急遽デューク様が屋敷に来ることになりました。
話す前までのデューク様は色々考え過ぎていたみたいですごい暗い顔をしていたけど、話したあとはいつも通りに戻っていた。
少しでも話を聞いてデューク様が安心できたならよかった。
「デューク様の気持ちが落ち着いたようで良かったです。それではそろそろお昼も終わりますし、また連絡しますね。」
お昼休憩は本当にあっという間だ。美味しいものを食べたり楽しい時間を過ごしているとすぐ終わってしまう。
「ティアナ。一つだけお願いがあるんだが……行きと帰りだけでも一緒に過ごさないか……?」
確かに学院にいっているとなかなか会う時間がないし、2人の時間もなかなか取れないし、いいかもしれない。
「わかりました。行き帰りは一緒に過ごしましょう。2人でお話ししたいこともありますし……」
そう伝えると今日見た1番の笑顔で「ありがとう」と返された。笑顔の破壊力がすごかった。
私たちは別れ、それぞれの教室に戻り授業を受ける。今日は帰ったらお父様たちにも話さなきゃならないことがあるので、私はどのようにお父様たちに伝えるべきか、頭の中で考えた。
放課後になり、デューク様と一緒の馬車で自宅までの道のりを進む。デューク様がお父様たちに話があるというので、私は自宅に上がってもらうことにした。ちなみにレナード様とビアンカはお昼のぎこちなさが嘘のように一緒に帰って行った。
家に着くと、お父様たちがエントランスで待っていた。前もってアマンダがデューク様が家にいくかもしれないと伝えておいてくれたみたいだ。
「デューク殿下。ようこそおいでくださいました。ティアナもおかえり。話す前に一度着替えておいで。」
制服のままでもいいかと思ったけど、お父様はデューク様と話があるのだろう。私はお父様たちとデューク様に挨拶をして部屋に戻った。
***
デューク視点
ティアナと別れ、私は応接室へと向かった。
「急に時間をもらって申し訳ない。どうしても今日伝えておかなければならないと思ったんだ。」
「構いません。ティアナのことでしょう? これでもあの子の親ですからね。あの子の顔を見ていればわかります。先日は取り乱してしまいすみませんでした。」
恐らく収穫祭の時のことを言っているのだろう。でも親としては当然の反応だ。自分の可愛い娘に恋人ができたのだ。まだあの時は仮の恋人だったけど……このことについては墓場まで持っていこうと心に決めた。
「親としては当然の反応だと思います。私もティアナ嬢が愛されて育っているとわかってとても良かったです。それで話なのですが……」
ノヴァ辺境伯がかちゃりと紅茶のカップを置いて一言、
「良いですよ」
と言った。まだ何も話していないのにだ。
思わず俺は「え?」と言ってしまった。
「だから良いですよと言ったんです。」
ノヴァ辺境伯の隣からクスクスと笑い声が聞こえる。
「ハリー。それだけではわからないわよ。デューク殿下。わかりづらい夫でごめんなさいね。ハリーはね、あなた達の関係を認めたと言っているのよ。」
「ただし、ティアナが成人するまでは手を出すなよ!」
顔を真っ赤にしながら話す姿を見て、夫人は
「本当に可愛いんだから」
とノヴァ辺境伯の頭を撫でている。この家だともしかしたら女性の方が強いのかもしれない。
「ありがとうございます。もちろんノヴァ辺境伯のお話は守ります。ただ、できれば婚約だけは先にしておきたいと思っているのですが、よろしいでしょうか?」
今日きちんと伝えておかなきゃいけないと思ったのは婚約についてだ。
これからニーナのことで何かあった時のために後ろ盾になれるものは必要だと思った。勿論辺境伯家の方がルルー家より家格は上だが、何が起こるかわからないのが現実だ。少しでも排除できる懸念点は排除しておいた方がいい。
「それはもしかして、ニーナ・ルルーのこともあるからでしょうか?」
その言葉に俺は頷く。
「ニーナ自体は子爵家の令嬢だし、そこまで心配する必要ないと思っている。ただ、今まで迷惑行為についても何度か揉み消されたことがあったと聞いたからね。」
それに毎回自分が近くにいられるわけではない。だからこそ少しでも守れるように準備しておきたい。
そのことを伝えると、ノヴァ辺境伯は深くため息をついて、
「デューク殿下の気持ちはわかりました。この件については、ティアナを交えて話しましょう。ティアナ、入っておいで。」
「失礼します。」
扉を開けて入ってくるティアナを見て、まさか聞いていたとは思わなかった。
