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ACT.42 想定外って嫌な言葉だな

 アコも俺もしばらく言葉がなかった。


 アコが尋ねた。

「中国が追い詰められたのはわかった。だからと言って、いきなりアメリカ本土へ攻撃はないだろう」


 カネが大きくうなずいた。

「はい。いきなりというわけではありません。ある意味、必然的な結果です」

「どういう意味だ?」

「中国とロシアはアメリカに交渉を持ち掛けます。秘密交渉がスイスの山奥の村で行われました」

 モニターに国際交渉の場面らしい写真が映し出された。


「中国もロシアも、それなりに大きな譲歩は覚悟していましたが、アメリカの要求は中国、ロシアの予想をはるかに越えるものでした」


 大国間の交渉が金で決着するとは思えない。しかし、そうなると何が求められるのか……。


「この時期、米国の大統領は中国系のリウ大統領でした。彼は天安門事件に関係し米国に逃れた学者の孫だったのです」

「そんなことってあるのか……」


 カネは黙ってうなずき話を続けた。


「リウ大統領が中国とロシアにつきつけた要求は『第二次世界大戦終了時のテリトリーに戻ること』でした。ロシアにはウクライナを手放し、中国にはチベット、台湾の独立を認めること、南シナ海から手を引くことを要求しました」


 背後のモニターに世界地図が現れた。ロシアと中国の領土を示す範囲のうち、ウクライナの東、黒海周辺とクリミア半島、日本の北方領土、チベット、カシミール、台湾、南シナ海にハッチングが入った。


「要するにアメリカが支配的だった時代に戻せということか」

「リウ大統領は国際連合発足時の原則に戻るという表現をしました」


「それで、中国が最後通牒をだしたのか?」

「いいえ。共産党幹部は条件を付けますが、原則、受け入れるつもりでした」

「じゃあなぜ……」


「秘密会議の内容がリークしたのです」

「なんで、そんなことが起きるんだ」


「真実かどうかはわかりませんが、アメリカが意図的にリークさせたようです。選挙を控えたリウ大統領が外交的成果を誇りたかったようです」

「アメリカも外敵を必要としていたということか?」


「そういってもいいでしょう。このころアメリカは国内の様々な格差が極端になり、あちこちで暴動が起きていました。さらに国内にいくつものゲーテッドタウンができていました」

「ゲーテッドタウン?」

「柵で囲われた街ですね。住人は富裕階級のみ。セキュリティー会社が高度なAIと武装で街を守ります。行政単位の街ですから有り余る住民税でユートピアのような街が実現していました。他方、富裕者を失った街は税金の担い手がいなくなり、荒れ放題です」


 俺は2026年のアメリカのニュースをいくつか思い出した。田舎の親爺のような言動で第四十七代合衆国大統領になったトランプは、続けざまに人気取り政策に着手する一方、国内の格差拡大を加速する政策を推し進めた。その行きつく先がゲーテッドタウンとスラム……。


「それでどうなったんんだ」

「中国とロシアに痛めつけられていた国々が一斉に騒ぎ出しました」

「中国ではチベットと内モンゴルが人民共和国からの離脱を表明し、雲南省でも独立の動きが現れました」

「支配の頸木が緩んだか……」


「欧州では、まずウクライナがクリミア半島をはじめウクライナ・ロシア戦争で奪われた領土の奪還を始めました。リトアニアはカリーニングラードが自国領だと主張しましたがポーランドも領土主張を始めました」

「もうぐちゃぐちゃじゃないか!」

「そうです。しかもロシアと中国はゼフォンの蔓延で軍の稼働率は半分以下まで下がってましたので、反ロシア・中国勢力は、あれよあれよという間に勢力圏を広げてしまいました」


「ロシアと中国はどうしたんだ」

「ロシアと中国は会議を打ち切りました。ただ、国内を立て直すのは困難になってました。そして、アメリカの想定外のことが起きました」


 アコが顔をゆがめた。


「想定外って嫌な言葉だな」


「中国とロシアにクーデターが起きたのです。人民解放軍参謀本部の幹部の一人が、麾下の特殊部隊を駆使し、共産党幹部を一気に襲撃して全権を掌握しました。これに呼応して、ロシアで陸軍の一部がモスクワを封鎖し、クレムリンになだれ込みました。つまり、中国、ロシアは妄信的な民族主義者たちに握られてしまったのです」


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