ACT.32 えっ……、俺のせい?
翌日の午前、町の仕切り役と革命軍の話し合いが行われる時間になった。
革命軍の代表として会に臨むのは、チョーハとアコである。ただし、アコはイヤホンをつけ、胸にはトランシーバー機能をオンにしたスマホを挿している。俺は隣室で、パソコンを起こしてカネとともに会をモニターする。今日のカネはグレーのトレーナーの上にジージャンを羽織って、丸縁の眼鏡をしている。どこかで見たことがあるような格好だが思い出せない。
会が始まった。アコが話を始めた。
「話し合いに応じてくれて、ありがとう。町の皆には心配をかけさせてすまない」
町の仕切り役の中で古株らしいのが応じた。
「正直に言おう。あんたたちが一か月少し前にこの町を出て、エルフが大勢のオーク兵を率いて町に来た時には、私らは、あんたたちはすぐに殺されてしまうと思っていた」
「そうだろうな」
アコが応じる。
「ところが、奴らは、あんたたちを追って行ったかと思うと、すぐに引き返してきた。オークたちはひどく興奮していて、町の中のいたるところをひっかきまわして何か探していた。エルフは手が付けられない様子だった」
「すまなかったな」
「エルフとオークは町の西側に駐留した。我々は、当然、彼らはあんたたちが追い出したエルフがやっていたように町を治めるのかと思っていたが、何もしようとしなかった」
カネがモニターの中でうなずいた。
「なるほど。やはりそうでしたか」
俺には何が「なるほど」なのかさっぱりわからない。
「どういう意味だ?」
「我々を急襲したエルフは軍人なんですよ。指揮ぶりがよかったのが納得できました。
我々が追い払ったエルフは警察権限を持った行政官。つまり担当が違うんです」
話し合いは続く。今度は町の仕切り役の中でも少し若い髭面の男が口を開いた。
「奴らが何もしようとしないので、俺たちは、自分たちで動き出すしかなかったんだ。食べ物をどう配分するのか、工場をどう動かすのか、畑の仕事はどうするのか、すべて自分たちで決めなくちゃならなくなった。大変だったよ」
チョーハの声がする。
「町をどう動かすかは、エルフとオークが一方的に命令していたからなあ……」
古株が話を引き取った。
「当面何とかやっていけそうなところまで漕ぎつけた。ただ意外だったのは、町の皆にたらふく配分できると思って始めたのだが、倉庫の食料と、畑の作物を見合わせると、あまり配給を増やすことができなかった」
町の三人目の代表は中年の女性だった。
「そして、少し寒くなって、風邪が流行り出したのよ。エルフが治めていた時には、どこからか薬を出してきていた。しかし薬の置き場所を誰も知らなかったし、やっと見つけてもどうやって使うかわからなかったの。皆で集まって、記憶を頼りになんとか使い方を思い出して、高熱を出している者にようやく配ることができたの」
「それは、大変だったな」
アコの声が聞こえた。
古株の男が話を続けた。
「そうしているうちに、別のエルフに率いられた新たなオーク兵の一団がやって来たんだ。奴らの数は倍ほどに膨れ上がった。食料といろいろな物資を町に運び込んだと思ったら、新しく来たエルフとオーク兵を五名ほど残して、皆、山のほうに進撃して行った」
カネが画面の中でうなずいている。
「ほぼ予想通りの展開でしたね。我々が追い払ったエルフに代わる行政官が、増援のオーク兵を引き連れてやってきた。軍人エルフは、駐留の準備を整えたうえで、革命軍を殲滅して、さっさと帰るつもりだった」
髭男が続けた。
「俺たちは、皆、何が起こるか想像できた。奴らは本気であんたらを皆殺しに来たんだってな。あんたらの人数は百名もいないし、女、子ども、年寄りまでいた。彼らは、一気にあんたらを押しつぶしてしまうと俺たちは思っていたよ」
アコが応じる。
「まあ、そう思うのが普通だよな」
古株が話を引き取った。
「ところがどうだ。あんたらを追って行った軍は七日目にボロボロになって戻って来た。一台の荷車には動けなくなったエルフが、二台目、三台目の荷車には死んだオーク兵と歩けなくなったオーク兵がたくさん乗っていて、歩いて戻って来た連中の多くも、傷ついた上に体調がおかしいようで、町に着くなりへたり込んで動けなくなった」
髭男が続ける。
「我々は驚愕したよ。町の皆は、あんたたちが魔法を使って奴らを痛めつけたと思ったよ」
アコが答える。
「俺たちはたいしたことはしてない。奴らがボロボロになった本当の理由は、奴ら自身が自分に呪いをかけていたからというところだな」
古株が続けた。
「オーク兵たちで動ける者たちが、駐留していた原っぱにいくつも大きな穴を掘った。そして死んだオークたちを埋めた。最終的に彼らは三分の一くらいの人数になっていた。そして、何もかも放り出して去っていった」
古株の両隣で、髭男と中年女が小さくうなずいた。
俺はちょっと解せない所があった。
「カネ、オークたちが体調を壊して死んでいった理由はブルーピルが切れたからだと思うんだけど、どうしてオークたちの中で生き延びた者がいるんだろう?」
カネが画面の中で口角を上げた。
「それはタケのせいですよ」
「えっ……、俺のせい?」
「ブルーピルを町の中にばらまいて、橋のところでばらまいたのはタケでしょう」
「そうだけど……」
「生き延びた三分の一は、それを拾って隠し持っていた連中ですよ」
「そうか……」
「これもエルフ支配にほころびを入れる一手です」
「どういうこと?」
「生き延びたオークはエルフをだまして仲間のオークを出し抜いた『ずるいやつ』です。しかし、敗走軍の中に彼らがいなければ、撤退もできなかった」
「たしかに」
「これで本拠地に戻って、エルフは『ずるいやつ』を処罰できるか。難しいですよね」
「……」
「オークのほうから見れば、エルフのいう通りにしていたら生き延びられなかった。ということはエルフの命令の絶対性はどうなるでしょうね?」
「もしかして、俺たちが町を脱出する時点から、企んでいたのか?」
「いまさら答える必要もないでしょう」
カネは無駄口は多いが、肝心なところではぐらかすようだ。




