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夜の王は夢を見る ~目が覚めたらアンデッドが怪物扱いされていました~  作者: うみのもずく


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25. アルセリア王国:報告



アルセリア王国、王都。


 王城の一室には、各地から集められた報告書が積まれていた。


 税収、作物の出来、街道の状態、魔獣による被害。地方から定期的に送られてくるものばかりで、普段なら各部署へ回され、その中でも重要なものだけが王のもとへ届く。


 その日の会議には、国王レオルド・ヴァレン・アルセリアのほか、宰相エルウィン・クラウデル侯爵、各領の行政を預かる内務卿マティアス・エルグレン伯爵、軍務卿グレオル・バルハルト伯爵が顔を揃えていた。


 エルウィン侯爵が一枚の報告書を机へ置く。


「陛下。少し気になるものがあります」

「何だ?」

「アンデッドによる被害についてです。ここしばらく、各地から届く報告が明らかに減っています」


 レオルドの視線が報告書へ移る。


「討伐が進んだのではないのか?」

「私も最初はそう思いました。ですが、軍や各領から大規模な討伐を行ったという報告はありません」


 隣にいたマティアスも、自分の前に置かれた書類をめくる。


「北部だけではありませんね。西でも南でも減っている。墓地周辺での被害も、夜道で襲われたという報告も以前より少ない」

「一か所なら偶然で済むが……国中となると妙だな」

「ええ。それに、数が減っているだけではありません。妙な証言も増えています」


 エルウィンが別の紙を差し出した。


 グレオルがそれを受け取る。


「デュラハン?」

「街道を通っていた商人の証言です。日が落ちたあと、荷馬車が灰狼の群れに襲われた。そこへデュラハンが現れたそうです」

「それなら珍しくもないだろう。灰狼ごと商人も追い回された、という話なら何度も聞いた」

「今回は違います。灰狼だけを追い払い、そのまま去ったそうです」


 グレオルの手が止まった。


「……商人には手を出さずに?」

「はい」


 部屋の空気が少し変わる。


「見間違いじゃないのか?」

「その可能性も考えました。しかし、同じような証言が他にもあります」


 エルウィンが数枚の書類を机へ並べる。


「夜道でデュラハンと遭遇したが襲われなかった。街道に出た魔獣を追い払う姿を見た。墓地へ入ってもスケルトンが襲ってこなかった――どれも数は多くありませんが、以前ならまず聞かなかった話です」

「バンシーは?」

「そちらも被害報告は減っています。夜中に声を聞いたという話そのものは残っていますが、以前ほど騒ぎにはなっていません」


 レオルドは机に並べられた書類をしばらく見ていた。


「……アンデッドが、急に大人しくなったというのか」

「少なくとも、この報告だけを見るなら」


 グレオルが腕を組む。


「大人しくなったなら、それでいいとも思うがな」

「一地方だけならな。各地で同じ時期に変化が起きている。そこが気になります」

「何者かが動かしていると?」

「そこまでは分かりません。ただ、偶然と決めつけるには少し無理があるかと」


 レオルドも頷いた。


「国外はどうだ?」

「それについても、一つご報告があります」


 マティアスが別の報告書を取り出す。


「メルディン連邦から来た商人の間でも、似た話が出ているそうです。北へ向かう街道でアンデッドとの遭遇が減った、と」

「連邦でもか」

「少なくとも商人たちはそう話しているようです。正式な報告ではありませんが、複数の商隊から同じ話が出ています」


 メルディン連邦。


 大陸南部の海沿いに広がる国であり、アルセリアにも多くの商人が出入りしている。

 彼らが同じ変化を感じているのであれば、アルセリア国内だけの出来事ではない可能性が高い。


「グランツ帝国は?」

「帝国から正式な話は入っていません。ただ、向こうが気づいていないとは考えにくいでしょう」


 グレオルが椅子へ深く座り直す。


「ウォルター・ゴーヴィルなら、すでに報告を集めていてもおかしくないな」

「あり得るな。あの男なら、まず軍事的な影響を考えるだろう」


 レオルドの言葉に、マティアスが頷く。


「問題はソレイユ聖教国ですね」

「……ルメリア教か」

「ええ。あの国はアンデッドを強く忌避しています。これほど広い範囲で変化が起きていると知れば、無視はしないでしょう」

「すでに向こうでも同じことが起きているかもしれんな」

「その可能性もあります」


 グレオルが机の上の報告を見る。


「……被害が減っているってのに、手放しには喜べんな」

「ああ。理由が分からないからこそだ」


 レオルドは椅子の背へ身体を預けた。


 アンデッドによる被害が減っていることは、本来なら歓迎すべき話だった。


 だが、討伐されたわけでもない。

 姿を消したわけでもない。

 これまで人を襲っていた者たちが、各地で同じ時期に行動を変え始めている。


「アンデッドそのものが減ったわけではないのだな?」

「確認できている範囲では」


 エルウィンが頷いた。


「……何の理由もなく、一斉にか」


 誰も答えられなかった。


 レオルドは机の上に広がった報告書へもう一度目を落とす。


 北部の墓地。

 西の街道。

 南の森。


 互いに遠く離れた土地から届いた報告が、同じ変化を示している。


「被害が減っているのであれば、こちらから余計な刺激を与える必要はない」


 レオルドが顔を上げる。


「各地へ確認を取れ。遭遇数と被害件数、それから今までとは違う行動を取ったアンデッドについても詳しく聞きたい」

「承知しました」

「国外についても分かる範囲で調べてくれ。特にメルディンの商人なら話を集めやすいだろう」

「グランツ帝国とソレイユ聖教国についても探らせます」


 エルウィンが書類をまとめ始める。


 レオルドは最後に残った一枚を手に取った。

 夜道で灰狼に襲われた商人を、デュラハンが助けたという報告。

 何度読み返しても、そこに書かれている内容は変わらない。


「……一体、何が変わったのだ?」


 その問いに答えられる者は、王都にはまだ誰もいなかった。

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