ルルー家とニーナ。
「そろそろ話し合いは終わったかい?」
2人で話を終えてしばらくすると、お父様とお母様が応接室に戻ってきた。
「はい、お時間いただきましてありがとうございました。」
デューク様がお父様たちにお礼を言うので、私も一緒に頭を下げる。お父様たちは私たちの前に座って、今後のことについて話をすることにした。
まずは婚約についてだ。婚約は一旦保留にしたことを伝えた。お父様がデューク様に「うちの娘のどこがいけないんですか?」と言い出しそうだったので、私からもう少し待って欲しいと伝えたことを話した。
これだけではあまり納得していない様子だったけど、ニーナのことを話したら納得してくれたようだ。
「話は大体わかったよ。ティアナ、今まですまなかったね。ニーナの件では辛い思いをさせた。」
ルルー家の件で何度か話そうと思っていたそうだが、私があまりに気にしていないのでどこまで自分たちが行っていいかを考えていたそうだ。
確かに、面倒だな。関わりたくないなとは思っていたけれど、それ以上の感情はなかったように思う。
お茶会などに行くことが少なくなったのは、ニーナと会いたくないと言うのが大きかったけど、正直馬に乗ったり剣術の稽古をしている方が楽しいと思っていたから、お茶会に行けないことをそこまで辛いと思ったことはなかったのだ。
そのおかげで婚約者ができなかったのは確かだけれど……デューク様と出会えたわけだし終わりよければすべてよしだ。
「謝らないで下さい。お父様の言う通り、ニーナが付き纏ってくるのは正直面倒だったんですけど、ニーナが何の話をしているか、よくわかっていなかったのであまり辛い思いをした記憶もありません。《《面倒》》だとは感じてましたが……。」
デューク様との時も思ったけど、私とお父様たちも話し合いが足りなかったのだろう。そもそも貶されていたとしても言葉がわからないから何を貶されているかもわからないのだ。最近になってやっと《《モブ》》の意味がわかったくらいだ。
「そもそも、そんなに傷つけられるようなことされてましたでしょうか?」
私の中で疑問に思っていることを投げかけると、お母様がクスクスと笑い出した。
「ハリー。やっぱりティアナは私たちの子供だわ! 周りの言葉に無頓着なところはハリーにそっくりじゃない。」
お父様とお母様は学生時代付き合い始めたが、お父様はガタイが大きく背も高く熊のような見た目をしていたそうだ。お父様の隣にお母様がいるといつも熊を連れた令嬢と揶揄われていたらしい。
でもお父様は熊と言われても、
「クマは可愛いじゃないか。こちらが刺激すれば攻撃するかもしれないが比較的穏やかな生き物だよ。それに何かあった時に体が大きければ、メイシーや家族のことを守れる。」
と言って軽くあしらっていたのだとか……
デューク様はお母様の話を聞いて、
「確かに似たもの親子だ。」
と笑っていた。
お父様はゴホンと一度咳払いをしてから従者に例のものを持ってくるよう伝えた。
「さて、話を戻そうか。ルルー家についてだがこちらであらかた調べはついている。」
たくさんの資料をテーブルの上に載せていく従者。
「今まで私たちの周りで起きた迷惑行為だ。揉み消されているものもあったが、揉み消しできていないものも多かった。」
資料をパラパラとめくっていくと、そういえばこんなこともあったなと言う内容がたくさん記載されていた。
「これは写しがあるからね。ティアナが保管しておくといい。それでここからが本題だ。」
お父様が真剣な顔になるので、私たちもゴクリと喉を鳴らした。
「実はな……ルルー家はどこからどう見てもただの子爵家なんだよ。」
私とデューク様は思わずぽかんとした顔をしてしまった。
なんでも揉み消されたことなどがあったから「何か裏があるのではないか。」「どこかの貴族と裏で繋がっているのではないか」と考えていたそうなのだが、全くそんな形跡はなかったらしい。
「ルルー家はなかなか子供ができなくてね。30代過ぎてやっと1人授かることができた。それがニーナだったそうだ。」
そのせいか甘やかして育てたらしい。ただ、日に日にわがままになっていくニーナ。ティアナと出会う前のお茶会でも色々粗相をしていたそうだ。そのせいで出禁になることも多かった。次第に両親もどうしていいかわからなくなっていたみたいだ。
「そんな時に目の前にティアナが現れて、やたらとティアナに執着するようになったそうだ。」
