私は呑気に準備をしている間に、まさかあんなことになっているなんて知りませんでした。
収穫祭三日目。
昨日は色々なところを歩いたこともあり、ぐっすり眠れてよかった。最終日も楽しもうと気合を入れて準備をする。
「アマンダ。今日もおやすみなのに準備を手伝ってもらってごめんなさい。」
「いえ、大丈夫です。それよりも昨日はどうでしたか?」
二日目の収穫祭は思っていた以上に面白かった。もしかしたら今までで一番思い出に残っているかもしれない。それにニーナに邪魔されなかったというのも大きい。
「とても楽しかったわ! ニーナにも気づかれなかったし……だから今日も昨日と同じウィッグをつけて行こうと思っているの。服装は少し変えようかしら。この季節っぽく緑系はどう?」
気温上昇期はこの国の中で一番緑が多い季節だ。それに緑の色はすごく涼しくも感じる。
「いいですね。髪色がピンクゴールドなので、エメラルドグリーンみたいな明るい緑はいかがでしょうか。」
確かに、明るい緑の方が合う気がする。私はアマンダに洋服を選んでもらっている間に、化粧をしていく。化粧も初めのうちはアマンダにしてもらっていたけど、いつからか自然と自分でできるようになった。
こうやって人は成長していくのかとしみじみ思う。恐らく心も共に成長していくのだろう。ニーナは心があまり成長していないのかもしれないなとふと思った。
アマンダが洋服の準備が終わったというので見にいくと、とても可愛らしい色合いでまとまっていた。エメラルドグリーンをメインとして黄色の刺繍が入っている。
グリーンと黄色の組み合わせは個人的にもすごく好きだ。
「今回は私の好きな色でまとめてくれたのね! ありがとう!」
アマンダに感謝の言葉を伝える。
「私は小さい頃からティアナお嬢様を見てきましたからね。もしかしたらティアナお嬢様よりも、お嬢様のことを知っているかもしれません。」
話しながら手は器用に髪を結んでくれている。昨日は髪を下ろしていたので、今日はアップにしてもらった。
そのおかげで、昨日より首周りが涼しく感じる。
「お嬢様、できましたよ!」
そう言って肩をポンと叩いてくれたアマンダ。最後に軽く花の香りの香水をつけて準備完了だ。私はアマンダに「ありがとう、行ってきます。」と伝えて部屋を出た。
エントランスに行くと、デューク様が待っている。なんだか、お父様やお母様から詰め寄られていて少しかわいそうだなと思う反面、顔が慌てていて少し可愛かった。
私が皆に「おはようございます。」と伝えると、笑顔で挨拶を返してくれる。何の話をしていたのか少し気になったけど、また後で聞けばいいかと思い、デューク様の元へ向かった。
***
ハリソン視点
この二日間、各々が好きなように過ごした二日間だった。もちろん私は妻のメイシーと一緒に過ごしたわけだが、なかなか子供がいると二人で過ごすことができないこともあり、この収穫祭はいつも楽しみにしている。
昔は家族で行くことが多かったものも、年と共に親離れしていく子供たちを見て、私も子離れをしなきゃならないなと思うことが増えてきた。
アレクやアランは婚約者と一緒に周ると言っていたが、ティアは誰と周るのか教えてくれず、昨日、蝋燭流しの時にティアを見た時はびっくりしてしまった。
二人の姿を見て思わずメイシーに伝える。
「メ、メメイシー。大変だ。ティアが男と歩いている……可愛い可愛い私の娘が……」
思わずその場に膝をついた。
まだ小さかったティアが、俺の指を握って庭を歩いていた姿が頭をよぎる。
「昨日まであんなに小さかったのに……。」
「昨日ではありませんよ。十数年前です。」
メイシーが呆れたようにため息をつく。
「違う! 父親にとっては昨日みたいなものなんだ!」
ショックすぎて何を話しているのかわからなくなっているが、メイシーはその横で呑気に、
「あらあら、ついにティアにも恋人ができたようで良かったわ。それに、相手はデューク殿下じゃない……どこの馬の骨とも分からない人じゃなくてよかったじゃない。」
笑顔で二人を見つめている。
腕を組んで歩いているところを見ると二人は付き合っているんだろう。でも俺はまだ認めていない。
「俺はまだ認められないぞ。明日の朝、出かける前にデューク殿下には確認しようじゃないか。」
蝋燭流しまでは、メイシーと楽しい時間を過ごしていたというのに……確かに収穫祭で全く問題がなかったというわけではないが……それでも平和に過ごしていたというのに、最後の最後でまさかこんなことが起きるなんて思ってもいなかった。
次の日の朝、エントランスに行くとデューク殿下が少しソワソワしながら待っていたので俺は声をかけた。
「おはようございます。デューク殿下。」
「お、おはようございます。ティアナの父君。」
父と呼ばれるとは思っていなかった。
「ま、まだ、あなたに父と呼ばれる筋合いはございませんが……それにティアナを嫁に出したつもりもありません。」
捲し立てるように殿下に話すと、隣から呑気な笑い声が聞こえた。
「メ、メイシー? なんで笑っているんだ。俺の娘が大変なんだぞ!」
「ふふ。別にいいじゃない。私と貴方が恋人になったのも貴族院で出会ってからよ? その時の私とティアナ、あなたとデューク殿下は同じ年じゃない。それにこのまま行くとティアナが婚期を逃してしまうわ! ここは敢えて父として見守らなきゃ。デューク殿下。でもこれだけは覚えておいて。ノヴァ家を敵に回すと大変なことになるわ! それだけは気をつけてね。」
始めはにこやかに話していたが、途中からメイシーの声色がどんどん低くなり、デューク殿下は人形のようにコクコク頷くだけとなっていた。
「さっ! ティアナもきたようだし、挨拶して私たちは出かけますよ。」
俺の腕を無理矢理引っ張りながら歩いて行くメイシーが、この家の中で一番怖いというのは言うまでもない。




