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夜の王は夢を見る ~目が覚めたらアンデッドが怪物扱いされていました~  作者: うみのもずく


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24. かつての光景



 トアドが枝を払いはじめると、近くにいたスケルトンも、同じように作業へ取りかかった。朝には人の背丈ほどの草や灌木に覆われていた場所が、昼を過ぎるころには、すっかり開けている。


 イリアはその中を歩きながら、昨日まで難儀していた大きな切り株が運ばれていくのを眺めた。


「……早いものだな」

「五十人も増えましたからね」


 近くで土を掘っていたカイルが、手を止める。


「昨日は、あれひとつ抜くのに何人もかかってましたよ」

「ガルディムが五十は必要だと言った意味が、よく分かった」


 森の近くでは、ネル氏族の住居を建てるために木材が運ばれ、別の場所では、柵の杭を立てる穴が掘られている。


「イリアさん、そこ危ないですよ」

「ん?」


 振り向くと、すぐ横を、長い丸太を抱えたスケルトンたちが通り過ぎていった。


「ああ、邪魔をしてすまぬな」

「はは、イリアさんも邪魔になることあるんですね」


 道を空けるイリアを見て、カイルが笑う。邪魔にならぬよう、イリアは少し離れた場所へ移り、そこから村の作業を眺めることにした。


   *


 夕方になるころには、新しい畑の輪郭がかなり見えてきた。まだ土を起こしただけの場所が多いが、どこまでが畑になるのかは、ひと目で分かる。


 住居のほうでも、最初の一棟は柱が立ちはじめていた。ドーガンが、組み上がった骨組みを見上げる。


「今日はここまでだな。暗くなってからやって怪我をしても、仕方ない」


 ネル氏族の若者たちも、道具を置きはじめた。


「思ったより進んだな」

「昨日のままだったら、柱までいかなかっただろうな」


 トアドが腕についた木屑を払いながら、新しく拓かれた土地を見渡す。そこへ、オルフェもやってきた。


「畑のほうも、かなり進んだそうだ」

「ああ。明日には、土を起こすところまでいけるって」


 少し離れた場所では、リエルの村人たちも片づけを始めている。使った鋤を集め、スケルトンがまとめて運ぶ。ネル氏族の者が余った木材を端へ寄せ、その続きを、リエルの男が手伝っていた。


 イリアは、その様子をひとり眺めていた。


   *


 翌日も、作業は朝から続いた。


 開墾した土地を耕しはじめる一方で、住居を作る人数も増えた。ネル氏族には森の木を扱い慣れた者が多く、ドーガンが一度組み方を見せると、あとは自分たちの手で進めていく。


「そこ、もう少し上げてくれ」

「このくらいか?」

「もう少し……よし、そこで止めろ」


 柱を支えていたスケルトンが、ぴたりと動きを止めた。


「今だ。固定するぞ」


 トアドたちが、縄と木材で柱を留めていく。


 畑では、アーシャがヘインと並んで土を見ていた。


「豆なら、この辺りでも育つと思います。ただ、前の集落では、もう少し森の土を混ぜていました」

「何か変わるのか」

「落ち葉の積もったところの土を使うと、水持ちが良くなるんです」

「なるほどな。一度、試してみるか」


 二人の近くでは、ネル氏族の者たちが森から土を運んできている。リエルで続けてきたやり方と、ネル氏族の知っているやり方。どちらかに合わせるのではなく、使えそうなものから順に試していた。


 数日もすると、最初に張られていた布だけの寝床は、かなり減っていた。新しい住居はまだ簡素なものだが、雨風をしのげる程度には、形になっている。


 昼になると、畑の近くに大きな鍋が置かれた。リエルの村人とネル氏族の者たちが同じ場所に座り、作業の合間に食事を取る。スケルトンたちは食事を必要としないため、その間も、道具の整理や木材運びを続けていた。


「おい、お前たちも少し休んだらどうだ」


 ドーガンが声をかけると、近くにいたスケルトンが首を傾けた。


「我々ハ疲労ヲ感ジナイ。気ニスルナ」

「そうだったな……」


 ドーガンは少し考え、手にしていたパンを自分でかじった。


「じゃあ、その木だけ向こうへ頼む」

「承知シタ」


 それを見ていたトアドが、笑う。


「もう、使い方に慣れてるじゃないですか」

「……おい、使い方って言うな。俺らは手伝ってもらってるんだ」


 そう返して、ドーガンは残りのパンを口へ放り込んだ。


   *


 その日の夕方。


 イリアは少し高くなった場所から、リエルと、新しく拓かれた土地を眺めていた。畑にはいくつもの畝ができている。その先には新しい家が並びはじめ、森との境には柵が伸びていた。リエルから来た者とネル氏族の者が一緒に道具を片づけ、その脇を、木材を抱えたスケルトンが通り過ぎていく。


 少し遠くでは、子供たちが何人か集まっていた。リエルの子もいれば、ネル氏族の子もいる。何をしているのかまでは聞こえないが、地面に何かを描きながら、騒いでいた。


「ここにおられたのですね」


 隣へ、シアネリスが降りてくる。


「ああ。随分と変わったものだと思ってな」


 シアネリスも、村のほうを見やった。


「ほんの数日前まで、あちらには何もありませんでしたから」

「そうだな」


 イリアの視線が、新しく建った家から畑へ移る。誰かが木を運び、誰かが土を耕し、誰かが食事を作る。種族も、生きているかどうかさえも違う者たちが、ひとつの場所で、それぞれの仕事をしていた。


 ずっと昔にも、似た景色を見たことがある。


「……あの頃を思い出すな」

「ノクティアを、ですか?」


 イリアは目を細めた。


「ああ。あそこも最初は、この程度の規模だったと思ってな。人が増えるたびに家を建て、畑を広げて。気がつけば、随分と大きくなっておった」

「……懐かしいですね」


 風が畑を抜け、新しく建てられた家々のあいだを通っていく。イリアは、しばらくその景色を眺めていた。


   *


 翌朝。


 シアネリスはリエルの上空に出たところで、ふいに動きを止めた。


 昨日までと、何かが違う。村も畑も、見える景色は何も変わっていない。それでも、リエルの一帯を包むように、よく知る気配が静かに広がっていた。


 しばらくして、夜の巡回から戻ってきたルグナードが、彼女の近くで馬を止める。


「……感じますか」

「ああ。昨夜からだな」


 シアネリスは、村のほうを見下ろした。


「イリア様には?」

「……まあ、今は言わなくてよいだろう」

「それもそうですね」


 朝日が昇りはじめたリエルでは、すでに人々が家から出てきていた。


 いつもと変わらない朝が、始まっていた。

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