↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜の王は夢を見る ~目が覚めたらアンデッドが怪物扱いされていました~  作者: うみのもずく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/38

37. 共同作業



 リエルとフィルローデンのあいだに道を通すことが決まってから、数日。


 どこを通すかについては、すでにエルフとネル氏族の者たちが森を見て回り、おおよその道筋を決めていた。できるだけ大きな木を切らず、急な斜面や雨のあとに水が溜まりやすい場所を避ける。もともと人や獣が通っていた場所も利用しながら、荷物を持って歩いても困らない程度まで道を広げることになった。


 そして今、その作業はすでに森の奥まで進んでいる。


 木々のあいだから、斧が幹ではなく張り出した枝に当たる音が響く。道を塞ぐ低木を取り除き、地面から大きく突き出した石を掘り出す。切った枝や運び出した石は、リエルから参加している何体かのスケルトンが、黙々と脇へ運んでいた。


「……ずいぶん進んだな」


 イリアは、後ろを振り返った。


 森の中に一本、今までにはなかった空間が伸びている。まだ人が何度も歩いた街道のように、地面が固まっているわけではない。それでも、出発したころのように枝をかき分けながら進む必要は、なくなっていた。


「この調子なら、思っていたより早く終わりそうですね」


 近くにいたリーゼロッテが、額に浮かんだ汗を布で拭う。


「人が多いからな」


 そう答えたのは、アーシャだった。彼女は切った細い枝を何本かまとめ、一本の蔓で手早く縛っていく。その手もとを見ていたリーゼロッテが、ふいにしゃがみ込んだ。


「その蔓、切らずに使うのですね」

「ええ。柔らかいうちなら結構丈夫なのよ。乾いたら固くなるし」

「私たちは、こういうときは別の草を撚って使うことが多いです」

「へえ。そっちはどんな草?」


 リーゼロッテが、少し離れたところを指さす。


「あそこにもありますよ」

「どれ?」


 二人はそのまま道から外れ、同じ草の前にしゃがみ込んだ。作業の話をしていたはずが、いつの間にか、葉を揉んだり、茎を引っ張ったりしながら比べはじめている。


 少し離れたところでは、トアドとエルフの男が、掘り出したばかりの大きな石を前にしていた。二人とも動かすつもりらしいが、すぐに手をかけようとはしない。しばらく石の周囲を眺めたあと、トアドが足先で片側の土を崩した。


「下にもうひとつ噛んでるな」

「やはり、そう見えますか」

「ああ。無理に引っ張ると、そっちの根まで持っていくぞ」

「では、先に下を抜きましょう」


 二人はそれだけ話すと、別々の方向から土を掘りはじめた。その様子を見ていたカイルが、イリアの隣で小さく笑う。


「……最初はどうなるかと思いましたが、エルフとダークエルフがうまく馴染めたみたいで、よかったですね」


 イリアも周囲を見回した。言われてみれば、誰がどちらの村の者なのか、少し離れてしまえば分からないくらいには混ざっている。片方だけで固まって作業している者は、ほとんどいない。


「似たような暮らしをしておるからではないか?」

「それもありそうですね」

「やはり、人間だの魔族だの、最初から分ける必要はないのではないか?」

「世の中は、そんなに簡単じゃないんですよ」

「面倒なものだな」

「……俺も、そう思います」


 カイルは苦笑し、そのまま作業へ戻っていった。イリアも再び森へ目を向ける。作業場所から少し離れた木々のあいだで、黒い影がゆっくりと動いていた。デュラハンだ。今日は二体が、この一帯を巡っている。以前、フィルローデンの周辺では獣の群れが押し寄せてきたばかりだ。大勢が作業に集中しているあいだ、その周囲を見ておく者がいたほうがよい。


 少し前にも、木々の奥から低い唸り声が聞こえた。だが、そちらへ向かったデュラハンが戻ってくるころには、もう何も聞こえなくなっていた。おそらく、追い払ったのだろう。そのおかげで、作業している者たちは森の奥を気にすることなく、手を動かせていた。


   *


 それから数日が過ぎた。


 作業を始めたころには所々で途切れていた道も、今ではリエルからフィルローデンまで一本につながっている。人が並んで歩くことはできるし、籠を背負っても、枝に引っかけることはほとんどない。小さな荷車であれば、場所によってはそのまま通せそうだった。


 最後まで残っていた倒木を脇へ動かすと、向こう側から見覚えのある家々が見えてくる。


「着いたな」


 オルフェが辺りを見回した。リエルから一緒に来たネル氏族の者たちにとっては、初めて見るフィルローデンだった。


「ここがフィルローデンか」


 アーシャも興味深そうに、集落を眺める。


「思っていたより、リエルから近かったのね」


 リーゼロッテが笑った。以前は森を縫うように進み、倒木を避け、藪を回り込まなければならなかった。今はほとんど迷わず、歩いて来られる。


 フィルローデンの住民たちも、道の向こうから現れた一行に気づき、少しずつ集まってきていた。その中には、初めてダークエルフを見る者もいるらしい。驚いたように目を向ける者はいたが、エーヴァルトがオルフェたちと並んで歩いているのを見ると、大きく騒ぐことはなかった。


「ようこそ、フィルローデンへ。せっかくここまで来たのですから、今日は客として、ゆっくりしていってください」

「なら、遠慮なくそうさせてもらおう」


 少し後ろにいたアーシャが、リーゼロッテを見る。


「前に言ってた薬草、見せてもらってもいい?」

「もちろんです。少し離れたところに群生している場所がありますよ」

「じゃあ、あとで行きましょう」


 二人はもう、その後の予定まで決めていた。イリアはその様子を眺めながら、道のほうへ振り返る。木々のあいだを抜けて、一本の細い道が、リエルの方角へ続いていた。


「イリア殿」


 呼ばれて振り向くと、エーヴァルトが立っていた。


「あらためて、ありがとうございました」


 エーヴァルトは道を見る。


「これで、リエルへ行くのも随分楽になります」


 イリアも満足そうにうなずいた。その向こうでは、エルフとダークエルフたちが、すでに次に何を見に行くかで話をしている。


 森の中にできた道は、思っていたより早く、役目を果たしはじめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。