***
「着替えておいで」と言われてすぐに着替えにいこうとはならなかった。お父様のことだ、きっと裏があると思いアマンダに確認する。
「アマンダ。お父様が着替えておいでと仰ったけど、本当に着替えてきなさいって言っているようには聞こえなかったのよ。もしかして扉の外で聞いていなさいということかしら……」
「お嬢様。よくお気づきになられましたね。旦那様からお嬢様が気付いたならば外で聞いているようにと仰せつかっております。」
少し遠回りをして応接室へ向かった。遠回りしたのはデューク様に気づかれないようにするためだろう。
よくよく考えれば、お父様やお母様に私とデューク様のことはまだ伝えていない。
お母様あたりは目敏いから気付いてそうだけど。応接室の扉が閉じた音が聞こえたので、私はゆっくり応接室の前に向かった。
扉がそんなに分厚いわけではないが、部屋が広めのためか所々しか声が聞こえない。
そんな中で一つの言葉だけはっきり聞こえた。
『婚約』という言葉だ。
まさかそんなに話が進むとは思ってもいなかった。
デューク様は以前ゆっくり進めたいと言っていたのに何がどうなったら婚約になるのだろうか……
扉のところで耳を澄ませていると、扉からガチャリとドアノブを回す音が聞こえた。
扉が開く前に私は姿勢を元に戻す。時を見計らったようにゆっくりと扉が開いた。
「ティアナ……」
「デューク様。」
「じゃぁ、ハリーと私は一度席を離れるわ。そうね……30分後に戻るから2人できちんと今後について話し合いなさい。その後、ティアナが話したいことがあると言っていた内容について話しましょう。」
お父様の手を引っ張ったお母様が応接室から出て行った。
2人になって5分くらいだろうか……どちらも話すことなく沈黙が続いている。
「ティアナ。すまない。本当はもっとゆっくり進めていこうと思っていたんだ。」
自分の手を握りしめて話すデューク様はすごく辛そうだ。きっと私がお昼に色々話したから考えてくれたんだろうということはわかる。
「デューク様はきっと私のことを考えて婚約の話をしてくださったんですよね……」
ニーナのことが起因しているのは間違いないと思う。
「婚約することで俺がいないところでも守れると思ったんだ。学年も違うから学院でもずっと一緒にいられるわけではないし、ニーナのことを聞いてからいても立ってもいられなくて。」
自分がいないところで何か起きた時のことを考えてくれたのね。確かに婚約するというのも一つなのかもしれないけど、ニーナのことはなるべく自分で解決したいと思っているし、デューク様とのことはニーナのことが終わったらと考えていた。
決して後回しにした訳ではない。ニーナから卒業することで前を向いて歩けるようになると思っているからだ。
でもデューク様の捨てられた猫のような顔を見ると凄く言いづらかった。
私はデューク様の手を取って目を見ながら伝える。
「色々考えてくださってありがとうございます。その気持ちがすごく嬉しいです。ですが……」
私はありのままの気持ちを伝える。色々考えてくれたデューク様だからこそ私の気持ちもわかってくれるだろう。
「デューク様に守られているよりは、お互いを守り合える存在になりたいのです。お姫様になれなくて申し訳ございません。」
辺境伯家の一員として守られているよりは、お父様たちのような背中を預けられる存在になりたい。
全ての気持ちを伝えると、デューク様が笑い出した。
「ククッ……」
真剣な話をしていたのだが、可笑しいところがあっただろうか。
「私何か言いました?」
「いや、ティアナはやっぱり俺が好きになっただけのことはあるなと思っただけだ。」
収穫祭で私が騎士や勇者に憧れていたと言っていたことと、姫にはなれないという言葉が結びついたらしい。
「確かに気持ちが急いていたかもしれない。ティアナ。もう大丈夫だ! お互い背中を預けられる、そんな2人を目指そう。だから全て終わったら婚約してくれないか?」
デューク様の顔が以前よりも晴れやかになっている気がする。
私はデューク様の言葉を聞いて、きちんと気持ちを伝えることが大切なんだなということが痛いほどわかった。自分で思っているだけでは何も変わらない。
「勿論です! ですので、もう少しだけお待ちください。」
そう伝えると笑顔で頷いた。
ニーナにももっと早く自分の気持ちを伝えるべきだったかもしれない。伝えたところで変わったかはわからないけれど……
私は卒業パーティーまでに一度はニーナへ自分の気持ちを伝えようと心に決めた。




