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ACT.39 どこかで見たような

 檻の中の乗り物に近づいてみる。前方と後方が丸く中央部は筒型である。たとえるなら巨大な薬のカプセルである。全体が銀色に見えるが、中央の円筒部がアルミのような金属製で前後の半球部はシースルーフィルムのようなものが張られているようで半透明になっている。


 青函トンネル記念館で乗った斜坑ケーブルカーには太いワイヤーケーブルがついていたが、こいつにはついていない。二本のレールのようなものに乗っかているだけである。そしてそのレールは深い穴の中に続いている。


 不幸なことに檻の一部が開いていた。アコはすたすたと進んでいく。アコが巨大カプセルに近づくと円筒部の一部が開いた。アコはためらいもせず入っていく。中から声がする。

「おう、新幹線よりきれいだぞ。タケ早く来い」


 『年長者の言うことに背いてはなりませぬ』


 俺の精神に植え付けられた“什の掟”の第一項が恨めしい。


 カプセルに入った。

 壁全体が白っぽく光っている。中には肘付きの豪華なシートが進行方向に向かい横に二席、縦に四列配置されている。操縦装置もスイッチも見当たらない。


 アコは先頭の右側のシートにすでに座っている、俺はその隣のシートに座った。

 気が付くと出入り口が閉まっている。

 ポッ、ポッ、という音が聞こえ始めた。次第に間隔が短くなり連続音に変わった。

 音が止まると同時にカプセル内の照明が薄暗くなり、進行方向を照らすライトが点灯した。進行方向のトンネル内が明かりに浮かび上がった。


 カプセルが動き出した。振動や摩擦、軋みの音は聞こえない。


 気が付くとトンネルの先のほうが閉じてられている。カプセルはお構いなしに進む。俺はシートを握りしめて奥歯を噛みしめた。


 閉じていた前方がレンズシャッターのようにいきなり開いた。


 カプセルは地下に向かってどんどん進んでいく。速度も恐ろしく速い。


 このまま減速せずにどこかに突っ込んだら一巻の終わりとの不安でドキドキしはじめた頃、少しずつ前方への加速度がかかった。行く手に赤い大きなバツ印が点滅している。カプセルは音もなく停まった。進行方向を照らすライトが消えて。同時にカプセル内の照明が明るくなった。出入り口が開いた。


 アコが立ち上がりながら言う。

「おう、着いたようだな。タケ行くぞ。どうした?腰が抜けているのか?」

 腰は抜けていない。ただ、心が状況に追い付かず、足に力が入りにくいだけだ……。

 シートに両手を突いて何とか立ち上がった。アコはすでに降りている。

 プラットフォームが短い地下鉄の駅のようなところだが、照明が暗めだ。足元に幅二メートルほどの光るタイルのようなものがあり、その先は透明の両開きのドアに続いている。

 アコはどんどん進んでいく。ドアが自動的に開いた。俺もアコに続きドアに通過する。


 部屋の照明がついた。小学校の教室ほどの広さだ。天井全体が光っている。

 正面に表面が黒いゲートがある。高さと幅が二メートル余りの四角い通り道があるが、その奥の両脇に直径が20センチほどの半透明の柱が立っていて、内部で小さく黄色の光が点滅している。


 アコは一瞬立ち止まり周囲を見渡したが、小さくうなずき、ゲートに入っていく。また、ポッ、ポッ、という音が聞こえ始めた。一オクターブ高いピッという音がして、黄色い光が緑になった。

 アコがゲートの向こうで俺を手招きしている。

 俺もゲートに近づいた。ポッ、ポッ、という音の繰り返しがアコの時より長いように感じ始めた頃、ピッという音がして、黄色い光が緑になった。


 ゲートの奥のドアが左右に開いた。


 薄暗い。今度は、大学の大講義室くらいの広さがある部屋のようだ。


 どこかで見たような感じがする部屋だ。Jaxaの筑波宇宙センター……。

 次第に明るくなっていく。


 部屋の奥の方に、コンサート会場にあるような巨大なスクリーンがある。その両サイドにサブスクリーンが並ぶ。床は奥に向かって緩く傾斜している、大学の講義室のように机と椅子が配置されているが一つ一つが大きいうえに、机上に複数のモニターらしきものを操作端末のようなものが整然と配されている。ただスクリーンは暗く何も映っていないし、音が何もしない。


 アコが小さく漏らす。

「サンダーバードの場面に、こんなのなかったか?」

「アコ、俺はサンダーバードを見たことがないんです」

「あれ、面白かったんだぞ」


 ふと、前方で何か動きがあった。アコも気が付いた。 

 前方の椅子にひとつから、人が立ち上がった!


 俺たちは身構えた。ただ、どう対処したらいいのかわからない。知的訓練はあまり役に立っていない。


 そいつが俺たちに近づいてきた。そして、俺たちの五メートルほどの手前で立ちどまった。どことなく軍服のような服装だが階級章や所属を示すものは身に付けていない。そいつは、イタリアのきざ男のように両手を広げた。


「やあ、やっと直接会えましたね!」


 カネだ。


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