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臆病者の残すもの  作者: 月見里 朱祢
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2/5

あの棚の向こうは

当時、M社の派遣社員は、M社の制服を着ていました。

 部署では月曜日の朝、皆で部屋を掃除する。


 大きな会社とあって、階段やトイレなどは清掃会社の人が掃除をするが、部署の部屋はそうはいかない。

 私はサンプルを保管してある部屋を担当することとなった。


 作業部屋より小さい作りで、一人でも問題はないくらいの広さだった。


 それは、林さんとのことがあった日の少し前の月曜の朝だった。


 私はいつものように、フローリングワイパーを手に保管室へと入った。

保管室は壁際にずらりと棚が並んでいる。それ以外の所はレールが敷かれ、棚が前後に移動できるようになっている。移動棚の一番奥の列の向こうは壁になっているが、そこにも棚があり、サンプルが置かれている。


 私が保管室に入った時、女性が一人奥へと歩いていた。協力会社の制服と、髪型などの後ろ姿で伊庭さんだと思った。伊庭さんは林さんとのことを知っていて、何かと気にかけてくれていた。

 掃除の時間ではあるが、何かを片付けに来たのだろうと、あまり深く考えなかった。


 その直後、私は目を疑うことになる。


 奥の棚の隙間へ、真っ直ぐ入っていったのだ。私の立っていた入り口の正面になる。ほんの一瞬、視線をずらしていなければ、横顔が見られたかもしれない。

壁の棚とその手前の移動棚の間に隙間はあるが、痩せた人でも横向きにしか入れないような幅だった。


 内心首を傾げながら掃除を続けた。片付けに戻った時に

「さっき保管室にいた?」

と伊庭さんに聞いた。伊庭さんは

「行ってないよ」

と答えた。


 それからしばらくした、ある日の昼休み。

 私は休憩所で本を読んでいた。

 休憩所を挟んだ隣にも作業部屋はある。通常なら安全靴やスリッパを履くように言われているが、横着する人も中にはいる。

 その日、協力会社の服を着た誰かが隣の部屋へと向かうのが視界の端で見えた。

 靴やスリッパを履かなくても、足音はする。しない人もいるかもしれないが、当時部署の部屋に出入りする人で足音のしない人はいなかった。

 もう一つ妙だったのは、隣の部屋の明かりが点かなかったことだった。

部屋には窓がないので、電気を点けなければ夜のように真っ暗だ。休憩所から漏れた明かりで何かを探しているのかもしれないと、掃除の時と同様にあまり考えていなかった。


 休憩時間の終わり、隣の部屋を覗いてみたが、誰もいなかった。


 後に伊藤さんから聞いた話だが、幽霊を見たと訴える人は以前からいたようだ。特によく聞くのは四階だが、この階もいて、足を掴まれた人もいるとのことだった。

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