夢みがちな人はどこまで行っても夢みがち。
「デューク様。大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。あの二人は……」
「あの時の二人です。ほら、運動祭の時の……」
馬術競技の時の出来事を伝えると、思い出したようだった。
「それにしても過激な二人組だったな……お陰で胸焼けしそうだ」
確かにデューク様の言う通り、お腹がいっぱいになってしまった。
ニーナだけならまだマシだったが、ニーナが二人になったような錯覚に陥った。
「とりあえずこの辺にいるとまた鉢合わせしそうですね。なるべく遠くに行きましょう」
町全体で行われている収穫祭なので、少し離れればそう簡単には会わないだろう。
――と、思っていたのに……
デューク様が飲み物を買いに行っている間、端に寄って待っていたら、
「あら……私のモブじゃない! 久しぶりね」
腕を組みながら寄ってくるのは、ニーナとムーラン君だった……
「久しぶりね。元気そうでよかったわ」
無理やり笑顔を作っているからだろうか、片頬がヒクヒクしてきた。
それにしても遠くから見ても強烈だった二人の服装だが……近くにいればいるほど強烈だ。
できれば知り合いには思われたくないので、
「じゃあ」
と軽く手を上げてここから離れようとしていたところで、タイミングよくデューク様が戻ってきた。
そして何を思ったのか、ニーナが、
「一緒に回りましょう」
と言ってきたのである。
恐らくニーナのことだ。私とデューク様を隣に侍らせて、自分たちがどれだけ可愛いか周りに見せつけたいとか、そんなことじゃないだろうか……
私は、
「先約があるので……それでは」
と踵を返し、デューク様と一緒に歩き始める。
すると途端に後ろでまた劇が始まった。
「せっかく、ニーナが誘ったのにひどいわ」
ニーナはいつも都合が悪くなると泣き真似をするのだ。今回もその泣き真似だろう。
「アントン様。私の親友がひどいことを言うのです……せっかく誘っているのに……」
涙ながらに話すニーナに、
「ああ、可哀想なプリンセス。泣くなら私の腕の中で泣くといい。他の男には泣き顔は見せないでおくれ……」
二人の世界の劇が始まる。
私はそれを横目に、
「親友ではないですし、誘ってほしいと思ったことはないので……それでは失礼します」
とだけ伝えて二人の元から離れた。
デューク様は腕を組みながら、
「なんであんなに邪険にされているのに、ニーナとやらはアナに話しかけてくるんだろうか。普通だったら、あんなに邪険にされたら話しかけるのは辛くならないかな」
と、ニーナのことを考えているようだ。
でも確かにデューク様の言う通りだと思う。
「恐らく、初めの出会いがいけなかったのかもしれません」
ニーナに初めて会った時、ニーナは浮いていた。
周りからは相手にされておらず、一人でいることが多い子だった。
「私も初めは話しかけなかったんですよ。人見知りが激しかったこともあり、お母様の近くにばかりいました」
それにこの国には明るめの髪色が多く、濃紺や黒に近い髪色はノヴァ辺境伯家の人しかいなかった。
そのせいか、やたら遠巻きに見られていたのだ。
「たまたま一人でいたニーナに何をしているのか聞いてしまったんです。初めはあんな夢見がちな少女とは気づかず話しかけてしまって……そしたら『あなたはモブよ!』と言われたんです」
そこからだ。
やたらと絡まれるようになったのは……
「最近になって思ったんですけど、もしかしたら友達になりたかったんじゃないかと思います」
お互い子供だったから、どう話していいのかもわからなかったのだろう。
「まぁ、今さら『友達に』と言われても趣味が合わな過ぎて無理なんですけどね。それに、お茶会とかパーティーの度に邪魔されてきたので、許せないというのが本音です」
途中からはニーナに会うのが嫌で、お茶会にすら顔を出さなくなった。
もし絡まれていなければ、婚約者の一人や二人いたのではないかと思う。
「たしかに、お茶会やパーティーもあの格好で来ていたとなると、相当浮いていただろうな……」
デューク様の言う通り、かなり浮いている。
今もどこにいるか周りに人だかりができているので、すぐわかる。
「それにしても、行く先々に先回りしているのかいるのはやめてほしいな」
綿菓子を持って歩いていると目の前に二人が現れて「好き、好き」と言い合ったり、粉物屋さんに寄れば、
「あー、火傷しちゃったぁ。ふぅふぅ」
と可愛こぶっていたり……見せつけるように二人で食べさせ合ったり……
いい加減にしてほしい。
デューク様とため息をつき、これ以上は二人が追いかけてきそうなので、一度屋敷へ帰って二人がいなくなるのを待つことにした。
お祭りはまだまだ始まったばかりだ。
ほとぼりが冷めればいなくなるだろう……と信じて……。




