ACT.34 山籠もり
チョーハが困惑していた。
「俺がこの町をまとめるのか?そのうえ、アコ将軍もタケ参謀も行ってしまうのか?」
カネが答える。
「チョーハさん。何にもないところから、ワンダラをまとめて村まで作った実績からして、最適なのはあなたですよ」
チョーハは依然として不安そうにしている。
カネが続ける。
「そうそう、革命軍のことはしばらく忘れてください。ただただ、この町をうまく回して、皆が無事に冬を越せるようにすること、元ワンダラとパンピ、それにオークの子どもがいがみ合うことなく、穏やかに暮らせることだけを目指してください」
チョーハが答える。
「そうするよ。正直って、あの脱獄からこの町に戻るまでの日々は、目まぐるしすぎて付いていくのがやっとだったよ」
カネは口元だけで笑った。
「これからも大変です。しかも、これからはあなたが先頭で進むのです」
「人使いが荒いなあ」
「仕事には二種類あります。誰でもできることと、選ばれたものにしかできないこと。これは後者です」
チョーハがうなずいた。
「わかったよ。では、あんたらに付いて行ってもらう五人を選ぶとするか」
カネが答える。
「そうそう、力仕事があるのでインシュンを加えておいてください。その五人はずっと一緒に来てもらうわけではないですよ。山ごもりの準備と革命第二段階の準備が整ったら、ここに戻ってもらいます」
俺は驚いた。
「えっ?それって俺とアコだけでエルフたちを倒すってこと?!」
カネは苦笑いをしている。
「だからー、エルフたちと正面切って戦うようなことはしません。例えばですねえ……難攻不落の要塞があったとしても、その要塞が水を外部のダムに依存しているとしたらって話です」
「エルフたちのダム?」
「戦争は相手を倒すことは目的じゃないんです。こちらの生存を守り意思を通すことができればいいんですよ」
ときどきカネの言うことは理解できないことがある。
翌日から準備に入った。
チョーハは町をとりあえず仕切って来た連中と長々と打ち合わせを繰り返し、時々、町の中に出かけていって現場を確認しているようだった。
俺はカネが用意したリストの品物をかき集めた。
ほとんどは、保存のきく食料と灯火用の油、防寒着に調理器具である。それと忘れてはならないのはソーラーチャージャーと暗視装置ということだった。数か月こもることを前提にすると、二人分でも結構な分量になる。たしかにインシュン込みでタフなメンバーが必要だ。
アコはカネと何やら地図らしきものを開いて、細かな打ち合わせをしているようだった。
カネの話はよく分からないことがときどきあるが、今回の話で最も分からないのは、第二次革命軍、と言っても俺とアコの二人が、なぜ、山籠もりしないといけないかということである。
この点を何度かカネに尋ねたが、うまくはぐらかされるばかりだ。最終的には「行ってみればわかりますから」と言われてしまった。
三日経った。昼でも北風が寒くなりだした日、第二次革命軍と支援隊は、一か月半ほど前に放棄した村に向かって出発した。一番楽な谷筋から入るルートは破壊したので、足場の良くない尾根筋を登るルートで向かう。ほぼ一日かけて尾根の上に出た。風が冷たい。
岩陰で焚火をし、野営した翌日に、村に着いた。大慌てで離脱した村だったが、荒らされている様子はなかった。
かつて集会所として使っていた少し大きな建物に荷物を運び込んだ。暖炉やカマド用の薪を兵士たちが集めてきた。これで、何とか過ごせそうだ。
晩飯を食べ終わって、暖炉に火が入った。アコは上機嫌だ。
「いいなあ。なんだか別荘に来たみたいだ」
カネがモニターの中で笑っている。今回の背景はいつぞや見た山荘風である。
「いいんですか、労働者代表が別荘なんちゃって」
「別荘というのがまずいんだったら、冬の仕事場って言おうか。季節ごとに労働の場を変える季節労働者だ」
「そうきましたか。たしかに明日からは仕事ですからね」
「そうとも、皆、頼むぞ」
翌日、朝飯を食べた後、アコが全員に指示を出した。
「よし、これからダンジョンに向かう。タケ、カネを連れてこい。松明と食料を一日分用意しろ」
ダンジョン……そういえば、チョーハが言っていたなぁ。ダンジョンと言えば怪しくて危ない化け物が出る場所だ。正直言って、俺は行きたくない。




