二日間限定の恋人。
石の色が違った時のデューク様の顔が捨てられた猫のような顔をしていて、思わず助け舟を出していた。
「水色も、青よりの紫も元の色は青ですよ」
そう伝えた時のパァっと花が咲いたような顔がすごく可愛かった。デューク様本人に言ったら怒ってしまいそうだけど……。
二日間恋人として過ごすのは少し楽しみだったりする。学院におさげでメガネ姿で通っている私に、まさか偽でも恋人ができるとは思ってもいなかった。
「デューク様。恋人とはどのようなことをするのでしょうか……?」
二人とも恋人ができたことのない同志だ。正直、何をしていいかわからない。
「ティアナ。俺たちはついている。今この場にはたくさんのカップルがいるし、皆どのような行動をとるのか観察してみるのはどうだろうか?」
デューク様の言う通り、このお祭りはカップルだらけだ。私は周りを見渡しながら、女性がどのような行動をとっているのか確認してみる。
すると少し遠くでニーナの声が聞こえた。
「アントンさまぁ。今日もたくさんの人たちが私たちを祝福してくれていますね!」
「そ、そうだね、マイプリンセス」
人だかりができているところを見る限り、広場のあたりにいるんだろう。私はあえて広場を通らず、別の道を通ることにした。
「デューク様。こちらの道を進みましょう。あちらに行くといいことはない気がします」
恐らく昨日から人通りの多いところを通っては劇を行っているんだろう。広場であれだけの騒ぎを起こしているのだ。
そろそろ苦情が出ていてもおかしくない……。
昔からルルー家の件で苦情が出ることが多かったが、なぜかもみ消されることが多かった。
この国で一番強いとされるノヴァ一家を敵に回したがる貴族は少なかったので、なぜそんなことをするのか不思議だった記憶がある。
「それにしてもニーナたちはなぜあんなことができるんでしょうか……。夢見がちな少女といっても限度があると思うんですよね。それに昔から苦情が出たと後に訪ねてみても、『間違いだった』で終わってしまうんです。お茶会やパーティーに行ってもそうでした」
いつの間にか、すべてなかったことになっている。
「ティアナ。それは裏で誰かが動いているのかもしれないよ。まぁ、そちらについては今度話そうか。今はこの収穫祭を楽しもう。ほら、周りのカップルを見てみて。ま、まずは腕を組んで歩いてみるのはどうだろうか……」
少し腕を上げ、その間に腕を通せるようにするデューク様。
「確かに、腕を組むのが一番難易度が低そうですね」
抱きしめ合ったり、く、く、口づけをするのはまだ私たちには早い気がする。というか、本当の恋人同士じゃないのに口づけはするのだろうか。考えるだけでドキドキする。
デューク様が腕を組めるようにしてくれているので、私は恐る恐るデューク様の腕に腕を絡めた。
「腕を組むといつもより近い気がするな」
「そうですね。こんなに変わるものなんですね!」
顔を合わせてみても、顔同士がくっつきそうなくらい近い。昨日、ニンニク臭いものを食べていなかったか、すごく気になった。
「私、昨日ニンニクは食べていなかったと思うんですけど、何かにおいがきついとかあったら言ってくださいね。あ、でも面と向かって言うのはやめてください……。その、傷つくので」
思わずデューク様の腕をぎゅっと握りしめる。
デューク様は一度ぽかんとした顔をしたあと、急に笑い出した。
「やっぱりティアナはティアナだな。ここで聞く内容じゃないよ。でもありがとう。おかげで少し緊張がほぐれた。とりあえず、いろいろ見て回ろうか。ティアナは何か見たいものとかあるかい?」
と優しい笑顔でこちらを見た。
夜はろうそく流しを見たいけど、昼はそこまで見たいものがあるわけではない。
二人でぶらぶらしながら楽しめればいいなと思っている。
「じゃあ、今日は俺の行きたいところに付き合ってもらおうかな。一着正装の服を見たいんだ。あと半年で学院も卒業になるし、卒業する時は卒業パーティーがあるからね。今のうちに準備しておきたい」
確かに卒業パーティーは一年に一度の一大イベントだ。
卒業パーティーに参加することで、この国の貴族は成人という扱いになる。
デューク様は隣国アーノルド国の方ではあるが、アーノルド国も成人については同じだ。
「では、いくつか服屋さんを回りましょうか。あとはオーダーメイドもありだと思うので、布屋さんや宝石屋さんを見て回るのも一つかもしれないですね! 折角の恋人記念日じゃないですが、私も一緒に見てもいいですか?」
「もちろん。では、せっかくの恋人記念日だ。俺からはティアナにドレスを贈らせてくれないかい? お互いそれぞれのものを考えるというのはどうだろうか……」
お互いにお互いの服を考えるのはすごく楽しそうだ。
私はデューク様の言葉に頷き、デューク様の話からどうやって回っていくかを頭の中で考える。
この町は服飾屋さん、飲食屋さん、雑貨屋さんと、それぞれまとまった場所にあるのでわかりやすい。
今回はお祭り中なので、プラスで露店も並んでいる。
私は早速デューク様を連れて服飾エリアを歩くことにした。
「本当の恋人じゃないのに、いいのだろうか……」
