23. 頼もしい協力
「……人手か」
イリアは作業中の者たちを眺めながら、小さく呟いた。まだ手のつけられていない土地は広い。畑を作るだけではない。ネル氏族の住居も必要になるし、その周囲には獣を防ぐ柵もいる。
少し考えたあと、イリアはヘインたちのほうへ歩いていった。
「少し出てくる」
「どこへ行くんです?」
「まあ、人手を借りにな」
ヘインが首を傾げる。それだけ告げると、イリアの足もとから影が広がった。
「……まさか、ノクティアに?」
消えていく影を見つめながら、カイルは以前訪れた大墓所と、そこにいた無数のスケルトンを思い出していた。
*
暗闇を抜けた先に、巨大な石造りの建物が現れる。ノクティア大墓所。リエルから訪れるのは、ガルディムと再会した日以来だった。
墓所の周囲では、今日も多くのスケルトンが動いている。イリアの姿に気づくと、近くにいたスケルトンたちが、次々と足を止めた。
「久しいな」
「イリア様」
「オ帰リナサイマセ」
声をかけてくる者たちに応えながら、奥へ進んでいく。ほどなくして、巨大な盾を携えたガルディムが姿を現した。
『……イリア様、如何ナサイマシタカ』
「急に来てすまぬな、ガルディムよ。少し頼みがあるのだが」
『何ナリト、申シ付ケ下サイ』
「スケルトンを、二十ほど貸してくれぬか」
ガルディムの眼窩に灯る淡い光が、わずかに揺れた。
『リエル村ニ、何カ?』
「ああ、ダークエルフが五十人ほど増えたのだ。今は村はずれに住まわせておるがな。なにやら、奴隷狩りから逃げてきたらしい」
ガルディムは、静かに聞いている。
「それで畑を広げることになったのだが、随分と手間がかかっておってな。人手が欲しいそうだ」
『住居ハ?』
「まだ仮のものだ。これから建てる」
ガルディムは少し考えたあと、背後にいたスケルトンへ顔を向けた。
『五十、集メヨ』
「……五十?」
『エエ。二十デハ足リヌト、判断シマシタ』
イリアが目をしばたたく。
『畑ヲ広ゲ、住居ヲ建テ、柵ヲ作ル。人ガ増エレバ、見回ル範囲モ広ガリマス。二十デハ、スグニ手ガ足リナクナルデショウ』
イリアは少し考え、素直にうなずいた。
「……そうだな、では五十借りよう」
『承知シマシタ』
すでに、何体ものスケルトンが墓所の前に集まりはじめていた。その数は次第に増え、やがて五十ほどになる。古びた鎧を身につけた者もいれば、簡素な布をまとった者もいる。持ち物も様々で、つるはしや鋤を手にしている者までいた。
イリアは、その一団を見渡す。
「随分と手際がよいな」
『……昔モ、同ジヨウナコトハ、何度モアリマシタノデ』
「……」
遠い昔のノクティアにも、そんな時期があった。人が増えるたびに土地を拓き、家が建ち、道が伸びていった。
「……そうであったな」
ガルディムは、集まったスケルトンたちへ向き直る。
『イリア様ニ従エ。リエルノ者タチヲ手伝ウノダ』
「承知シマシタ」
いくつもの声が重なった。イリアはその様子を見て、足もとへ影を広げる。
「では、借りていくぞ」
『何カアレバ、イツデモ御声ガケヲ』
影が、五十体のスケルトンにまで一気に広がる。次の瞬間、全員の姿が墓所から消えた。
*
リエルでは、昼を過ぎても作業が続いていた。
朝から掘り返していた大きな切り株を、トアドたちがようやく地面から引き抜く。
「よし、動いた!」
「そのまま倒せ!」
何人かで縄を引き、切り株が大きな音を立てて横倒しになった。ヘインが腰に手を当てる。
「ひとつ抜くのに、これか……」
すぐ近くには、まだ何本も切り株が残っている。ドーガンも、斧を肩に担いだ。
「こりゃ、畑になるまで相当かかるぞ」
「まず今日中に、この辺りだけでも――」
ヘインの言葉が止まった。少し離れた場所の影が、大きく広がっている。周囲にいた者たちも気づき、手を止めた。
「……何だ?」
影の中から、イリアに続いて、スケルトンたちが次々と姿を現す。やがて五十体ほどが開墾地に並ぶと、リエルの者もネル氏族の者も、作業の手を止めていた。最後のひとりが現れ、影が消える。
ヘインが、並んだスケルトンの数を眺めた。
「戻ったぞ」
「……イリア様、人手を借りに行くとは聞きましたが……」
イリアは後ろを振り返る。
「五十人ほど借りてきた」
「五十……」
ヘインの隣で、ドーガンもスケルトンたちを見回していた。
「随分、増えたな」
「私は二十ほど借りるつもりだったのだが、ガルディムが五十は必要だと言ってな」
ドーガンがうなずく。
「確かに、やることはいくらでもありますからな」
「そうか、ならば使ってやってくれ」
近くにいたスケルトンのひとりが、一歩前へ出た。
「我々ハ何ヲスレバヨイ」
ヘインは少し考えて、まだ残っている切り株を指す。
「まず、あれを抜きたいんだ。根の周りを掘ってるんだが、なかなか動かなくてな」
「了解シタ」
何体かのスケルトンが、すぐに動いた。つるはしと鋤を持った者が根の周囲に集まり、土を掘りはじめる。別の者たちは、転がっている石へ向かった。
「そっちは、畑の外まで運んでくれ!」
「承知シタ」
「切った木はこっちだ! 家と柵に使うから、捨てるなよ!」
ドーガンの声に従い、数体が木材を運びはじめる。さっきまで人手が足りず止まりかけていた作業が、急に動き出した。
ネル氏族の者たちは、その様子を少し離れたところから見ている。トアドの隣にいたダークエルフの男が呟いた。
「……俺たちのために来たのか?」
「自惚れじゃなければ、そうみたいだな」
昨日までなら、五十体ものスケルトンが現れれば、逃げ出していたかもしれない。そのスケルトンたちが、自分たちの家を建てるための木を運び、食べ物を育てるための土地を掘り返している。
オルフェも、その光景を見つめていた。
「族長」
「ああ。俺たちも戻ろう」
止まっていたネル氏族の者たちが、再び道具を手に取る。リエルの村人も、作業へ戻っていった。
イリアは、しばらくその様子を眺める。五十体のスケルトンが加わっただけで、先ほどまでとは比べものにならない速さで、土地が拓かれていく。
「ガルディムの言うとおりだったな」
誰に聞かせるでもなく呟き、イリアも作業の輪のほうへ歩いていった。




