夢女から隠れるための方法を考えます。
ニーナとムーラン君が二人劇場を開幕したおかげで、早々に一度切り上げて帰ってきた。
「デューク様。色々ご迷惑おかけしてすみません」
デューク様に軽く頭を下げると、
「それまで楽しかったから気にしなくていい」
と言ってくれた。
ただ、問題は明日からだ。このまま行くと明日もあの二人はいる気がする。
「明日もあの二人は来るでしょうか?」
この時期は宿を取って三日間楽しむ人も少なくはない。
そもそもルルー家はあまり近くないし、ムーラン家は男爵家だったはずだけど、確か領地は持っていなかった気がする。
だから三日間楽しんでから王都へ帰るだろう。
「きっと現れるだろうな……もう少し普通の格好だったら気にならないんだが……ククッ」
きっと二人の前では笑うのを堪えていたのか、今になって思い出し笑いをしている。
うまく変装して隠れられないだろうか……
「デューク様。明日はデューク様が女装して、私が男装するのはいかがでしょうか」
デューク様の背は大きいけど、顔はかなりの女顔だ。
これならスタイルのいいお姉様で乗り切れる気がする。
私は期待を込めてデューク様を見た。
「却下だ……」
ずいっと顔を寄せてきて、低い声で一言そう言った。
まぁ、却下されるとは思っていたけど……
そんなに嫌だろうか。
違う自分になれるようで面白いのにな。
「せっかく二人で回るんだし、髪の色を変えてみるのはどうだ? 確かウィッグというものがあると聞いたことがある。もしかしたらこれだけのお祭りだ。一つくらいどこかのお店にあるんじゃないか……」
デューク様に言われた通り、この髪色だから目立つのだ。
夜、お祭りに戻って探してみようということになった。
***
デューク視点
日が少し落ち、暗くなってきた頃、俺とアナは二人で収穫祭に戻った。
収穫祭の時は結構遅くまでお店が開いているそうだ。
ヘレナは帰ってきて部屋でゆっくりしているが、レナードとビアンカはまだ帰ってきていない。
恐らく二人で楽しんでいるんだろう。
アランやアレクも婚約者に会うのが久しぶりだからなのか、まだ帰ってきていなかった。
「そう言えば夜と昼では何か違ったりするのか?」
「いえ、基本お店は変わらないですね。ただ、この三日間は色のついた照明などがキラキラ光って、星が落ちてきたみたいで綺麗ですよ」
色のついた照明か。
どのようになっているのか少し気になった。
「あとは、明日の夜はろうそくに火をつけて川へ流すんです。その時にお花も一緒に浮かべるのですごく神秘的で綺麗ですよ」
今まで亡くなった人たちへの鎮魂と、この一年、飢えで苦しむ人がいないよう願いを込めるそうだ。
「じゃあ、明日は一緒に川に行こう……」
アナの話を聞いて、アナと二人で見に行きたいなと思った時にはアナを誘っていた。
アナは少しびっくりした顔をしていたが、振り返り、
「はい、一緒に行きましょう」
と笑顔で返してくれた。
夜空に浮かぶ三日月がとても綺麗だった。
思わずアナに見惚れていると、
「早く行きますよ!」
と声をかけてくる。
いい雰囲気が流れてもぶった斬ってくるアナを見て、アナといい雰囲気になることはまだまだ先になりそうだと思った。
店を色々見ていると、ウィッグ屋さんが目に入った。
ウィッグはまだ最近出始めたばかりで、あまり浸透していないらしいが、一部の貴族には人気だったりするらしい。
一部の貴族とは、髪が薄くなってきた人たちだそうだ。
最近では若くして髪が薄くなる人もいるらしい。
逆にある程度歳を取った方々は、薄くなった髪を楽しんでいる節があるが、若い時はまだ踏ん切りがつかないのだろう。
あとは女性が少し髪色を変えたい時などに使う人もいるそうだ。
アナと二人でウィッグを見ていると、一つのウィッグに目が留まった。
色はピンクゴールドと言えばいいだろうか。
薄いピンクにゴールドが入ったような色で、とても綺麗だった。
アナの髪色とは全く違うため、雰囲気ががらりと変わりそうだ。
「アナ。この色似合うんじゃないかい?」
「私もこの色がいいと思いました。この色にしましょう。すぐ決まってよかったです」
走って店員さんを呼びに行くアナを見送り、店内を見ているとアナの悲鳴が聞こえた。
急いでアナのいる方へ向かうと、まさかのムーランがこのお店にやってきていたのだ。
そしてもう一つ。
ムーランの髪がなかったのである……。
「こんばんは。ム、ム、ムーラン様、お、お昼ぶりですね?」
「あ、あ、あぁ、確かモブさんだったかな」
かなり吃っている。
恐らくここで会うとは思っていなかったのだろう。
「私、モブという名前ではありません。ティアナ・ノヴァと申します。そしてこちらはデューク・アーノルド様です。アーノルド王国の第二王子です」
ムーランは顔面蒼白になりながら、
「昼のご無礼申し訳ございませんでした。どうかここに私がいることは内密にしていただきたいのです」
と頭を下げてくる。
もしかしたらムーランはそこまで話が通じないやつではないのかもしれない。
「構わない。ただ、俺たちに会ったことも秘密にしていただきたい。どうかここだけの話としてほしい」
俺がそう伝えると、ムーランは人形のようにコクコク頷き、
「わかりました」
と言っていた。
まぁ、なぜムーランに髪がないのか聞く気はないが、ずっと隠し続けるのは至難の業だろう。
自称ヒロインが気づいた時、どんな行動に出るのか見ものだなと思いながら、二人でお店を出た。




