ニーナ以外にも夢みがちな方はいらっしゃるのですね。
美術室に移動して、早速四人で昼食をとり始める。昼食はアマンダとビアンカのメイドが作ってきてくれた特製のお昼ご飯だ。
いつもこのお昼ご飯が楽しみだったりする。
「アマンダ、急に二人増えてしまったんだけど、昼食足りるかい?」
「いつも多めに作ってきていますし、大丈夫ですよ。ご安心ください。」
そう言って紅茶を注いでくれる。
「俺たちもご相伴に預かってしまっていいのかい?」
レナード先輩がビアンカに声をかける。
「構いませんよ。みんなで囲んで食べた方が、より美味しくなりますし。」
笑顔で返すビアンカに、レナード先輩は顔を赤くして照れていた。
小さい声で「ビアンカ、可愛すぎる。天使だ」と言っていたのは聞かなかったことにする。
皆で昼食を始めて少し経つと、もう一人の先輩が改めて自己紹介をしようと言い出したので、一人一人自己紹介をする。
「レナード・ルミエール。三年だ。」
「え? ルミエールってことは、この国の王族じゃないですか!?」
私は思わず大声を上げてしまった。
「やっぱり……ルネは知らなかったのね……。お茶会とかパーティーにあまり参加していなかったし、仕方ないとは思うけれど、覚えておきなさいよ。レナード様はこの国の第二王子よ。」
まさかの王子だった。
レナード先輩なんて馴れ馴れしすぎたかもしれない。
「レナード様。数々のご無礼、申し訳ございません。」
謝罪を伝えると、レナード様は笑いながら、
「構わない。学院にいる間は皆平等だ。それに、俺もすまなかった。色々君には失礼な態度をとったと思う。」
と言ってくれた。
お互いに謝罪し合ったところで、もう一人の先輩が自己紹介してくれた。
「じゃあ、俺の番だね。デューク・アンベール。隣国アンベール国から留学してきているんだ。レナードと同じく三年だよ。よろしく。」
「アンベール国の第二王子だったんですね。」
私の領地はアンベール国との境にある領地だ。そのせいか、自国のことよりアンベール国の方と話すことの方が多かった。
二人が王子ということにはびっくりしたけれど、他の人たちとは少し纏っている雰囲気が違ったり、顔が整いすぎていることにも納得した気がする。
「ルクレール公爵家の娘、ビアンカ・ルクレールと申します。一年です。よろしくお願いいたします。」
ビアンカも続けて挨拶をしたので、私もそれに倣って挨拶した。
「ルネ・アズーロ改め、ノヴァ辺境伯家の娘、ティアナ・ノヴァと申します。このような格好での挨拶、申し訳ございません。訳あって今日は男装をしております。よろしくお願いいたします。」
デューク様は恐らく私が女だと察していたのだろう。
レナード様は気づいていなかったのか、口をぱくぱくさせて、まるで魚のような顔になっていたのが面白かった。
「えっ!? えっ!? 女??? まさかの??」
レナード様の驚き方が面白い。
デューク様も同じように思っていたから伝えなかったのだろう。
ビアンカまでクスクス笑っている。
「やっぱり、レナードは気づいていなかったか。いつもおさげでメガネの子がいただろう。あの子だよ。」
「えーー??? あのおさげの子か……。」
王子なのに、ここまで素直に感情を表に出せるなんて、見ていて飽きないなと思う。
ビアンカも楽しそうでよかった。
レナード様は少し落ち着いたのか、話し始めた。
「父上から君のことは聞いているよ。確か、ニーナ・ルルーという少し頭がお花畑な子がいて、なかなかお茶会などに顔を出せないと……。確か学年も一緒だったよね。」
「はい。クラスは別になりましたが、隣のクラスにいますね。毎日うちのクラスに来ては『私のモブはどこ』と騒いでいます。まだ見つかっていないのが唯一の救いです。」
ニーナに見つからないようにするため、おさげにメガネをかけていること。今回は男装して運動祭に出ていることを伝えた。
二人も納得したようだ。
「じゃあ、ビアンカと君は……」
「先ほども言った通り、親友です。」
