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臆病者の残すもの  作者: 月見里 朱祢
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4/5

システムが

 独自のシステムを使っている会社は少なくない。


 入社して一年が経とうとした頃、A社から「システムが変わる」との通達があった。


 そして迎えた最初の勉強会の時のこと。


 派遣社員、大パニック。


 見た目が変わるだけではない。ほとんど全てが変わるのだ。

 パソコンがそれなりに使えた私ともう一人、派遣仲間の澤田という若い女性は割とすぐに冷静になった。

しかし他の人、特にパソコンに苦手意識を持つ人たちからは時折奇声のような声が上がった。


 勉強会は時折開かれた。

 最初は翌月に変更されると言われていたが、トラブルでもあったのか、実際に変更されたのは年を越した後だった。

 全体への説明は最初の一回だけで、あとは担当の一人と教えられる側二人の塾のようなものだった。


 私と澤田さんはすぐ覚えられたが、苦手な人はそうもいかない。


 マニュアルはなかった。

 なので、作った。手が空いた時や昼休みを削って。


 部署のほとんどの人は五時が定時だが、夜勤の人もいた。派遣側もだ。

日中なら分かる人が何人もいるが、帰った後には分かる人はいなくなってしまう時もある。


 画像をエクセルにいくつも貼り付けて、細かく作った。

 何かの解説書や攻略本のように。

これで分からないとは言わせないと思う程度には見やすく、分かりやすくする努力もした。


 パソコンが苦手と知っていたのは三人だが、他にも苦手な人がいたようだった。作ったマニュアルは全部プリントして渡した。

 伊沢さんにも渡した。彼もパソコンは苦手だった。

 A社の人しか関わらない部分は私には当然わからない。

 ただ派遣が扱うものは、伊沢さんも知らなくてはいけなかったから。


 そして、変更された日。


 再びのパニック。


 思ったように動かなかったのだ。自動で切り替わるはずの部分が自動で出来なかったので、手動ですることとなった。


 私は仕事の合間にあちこちに手を貸すことになった。このことだけでない。何か頼まれた時、余程のことがない限り、断らないようにしていた。

 都合のいい便利屋のように聞こえるかもしれないが、そこまではしていない。


 困って聞いているのに「私の仕事ではない」と切り捨てられたら。

 分からないなら仕方ないにしても、せめて分かる人を教えてほしいものだ。


 声を掛けられたら「はいよ」と、出来るだけ聞くようにしていた。担当のものなら受けていたし、そうでなかったら担当の所へ一緒に行くか、誰が担当かを伝えた。会社全体として縦割りだったが、部署の中もそういう風潮なのか、他を意識するというような人は少なかった。


 派遣という立場だったので、そういう考えになっても仕方ないのかもしれない。


「言われたことだけ考えて、すればいい」


 長年働く伊庭さんの言葉だ。


 最初は分からないことだらけだったので、他に気を回す余裕もなかった。ただ、時が経ち、伊庭さんの言うように言われたこと仕事のことだけ考えていると、頭の中が固くなっていくような気がした。


 どんな仕事でもトラブルは付きもの。

 固くなった頭ではトラブルに遭遇した時に、A社の社員に報告するのは出来たものの、他のことに気が回らなかった。


 これは良くない。

 そう思った私は、手は出さないまでも、情報だけは集めるようになったのだった。

愚痴を言いたい人はたくさんいました。

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