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ACT.28 決戦

 革命軍の兵士たちが、続けざまに石を落とす中を、オーク兵たちがけなげに登ってくる。ときどき、石に混ぜて灰壺を落とすと斜面にぼわっと白煙が立つ。オーク兵たちは顔を伏せ、目を閉じて防ごうとする。そこへ石を落としかける。視界を奪われているので、避けきれずに次々に当たる。


 チョーハが指示して、丸太が運ばれてきた。

 アコの合図で石と灰壺攻撃を一時停止する。

 オーク兵たちが顔を起こし様子をうかがってからゆっくり体を起こし始めた。


 アコの合図で最初の丸太が落とされた。

 丸太は幅があるので、そう簡単には避けられない。

 先頭を切って登って来ていた一団が、丸太とともに斜面を転げ落ちていく。次の集団も何人か巻き込まれたようだ。

 

 オークたちは登るのをいったんやめて、伏せて様子をうかがっている。下のほうで指揮を執っていたエルフが次第に前線に近づいてきた。尻込みしているオーク兵たちを叱り飛ばしているようだ。


 オーク兵たちが、また少しずつ前進を始めた。


 次第に崖の上に蓄えていた石や丸太が減ってきた。時刻は正午をかなりすぎて、日が西に傾きかけている。


 アコが指示を出した。

「よーし、もう残りを全部落としてしまえ。その後はさっさと要塞に戻るぞ」


 兵士たちは、石、灰壺、丸太を次々に落としてから要塞に駆け戻る。アコも、チョーハも俺も一緒に駆け戻った。


 オーク兵たちがすぐに登ってくるかと思ったが、なかなか登ってこない。

 アコは双眼鏡で痩せ尾根をじっと見ながら俺に言った。

「なんで日の丸を立てたんだ!?」

「えーっ、カネが何でもいいと言ったから……」

「もうっ、革命軍なら赤旗だろう」


 カネが口を挟んできた。

「たぶん、タケは旗といったら日の丸しか知らないんです。そう責めないで」

「しかたないな。それにしても奴ら、なかなか上がってこないな。こっちは暗くなると困るんだが……」

「まあ、あれだけ意地悪したんで警戒していると思いますよ。まずは、何人かオーク兵が上がって来て、あたりの様子を確認しますよ」


 十数分してオーク兵が二名、ついに痩せ尾根に姿を見せた。剣を構えて姿勢を低くしてあたりを窺っている。


「タケ、投石機の発射準備はできてますね」

「ああ、大丈夫。信頼できるものが合図を待っている」

「ではカメラを尾根に向けておいてください。今回は一発勝負です。私がタイミングを計りますから」

「了解」


 ほどなく十名ほどのオーク兵が上がって来て、我々のほうを指さしながら声高に話をしている。

 そして、ついにエルフの指揮官が尾根に姿を現した。

 オークたちが何か言っているのを聞き流して、我々のこもる要塞に向かって歩いてくる。そして彼は俺が立てた日の丸の旗に気が付いた。少し足早に旗に寄って来て、旗を引き抜こうと手をかけた。


 カネがポツリという。

「今です」

 俺は手を振り上げ振り下ろした。


 投石機の傍らで合図を待っていた兵士が、ストッパーの縄をナイフで切った。アームが跳ね上がり、石が空中に放り出される。ガコンという鈍い音がしたが、あたりに響き渡るような音ではない。


 地面から日の丸の旗を引き抜いたエルフが気配に気づいて顔を上げた。時速100キロメートルを越す速度で六個の石が彼を襲った。


 カメラ越しに戦況を見ていたカネが言う。

「当たりましたね」

 アコが双眼鏡を見ながら答える。

「少なくとも一発は頭に当たったな。今倒れたエルフの周りにオークが集まっている」

 チョーハがおろおろして言った。

「オークの連中が、弔い合戦に突っ込んでくるじゃないのか?」


 画面の中のカネがテーブルの上のコーヒーを飲みながら答える。

「大丈夫です。まずエルフは死んではないでしょう。重傷は負ってるでしょうけど。オークたちは彼を放置したままにはできませんよ。思い出してください。最初にかれらとやり合ったとき、我々はエルフを負傷させた。するとオークたちは戦闘行為よりエルフの救助を優先したでしょ」

