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灰色の世界  作者: ken
第七章
99/140

第九十八話 =適任者=

第九十八話です。よろしくお願いいたします。


 取締委員会本部。その最上階に位置する一室で、難しい顔をして思考を巡らせているのは、会長として委員会メンバーを統率し日本国内の治安維持の全責任を負う魔術師、藤原雄清である。

 整頓されたデスクには、一枚の報告書が置かれていた。

 一つは十神幸成をはじめとする『神の遣い』の動向や目的に関する資料。

 一つは過去に『星の下僕』が関与したと思われる事件のリストアップ資料。

 そして、もう一つは―――――綾瀬川瞳の『暴走』に関する一報告と、万が一暴走を放置した場合に考えられる被害予想が書かれた資料だ。 

 細かい資料や報告書は全て確認し、今後の対応についての指示も出し終えているものの、どうしてもこの三枚だけは、内容を理解しても明確な答えは出せずにいた。

 だが、時間をかけている場合でもない。昨日辰正が言っていた事が本当ならば、星の下僕は科学都市にまでその力を伸ばそうとしている。もし科学都市が彼らを受け入れたとしたら、それはもう魔術側の人間である自分たちの力が及ばない場所だ。そして辰正が言ったように、本当に『神の遣い』と『星の下僕』が何らかの協定関係を結んでいるのだとすれば、厄介な事この上ない。

 出来る事なら、早いうちに解決したいものだが……。


 ゴン! ゴン!


 そんな時、会長室の扉が無遠慮に叩かれた。こんな無作法なノックをする人物は一人しかおらず、そしてその人物こそ雄清が招集をかけた魔術師である。

 

「……どうぞ」


 一言そう言うと、これまた無遠慮に扉は開かれる。

 そこにいたのは、やはり予想通りの二人・・


「やっほー! 来たよかいちょー♪」


「いつも言っているが、もう少し静かに入って来れないのか、紀藤」


 呆れながら言えば、紀藤紗友里は「にっしっし!」と笑った。


委員会ここの人たちクール系なのが多いし、アタシみたいなのが一人いた方がいいっしょ♪ ほら、元気印的な?」


「トラブルメーカーの間違いじゃないのか」


「ひっどー! 取締委員会のかいちょー様ともあろう人が、大事な大事な役員にそんな事言って言いわけー!?」


「お前も上司と話す態度じゃないだろう」


 紗友里はまだブツブツ言っているが、無視する事にした。

 このままでは本題に入れない。


「とにかく、先の一件ではご苦労だった……ノーランド、お前もな」


 雄清が視線をわずかにずらせば、紗友里と共に訪室して来た少女、シエル=ノーランドはわずかに首を動かし応じる。顔は少し伏せられており、長い黒髪が邪魔をして表情は見えない。

 いつもの彼女とは程遠い態度にちらりと紗友里を見れば、わざとらしく両手を広げて見せた。「さっきからこの調子だ」とでも言うように。

  思えば、シエルが取締委員会に入ってから完敗を喫したのは、これで二度目だったか。

 一度目の相手は、水瀬優次郎だった。

 今より未熟だったシエルは優次郎に挑み、完膚なきまでに叩きのめされた。それ以降、シエルは叶に弟子入りを志願し、着々と力をつけていった事は、当然雄清も知っている。

 だからこそ、この敗戦は相当堪えたのだろう。力を付けたと思えば完敗し、そしてその相手は優次郎によって不戦敗を喫したと知れば、無理もない事だが。

 何か言葉をかけてやりたい所だが、今は用件を優先する事とした。


「……これを見ろ」


 先ほどまで自分が目を通していた資料を、二人へ手渡す。紗友里が受け取り「ふむふむ」と呟きながら読み始めれば、シエルも横目で覗き見を始めた。


「ふぅーん……見る限りだと、アタシらには『神の遣い』と『星の下僕』の相手をしてって事でいいの?」


「そこまでは言っていない。探りを入れろ、と言ったところか。最も、向こうが打って出る様であれば応戦してもらいたいがな」


「なーる」

 

 そして紗友里は、三枚目の資料に目を通し始めると……ぎょっとした様に目を開いた。

 シエルも、かすかに顔を資料へ近づけたのを見た所、驚きを隠せずにいる様だった。


「うっわ、これマジ!? 綾瀬川叶カナカナの妹ちゃん大変な事になっちゃってんじゃん!」

 

「流石は血を分けた姉妹と言ったところか、綾瀬川妹の体内に宿る魔力量も平均値と比較すれば膨大だ。万が一、ストッパーのいない状況で暴走してしまった場合……被害予想は、見ての通りだな」


「首都圏は全滅だねー。こりゃ大事になりそーだなー。暴走のきっかけは……友達?」


「あぁ。綾瀬川の話では、天ヶ崎玲奈は生前、妹の親友だったそうだ。その親友を十神に罵倒され、感情が昂ってしまった事が発端らしい」


「わーお新事実ー。それと……大橋・・芽衣・・?」


 その名字に、思わず紗友里も眉をひそめる。

 当然・・()反応・・だな(・・)、と雄清は気にせずそれに答えた。


「この大橋って、あの大橋で合ってる系?」


「その認識で間違いない。その大橋芽衣という少女が、今のアイツの親友でな。十神は妹の前で、大橋芽衣の殺害を示唆した様だ」


「それが重なって、暴走に繋がったって事ねー」


「そういう事だ」


 どうやら自分が想像した以上に大事になってきている様だと感じれば、紗友里は困った様な表情を浮かべ、うなじをポリポリと掻きだした。

 シエルも相変わらず表情は見えないが、瞳に関する資料から目を離そうとしない。


「それに、十神は妹の『暴走』を意図的に引き起こそうとしていた様だ。理由は定かではないがな」


「また妹ちゃんに接触しようとする可能性もバリ高ってわけかー」


「それだけじゃない。そこに書かれている通り、十神をはじめとする『神の遣い』と『星の下僕』が結託している可能性も否定できない」


「……なーる」


 そこで、紗友里も理解する。


「よーするに、かいちょーは妹ちゃんを利用して『神の遣い』と『星の下僕』を一気にたたいちゃいたいって事ね」


「『利用』とは言いようだ。綾瀬川妹の安全を早急に確保する為、と言ってもらいたいものだな」


「はいはい、そーいう事にしといてあげるよ」

 

 本当に、この人は曲者だ。そんな事を感じながら、紗友里は一度資料を下ろし、まっすぐに雄清を見つめた。

 それを受けて、雄清も結論に入る。


「とにかく、今回お前達にやってもらいたいのは綾瀬川妹の保護と、二つの団体の目的、戦力を探る事だ。問題ないか」


「ま! カナカナの妹ちゃんはアタシも心配だからねー! この紗友里ちゃんにまっかせなさい♪」


 ドン、と胸を叩く紗友里に、雄清は頷いた。言動こそあれだが、紗友里も数々の死地を潜り抜けてきた上位魔術師であり、実力は確かだ。彼女ならば、問題なく遂行できるだろうと信用している。

 そして、もう一人の魔術師にも目をむける。


「ノーランド、お前はどうだ」


 数秒の沈黙。

 その後、雄清はようやくシエルが持つ金の瞳を見る事が出来た。そこに宿るのは確かな決意と、そして――――――。


「任務。確認」


 何処にぶつければいいかも分からないであろう、『怒り』と『悔恨』だった。


「……そうか」


 一言そう返し、雄清は少し前のめりになり、両肘をデスクへ預けた。


「相手の情報が少ない以上、無理はするな。先に言った通り、あくまで目的は『探りを入れる事』であり『壊滅・捕縛』では無い。やむを得ない場合の交戦は認めるが、引き際を間違えるなよ。現場で起きた事態について緊急時はお前達の判断に委ねるが、それ以外は俺に報告しろ」


「何たって神様が相手みたいだしねー! ま、油断禁物って事ね♪」


「それともう一つ。その三つの資料のうち、綾瀬川は妹に関する情報しか持っていない。妹の件もある中で、あまり負担をかけたくないからな。

 だが、そこに名前のある一部講師には情報を伝えてある。そいつらとも連携して事にあたってもらえば良い。綾瀬川に伝えるべきかどうかの判断は、状況をみてお前達で話し合い決めてくれ」


「りょーかい♪」


「他に、お前達から何かあるか」


「んー……アタシは今のところは大丈夫かな♪ シエルは何かあるー?」


「全部。理解。疑念。無」


「ならば、話は以上だ。早速だが、頼んだぞ」


「あいあいさー! んじゃ、失礼しまーす! 報告楽しみにしててね♪」


 大げさに敬礼して見せ、紗友里は背を向け、扉へと歩を進めた。

 シエルもその数メートル後ろを付いていき、退室しようとするが――――――。


「ノーランド」


 雄清が、それを呼び止めた。

 シエルも歩を止め、少しだけ雄清へ首を動かす。

 しばし、無言でその姿を見つめた後。


「……体調はどうだ」


 一言、そう問うた。

 しばし動かず、その言葉を吟味するシエル。そして、一言。


「……問題。皆無」


 そう、答えた。


「ならば良い。頼んだぞ」


「了解」


 今度こそ、シエルも会長室から姿を消した。

 静まり返った室内で、雄清は背もたれに身体を預け、天井へ目を向ける。

 シエルの表情。雰囲気。

 落ち込んでいる様子は、もう無い。それには安心しているが、やはり不安要素もぬぐえないでいた。

 彼女は優秀な魔術師だ。その評価は変わっていない。

 だが、やはり若い。感情に囚われ、周りが見えなくなってしまった事が今回の敗因で間違いない。

 猪突猛進も大いに結構だが、自分たちは命を賭ける仕事だ。優秀な若者を失いたくはない。

 

 だからこそ。

 雄清はシエルを、今回の任務にあたらせたのだ。


「…………よろしく頼むぞ」


 それは、誰に向けて放った言葉か。答えを知るのは、藤原雄清ただ一人だった。

 願わくば、これが事件の早期解決へつながる一歩であるように祈りながら、雄清は一つ、小さな息を落とした。

今回もありがとうございました!

第七章開幕です。前章は少し短めでしたが、今回は逆に少し長くなりそうです。書きたい事いっぱいあるので。飽きさせない様に進められるよう努力してまいりますので、よろしくお願いします!


そんな感じで、九十八話です。

雄清腹黒すぎぃ! 紗友里KYすぎぃ! シエルどうした!?

と、色々な想いが交錯していますね。取締委員会と学院講師陣も協力関係になり、いよいよ優次郎と雄清がかわした『契約』の中身も分かって来る……かも?


では今回はこの辺で

また次回もよろしくお願いします!



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