ。それが終わったら、工房に行って必要な物を仕立ててこい。」
頷いて、店の中に運んだボトルクレートたちを再び運ぶ。作業は数分もあれば終わった。エレノアに手を引かれて工房の方に歩く。
「認められたってことでいいんだよな?」
「一応は。使えなかったら容赦なく切るのがウェイトだから。」
「頑張ってみるよ。」
「うん。そうして。服代も馬鹿にならないから。」
工房内で、老職人に採寸してもらって三日後に取りに来るように言われた。
「それまでの間は、お酒の名前を覚える事から始めましょう。」
俺はエレノアとバーの裏に行って酒を眺めた。単純な酒だけでも、数十種類あり、カクテルになったら、覚えなければいけない名前はもっとあった。紙に書き出してもらって、ソファ席でそれを眺める。客はカウンター席の方を好むからここに居ても邪魔にはならないと教えてもらった。それでも、ピークタイムになると、客はひっきりなしに来た。相席を許してもらってバーの様子を時々窺うと、リザルが酒を作る横でウェイトが喧嘩を始めた客の仲裁に回ったり、吐きそうな客を下水道の方に連れて行ったりした。バイヤー以外にも、バーの雰囲気を保つのに一役買っているらしい。エレノアは、名物と聞いたフィッシュアンドチップスを作ってはソファ席まで運んでいた。ピークタイムを過ぎだすと客は一人二人と帰っていった。眺めている紙が歪みだす。眠気が襲ってきた。頭を振るが睡魔にはあらがえなかった。