目の前に私が現れてからは私にばかり執着するので、お茶会で大きな失態は無くなった。そこで両親が思ったのは、『ティアナに任せておけば出禁になることはない』と言うことだった。
「それは、親のくせしてティアナに全てを丸投げしていたと言うことじゃないですか。」
デューク様が代わりに怒ってくれたからか、私は少し冷静に話を聞けた。
「揉み消されたのはね、お店とかに迷惑をかけて出禁になりそうなものだけ、お金を渡して揉み消していたみたいだよ。ただ、それも難しくなってきている……子爵家はほとんどの財産がもうないんだ。」
そういってお父様が帳簿を目の前に出してきた。
帳簿を見ると、確かにほとんどお金がない。
「これは一体どこから手に入れたんですか?」
「ある伝手を使ったんだ。」
ウインクしながら言うお父様。勇ましくてかっこいい。
「話を続けよう。恐らくニーナ自身も家にお金がないことはわかっている。そこで目を付けたのが……アントン・ムーランだ。」
見た目もそこそこでムーラン家は男爵ではあるものの商人の家系だ。お金もそれなりに持っている。
アントン自身は騎士に憧れがあるみたいで馬術や剣術の稽古を頑張っているらしいが……馬術が得意というところもニーナの目に留まったのだろうとお父様は仰っていた。
「そもそもね、ニーナ自身自分で何をしているかわかっていないと思うんだ。周りが誰も怒らないからこのままでいいと思っていると思う。」
ニーナのお母様とお父様はもう怒ることをやめたらしく、親子の間に距離もできているみたいだ。それを聞くと少しニーナが可哀想にも思える。
「最近では子爵家に血縁の親戚から養子を取ろうという話にもなっているみたいだよ。」
器量のいい養子をとった方がお金もかからないし、大変じゃないからだろう。
ルルー家について少しずつわかってきた気がする。
「それで私はこれからどうするのがいいと思いますか?」
「まずは、ティアナに執着しているのをやめさせるのが一番だ。恐らく親から愛がもらえなかったから他の人に執着しているというところもあるんだろう。子供は親に構ってほしくてイタズラしたりするものだからね……」
とくに兄弟がいなければそうなってもおかしくないのかもしれない。私はいつでもお兄様たちがいたからそんなことはなかったけれど……
「そして、ティアナが一度アントン君と話なさい。アントン君が本当にニーナのことを好きなのか。ルルー家のことをきちんと理解しているのかをね。」
それでもアントン君がニーナを愛せるというなら、ニーナをきちんと叱って正すように伝える。まだ未成年だし間に合うだろうというのがお父様の見解だ。
「まぁ、卒業までに何も変わらなかったら……その時はルルー家が家から追い出すだけだろうね。」
「ティアナはまずモブではなく友人と認定してもらわなくてはならないね。今度お茶会でも開いてニーナと腹を割って話してみたらどうだろう。なに……子供の喧嘩くらいに思っていればいいよ。」
ニーナには迷惑をたくさんかけられたけど、ニーナにも家庭の事情が色々あることを知ったら流石にこのままニーナを突き放すということはしたくないなと思った。
「もしかしたら、私名前すら認識されてないとか……」
デューク様が笑いながら、
「可能性はあるかもしれないね……もしかしたら『私のモブは?』という言葉は『私の友人は?』とかだったのかもしれないよ。その辺も含めて話し合おう。もちろん俺も同行するよ。」
それに、収穫祭のドレスもニーナのお母様がドレスについて教えてくれなかったから、本を真似て作ったりしたのかもしれないなと思った。もしかしたらニーナ本人の趣味の可能性もあるかもしれないけれど……
貴族は親から色々教えてもらわなければならないことがある。礼儀作法などはもちろん先生がいるが、一番手本になるのは親だ。
「後は可能性の話だけど。なかなか一度言っただけでは理解できない可能性もあるだろう。その時は何度か伝えてニーナが理解できるようにティアナが引っ張ってあげなさい。」
確かに今まで一度では伝わらないことばかりだった。クラスが違うからわからないが、もしかしたらクラスで浮いているなんてこともあるかもしれない。
もし何度話しても変わらないようであればまた考えればいい。
デューク様や、お父様たちとのことで話し合いが足りないと伝わらないということは理解できたのだ。
まずはニーナときちんと話して理解してもらうところから始める。その先はこれからの動き次第だ。
お父様とお母様たちに相談して良かった。
できるところから一つ一つ始めていこう。
「まずはお茶会の準備からね!」