と、デューク様が一人自問自答を繰り返していることに、私は気付かなかった。
***
デューク視点
ティアナと二人で腕を組んで服飾屋を巡ることになった。腕を組んでみると、思っていた以上に距離が近くて吃驚した。
馬もそれぞれ別々に騎乗していることが多かったし、こんなにティアナと近づいたのは初めてだ。ほのかにするローズの香りがすごくいい香りだった。
「とりあえず露店から見て回りますか? 最近は隣国との流通が増えていて、もしかしたらアーノルド国の名産もあると思います。」
露店を回りながら歩くと、確かに変わった布などがいろいろ置いてあった。いろいろな柄が刺繍されているものだったり、少しキラキラ光る布だったり、光の屈折で色が変わって見えるものだったり様々だ。
いつもは適当に母上が決めた服を着ることが多かったので、初めて自分で選ぶかもしれない。
ティアナは気づくかわからないが、できれば俺の色をティアナに着てほしいと思ってしまう。
「ティアナはどんなドレスが好きなんだい?」
「そうですね……できれば動きやすいものがいいです!」
可愛さより動きやすさ重視なのが、またティアナらしいなと思ってしまう。ティアナが何を言っても可愛く見えるんだから重症だ。
「あっ! あと、一番重要なのは汚れても目立たない色がいいですね! 白とかは汚れたら目立つので……」
汚れて目立つのを気にするのは、食べる時に汚れてしまうことを考えているのだろうか……。
それとも何かあって戦闘になった時に返り血が目立たないようにしたいのか……。ティアナのことだし、どちらも考えていそうだ。
ただ、話を聞いている限り色にそこまでこだわりがないみたいだし、俺の色を入れてもばれないだろう。
「デューク様は好きな色とかあるんですか?」
「んー……俺は濃紺の色と、夜空に光る星のような黄色かな……」
ティアナが似合いそうなドレスを考えながら話しているうちに、ふと自分が恥ずかしい言葉を口走ったことに気が付いた。
恐る恐るティアナのほうを見ると、ティアナは真っ赤な顔をして、
「デュ、デュ、デューク様! 急に何を言うんですか!? 冗談は休み休み言ってください。恥ずかしいじゃないですか。」
さすがに俺の好きな色を聞いたら、俺がティアナのことを好きだと気づくかと思ったけど、さすがティアナだ。全く気付く気配がない……。
二日間のどこかで、俺の気持ちを伝えたいと思っているが、うまくいくか少し不安になってきた。
お互いいろいろな布から服飾屋まで見て回っていたら、あっという間に夕方になっていた。
「あっという間に夕方ですね! いろいろなお店を見て回るの、すごく楽しかったです。無事デューク様の正装を一着選ぶことができましたし、卒業パーティーを楽しみにしていてくださいね!」
ティアナが嬉しそうに話すので、今から卒業パーティーが楽しみだ。
「そろそろ、ろうそく流しが始まる時間か……。時間になるまで少し露店を回って、夕飯を軽く食べるのはどうだい?」
ろうそく流しが始まるのは暗くなってからと言っていたし、もう少し時間まで余裕があるだろう。
それにしても今日は服飾店をメインに歩いたからか、ニーナたちを見かけなくてよかった。
「いいですね。露店を回ってからゆっくり向かいましょうか! できれば私、最近流行っているクレープが食べたいんですけど。」
クレープについては収穫祭に参加する前にリサーチ済みだ。
アマンダが、ティアナが今一番興味のある料理としてクレープを教えてくれた。
しかも、美味しいクレープ屋まで教えてくれたのだから、アマンダには感謝しかない。
「美味しいクレープ屋を知っているから一緒に行こうか。おすすめはサラダやお肉が入った食事系のクレープと、フルーツやクリームが入ったデザート系のクレープなんだって。」
アマンダが教えてくれた内容をそのまま伝える。
甘いものだけだったら食べにくいが、甘くないクレープも置いてあるのはすごくいい。男性でも入りやすいだろう。
人気のクレープ屋さんに着くと、案の定すごい行列だった。
「ろうそく流しが始まる前までに、買えますかね……。」
恐らく買ったらそのまま露店を回ったり、ここから離れたりすると思うから、回転は遅くないだろう。結構人がいなくなるのも早いし、間に合うと思うことを伝える。
「ならよかったです! 私、ここのイチゴ生クリームチョコクレープか、ポテトサラダクレープが食べたいんですけど、もしよかったら今は恋人同士ですし、その……半分こしませんか?」
照れた顔で話すティアナがすごく可愛い。
今日一日で、ティアナを可愛いと思ったのは何回くらいあっただろう。もう数え切れないくらい可愛いと思っている気がする。
俺は少し余裕な顔を見せながら、
「いいよ。半分こしようか。」
と伝えた。
実際、頭の中では今、脳内会議が行われているくらい恥ずかしい。
ここで第二王子という立場が役に立ってよかった。
顔に出さないことは小さい頃から訓練している分、きっと顔には出ていないと思う。
俺はイチゴ生クリームチョコクレープとポテトサラダクレープの二つを買い、ティアナとともにろうそく流しへ向かった。




