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ACT.30 僕らはみんな生きている

 三日後の朝、俺たちは移動を開始した。


 用心のために斥候を先行させて、山を下っていく。コースはエルフ軍が攻めてきて撤退していった道である。あらためて通ってみると、あちこちに罠が仕掛けられていたことがわかる。このコースをたどってくるだけでエルフ軍は散々な目に遭ったことだろう。


 やがて川の渡渉点にやって来た。俺は水かさが増して、川岸に泥がついている光景を予想していたが、川には土石流の跡があった。カネは水攻めと言っていたが、実際は土石流を喰らわしていたのだ。


 幸いエルフの死体オークの死体も見当たらなかった。俺はへんな安心感を覚えた。


 そのまま進むと森を抜け草原に出る。荷車が三台停められていた。おそらくはエルフ軍の食料や装備をのせてきたのだろう。俺たちはその一台に我々の荷物を載せて運ぶことにした。


 森を抜けると低灌木と枯れた草の野原に出る。我々は灌木の茂みに分散して休みを取った。ツィックマの町にはすでに偵察隊を送り出している。


 日が傾きだした頃、偵察隊の一人が帰って来た。報告があるという。アコがいつものようにチョーハと俺とカネを集めた。


 アコが発言を促す。

「じゃあ報告を聞こう」

「はい、偵察隊は町まで徒歩で十五分くらいのところまで接近しました。さらに近づくかどうか様子をうかがっていると、町の住人三名が剣や槍を手に哨戒していることに気づきました。同時に向こうも気づきました」

 チョーハが心配そうに尋ねた。

「それでどうなった?やり合ったのか?」

「いえ、三人のうち一人はツィックマの町にとどまった元ワンダラでしたので話を聞くことができました」

 チョーハが重ねて尋ねる。

「何と言っているんだ?そいつは」

「町からエルフもオークも去ったそうです。今、町は住民たちが協力して回しているそうです」

 俺はアコの様子を見た。アコは依然として鋭い目つきで報告者を見ている。

「偵察隊は三人だったよな。なぜ、一人だけ戻って来た?」

「偵察隊長の判断です。二人は、町の哨戒隊の観察を続けています。もし私を追跡するようなものが現れたら、始末してから、ここに戻るそうです」

「よし、よくわかった」


 アコが俺を見ながら言う。

「タケ、カネと一緒に偵察隊に合流してくれ。万一に備えて、インシュンと……そうだな、弓を使えるものを一人つける。我々本隊が町に近づいても大丈夫なら、火矢で合図しろ」

「大丈夫じゃなかったら?」

「すぐに逃げてこい」

 恐ろしい仕事を押し付けられてしまった。


 俺は報告に戻った兵士とインシュン、弓使いと一緒に、パソコンを抱え小一時間歩き、偵察隊に合流した。偵察隊は草原の小高くなってる丘から町の様子をうかがっていた。

 俺は尋ねてみた。

「町の連中と接触してから何か変化はあったか?」

「何もないですね。町の哨戒隊の連中は『待ってるから来いよ』とは言いましたが、安全の裏付けは取れてないです」

「そうだよなあ……」


 俺はパソコンを開いてカネを呼びだした、が、画面は暗いままだ。カネの声がした。

「画面は落としてます。光は遠くからでも見えますからね」

 俺が状況を説明するとカネが答えた。

「乗り込むしかないでしょう。食料や雑貨、医薬品の調達も必要ですから」

「……じゃあどうやって……」

「タケ、スマホは持ってきてますか?」

「あるよ」

「じゃあ、トランシーバー機能をオンにして、音声が聞こえる状態で偵察隊の三人に乗り込んでもらいましょう。まずい事態が生じたら、私から指示を出します」

「しかたないな」


 偵察隊の隊長がスマホを胸に収めた。二人を伴って町に入っていく。俺はパソコンの真っ暗な画面を睨みつけ、インシュンは槍を握り、弓使いは矢をいつでも番えられるように手に持ち、待ち続けた。


 スマホから送られてくる音声は平和だった。やがて、今の町の幹部らしい男の話が聞こえてきた。

「……やつらは一昨日の午後には町を去ったよ……食料を分け合うために話し合いがあって……皆、戸惑っている……」


 カネが画面に現れた。マイク付きのヘッドフォンをつけたテレビ番組のディレクターのようないでたちである。

「スマホの音声をモニターしていました。話者と背後で呼吸している人数が一致しています。強制されて話していることはないでしょう」

「じゃあ、安全か?」

「彼らがいきなり心変わりするような事態が起きなければ大丈夫でしょう」

「じゃあ、俺たちも町に入るか?」

「いえ、先にアコに連絡を入れて、革命軍全員で入るべきです。できれば、我々が彼らを疑って様子見していたとは知られない方がいいですし、彼らを納得させることもできますから」

 俺は弓使いに指示を出した。

 火矢が曇った夜空に高々と上がった。


 時間がゆっくり流れていく。日暮れが近くなったころだった。遠くから歌声のようなものが聞こえてきた。やがて丘の向こうに革命軍の本隊が姿を現した。


 先頭には馬に跨ったアコがいる。その隣でチョーハも馬に乗っている。


 インシュンが二人の少し後ろに歩み寄った、ゲーンタがいる。ゲーンタは深くフードをかぶり、顔が見えないようにした二人のオークの子どもを庇うように一緒にいる。インシュンが近寄るとゲーンタが大きくうなずいた。


 アコが革命軍兵士に命令した。

「よし、みんな、ここに来るまでに教えた歌を歌いながら町に入るぞ!」

 兵士たちが「おーっ!」と答える。

アコが掛け声をかけた。

「せーのっ!」

「僕らはみんな生きている、生きているから歌うんだ~♪」


 革命軍は町の門に向かう。

 歌声を聞いて町の人たちが集まって来た。皆あっけに取られている。


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