と伝えると、レナード様はホッとした顔をして、
「よかった。」
と言っていた。
ビアンカはあまり気にした様子もなく、目の前のご飯を食べている……。
ビアンカがレナード様の気持ちに早く気づけばいいなと思いながら、近くで恋物語が始まりそうだと思うと、この先がとても楽しみだなと感じた。
私はレナード様に、
「ビアンカは恋より食い気なので大変だと思いますが、応援しています。」
とお伝えすると、顔を真っ赤にして頷いていた。
昼食と自己紹介が済んだところで、午後の部開始の合図が鳴る。
「ティアナ嬢、ビアンカ嬢。もしよかったら、君たちのことをアナとビアンカと呼んでもいいだろうか?」
私とビアンカは目を合わせて、
「勿論です。」
と返した。
またここで一緒にお昼を食べる約束をして、それぞれの会場へ向かう。
「ビアンカ、見られないけど頑張って。応援しているよ。」
頭を撫でて伝えると、
「ルネも、間に合えば最後の試合は見られると思います。だから最後まで残ってくださいね!」
ビアンカにここまで言われて、頑張らないわけにはいかない。
私は頷いてから試合会場へ向かった。
***
ビアンカと別れ、一人で会場へ戻る。
ここからは馬術の準決勝、決勝と続き、それが終わった後に剣術の準決勝、決勝となる。
「ルネは何に出るんだい?」
「馬術と剣術ですね。まずは馬術の会場に向かいます。」
皆と別れて一人で歩いていたはずなのに、後ろから声をかけられて思わず振り向いた。
どうやらデューク先輩が一緒に来ていたらしい。
「デューク先輩。こちらに来てよろしかったんですか?」
先ほどもレナード先輩と一緒にいたし、行動を共にしていることが多いのかと思っていた。
「あぁ、いいんだ。レナードはビアンカと二人で話したいだろうと思ったからね。気を遣ったんだよ。」
確かにレナード先輩を見る感じ、ビアンカのことが好きすぎて仕方がないという感じだった。
「確かに、自分から誘ったりとかできなそうですもんね。」
奥手すぎてなかなか前に進まなそうな感じだったし、デューク先輩が上手く立ち回っているんだろう。
「それにルネの戦い方を見てみたくてね。男子の中で準決勝まで進むなんてすごいじゃないか。」
私は小声でデューク様に伝える。
「それは偏見ですよ。戦い方次第では小柄な方が戦いやすい場面もありますし、馬はもしかしたら逆に軽い女性の方が上手く操れるかもしれません。少なくとも女性だから負けたとは言わせません。」
私は意外にも負けず嫌いだ。
男兄弟しかいなかったせいもあるかもしれない。
だからこそ、女だから負けたとは言わせたくないのだ。
「それに、お兄様たちは運動祭の剣術の部で優勝しているんです。僕もお兄様たちのように頑張ります。」
それにノヴァ一族である以上、無様な試合は見せたくない。
「ルネはすごいな……。ルネの勇姿、最後まで見せてもらうよ。」
私の隣を歩きながら、頭を撫でてくる。
なんだかお兄様に撫でられているみたいで少し心地よかった。
少しお兄様と雰囲気が似ていることもあるかもしれないけど……
「デューク先輩は兄上たちに少し似ていて、なんだか落ち着きます。頑張ってきますね!」
話しながら歩いていると、あっという間に競技場へ着いた。
デューク先輩と別れて、デューク先輩は観客席に、私は馬小屋へ向かった。
「アイビー。待たせたね! 少し休めたかい? 午後の部もよろしく頼むよ。」
アイビーを撫でながら、アイビーの調子を確認していく。
特に問題がなさそうで安心した。
アイビーを馬小屋から連れて場内へ向かう。
午後の障害物は高さが少し午前中より高くなるのと、高さの順番が入れ替わるそうだ。
高くなると言っても、初めの高さより五~十センチくらい上がるだけらしいけど、少し高くなるだけで難易度が格段に上がる。
「アイビー。今日もアイビーと走れるのが楽しいよ。次の週末は少し遠乗りでも出かけよう。」
最近あまり遠乗りできていなかったので、次の週末は二人で遠乗りしがてらピクニックしたい。
辺境伯領までは距離がかなりあるので、王都周辺になってしまうのが少し寂しいけれど、行ったことのないところで良さそうな場所を二人で探すのもありかもしれない。
色々次の休みについて考えていると、あっという間に自分の番になった。
『これより、馬術準決勝。ルネ・アズーロによる馬術競技をスタートします。』
私はアイビーに乗り込み、競技場の中をゆっくり進んでいく。
アイビーを少し撫でて落ち着かせてから手を上げ、スタートする。
八本目まではそこまで高いバーもなく、難なくクリアできた。
今回は九本目と十本目が一番高いバーみたいだ。
少し気持ちを落ち着かせてから九本目を跳ぶ。
少しバーに当たってしまったものの、落とさず跳び切ることができた。
十本目はその勢いのまま綺麗に跳べた。
十一本目から少しずつバーが低くなっていたので、特に引っ掛けることなくクリアすることができた。
『ただ今の得点、四十・五。四十・五。対するイワン・モローの得点、四十・九。四十・九。よって、決勝進出はルネ・アズーロです。』
ギリギリで勝てた。
危なかったぁ。
モロー君はどうやら二か所バーに当たってしまったようだった。
モロー君と固い握手を交わして会場を後にする。
遠くからお祖父様の声が、また聞こえてくる。
「ルネ! よくやった! さすが我が孫じゃぁ!!!」
お祖父様がいつも通りで、逆に緊張がほぐれた気がする。
十五分ほど休憩をすると、あっという間に決勝の時間になった。
この十五分間はアイビーをブラシでとかしながら、ゆっくりと過ごした。
「アイビー。今日ラストの競技だよ。よろしくね。」
アイビーに乗って、また競技場へ向かった。
『これより馬術決勝。ルネ・アズーロとアントン・ムーランの競技を開始します。ルネ・アズーロよりスタートです。』
やはり決勝ということもあって、観客がたくさん来ていた。
よく見るとビアンカとレナード先輩の姿が見える。
もちろん、お祖父様たちは分かりやすい。
「アイビー、思いっきり楽しもう。」
手を上げてスタートしていく。
少し準決勝の時よりスピードを出しながら進めることができて、九本目まではタイムも縮めることができた。
問題はここからだ。
このままの勢いで跳び越えることができればいいけど、少し助走が足りなかったかもしれない。
しかしアイビーはそんなことに臆することなく、綺麗に跳び越えてくれた。
次の十本目もバーに当たることなく跳べた。
十一本目からも問題なく終えることができたので、ノーミスでクリアすることができたと思う。
「アイビー、ありがとう。楽しかったよ。」
アイビーを軽く撫でながら感謝を伝えた。
『続きまして、アントン・ムーランのスタートです。』
ムーラン君が競技を開始する。
ムーラン君はなんだか衣装にこだわりがあるのか、すごい王子様みたいな格好をしていた。
やたら髪の毛もキラキラしていて、なぜか薔薇を胸元に挿している。
馬も白い馬に乗っていて、見るからにニーナが好きそうな人だ。
ぼーっとそんなことを思いながら待っていると、会場から、
「私の王子様見つけたわ!! おうじさまぁぁ! 頑張って!! 私を迎えにきてぇぇぇ。」
という声が聞こえた。
思わず私は吹き出してしまった。
ムーラン君も満更じゃないのか、
「待っていてくれ。私のプリンセス。」
とか言っている。
二人のやり取りを見て、会場のほとんどの人が、
「何を見せられているんだろう」
と思ったに違いない。
クラスが違くてよかったと思いながら、ムーラン君が終わるのを待った。
『本日、全ての馬術競技が終了いたしました。ルネ・アズーロ、三十八・五。三十八・五。対してアントン・ムーラン四十・三。四十・三。よって優勝はルネ・アズーロです。』
なんだか最後の試合は腑に落ちない終わり方だった。
ムーラン君とニーナの変な物語が始まったために増点されたのだ。
競技自体は綺麗に進んで終わったのに……
まぁ、ムーラン君はなんだか幸せそうだからよしとしよう。
表彰は最後に行われるので、この会場を後にして剣術会場へ向かった。