「そうか……」

「それに彼らは食べ物が尽きてます。しかも半分以上は手傷を負わされて戦意は低下しています」

「なるほど……そこに追い込むためにいろいろ仕掛けたのか」

「まあ、そうですね。そして何より決定的なことはブルーピルです。オーク兵はブルーピルの支給を受けないと三日で死にます。指揮官が意識不明で指揮ができなくなったら、ブルーピルの支給は難しいですよ」


 アコが双眼鏡を見ながら言った。

「オークたちが撤退を始めたぞ」

 カネがそっけなく言う。

「オークたちは、早く帰ってブルーピルを飲んで、飯を食べたいばかりでしょう。彼らはここに来た道をできるだけ早く引き返そうとしますよ。徹夜をしてでも」

 アコが言う。

「では、ぼちぼち準備をするか」

 俺はびっくりした。

「まだ何かすることがあるのか?」

 カネが画面の中で、紙ナプキンで口の周りを拭いながら答える。

「タケ、忘れたのですか。泥だらけになってやった仕事を」

「えっ……あの堰づくり?」

「そうです。優秀なタケに無駄働きなんかは頼みませんよ」

 アコが腕組をして言った。

「だんだんカネのやり方がわかって来たよ。今度は俺たちが攻める番だ。追撃戦だ」


「どうやって……?この前は、石を落としたが今度は……」

「水攻めですね」

 カネはナプキンを丁寧に折りたたんでいる。

「昨日の雨で、堰には水がたっぷりたまっているでしょうね。じつはあの堰の下流に、天然の堰止湖があるんです。その堰き止め部をチョーハさんに頼んで少し崩しておきました。その堰止湖のすぐ下流で谷が狭くなっているところがオークたちの渡渉場所です」

 カネが説明を停止し、口角を上げた。俺はそのさきが理解できた。

「俺が作った堰を壊すと材木と大量の泥水が天然堰止湖に流れ込む。天然堰止湖は水位の急増と流されてくる材木で、削られていた堰き止め場所が、耐えられず決壊する。そして、その濁流が下流に一気に流れ込む……」


 アコが革命軍兵士に指示を始めた。

「いいか。離れて追跡しろ。川を渡るタイミングさえ確認できればいいんだから。奴らが準備を整えて、いよいよ川を渡りだしたタイミングで火矢を打ち上げろ。いいな」


 次にアコは俺に向き直った。

「じゃあタケは自作の堰に行ってもらおう。五人ほど手伝いがいればいいかな。合図はここで火矢を打ちあげる」


 前回の追撃戦では岩を落としてオークたちを圧殺した。今回は溺れ殺すのかと思うと、俺は嫌な気分になった。カネが声をかけてきた。

「タケ、浮かない顔をしてますね」

 カネは画面の中で椅子にゆったり腰を下ろしている。

「水に流されたくらいで、オークたちが大量死することはないですよ」


 俺は画面の中のカネを見つめた。カネはあいまいな微笑みを浮かべている。

「この追撃戦の目的はエルフたちの指揮する軍の組織そのものを痛めつけることです。勇敢に戦って戦死した者は軍にとって励ましになっても重荷にはなりませんが、肉体的、精神的に戦うことができなくなった兵士は軍の重荷になります」

 画面の中でカネは指を立てて見せた。

「そのような兵士たちは、組織としての軍の壊死した細胞のようなもので、ひどくなると組織は機能不全に陥りますから」


 どうやらカネは殺さないことの良し悪しはどうでもよくて、相手に最大のダメージを与えるために今回の作戦を立てたようだ。


 俺は日が落ちだした山道を堰に向かった。


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