表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色の世界  作者: ken
第五章
80/140

第七十九話 =どちらを選ぶ=

第七十九話です。よろしくお願いいたします。


「本当に久しぶりね……何年ぶりになるかしら?」


「さぁ。数えてないし分からないな。興味も無いし」


 つれないわね、なんて言って真衣はその憎たらしい笑顔を更に深めたものだから、思わず顔を顰めてしまう。

 こっちは二度と会いたくなかったって言うのに、人の気も知らないでいい気なもんだ。

 

「せっかくの再会なんだし、少しお話でもしましょう?」


「……そりゃ良いね。俺も、真衣に聞きたい事があるから」


「なら、好都合ね」


 未だ笑顔を浮かべたまま。真衣は流れる様に言葉を紡ぎだした。


「此処に来るまでに、いろんな国へ立ち寄って来たの」


「戦争の火種を探すためか?」


「ご想像にお任せする、とだけ言っておくわね? その国々で、玲央君の名前も至る所で聞いたわ。流石、というべきかしらね。評判良いみたいじゃない」


 背後から聞こえてくる喧騒には目もくれず、一歩こちらへ歩み寄って来る。本当に、相変わらずだな。


「皆、アナタに感謝していたわ。傷だけでなく、精神こころも癒してもらったって。あの人が来てくれて、本当に良かったってね」


「嬉しいもんだね。俺としちゃ、当然の事をしただけなんだけど」


「玲央君が、治癒魔術師だから?」


「…………そう、治癒魔術師だからだよ。はね(・・)


 たった一瞬だけだったけれど、真衣の表情が歪んだのを見逃さなかった。

 それが、一層俺の中の醜い感情を肥大化させていく。


「もし……」


 そして、真衣は再び口を開いた。



「もし、あのまま私が治癒魔術師を目指していたら……今頃どうなっていたかしらね」



 言われて、思い出されるのは昔の光景。

 まだ真衣が小学生。俺は魔術学院に入ったばかりの頃だ。あの頃の真衣は、当時・・()家族・・と、よく一緒に遊んでいた活発な女の子だったし、良い姉だった。運動神経は悪かったけど・

 よく妹を庇っては怪我ばかりして、その度に簡単な応急処置をしてあげていた。そして、その後必ず言われた言葉がある。

 

『私、将来治癒魔術師になる! それで、玲央君と一緒にいろんな人を治してあげるの!』


 まぁ、それも今となっちゃ遠い昔の話だけど。

 それに、彼女の言葉への答えは、もう決まっている。



「……さぁね」



 それは、決して叶わない夢物語になってしまったのだから。


「フフ、アナタらしい返答ね」


 そう言って、真衣は悲しく笑った。あぁ、まただ。またそうやって笑う。 

 勘弁して欲しいもんだ―――――――。


「自分からその未来を壊した人間が、そんな顔で笑うの止めてくれない?」


 本当に、反吐が出そうだからさ。

 

「…………そうね」


 たった一言そう言って、真衣は再び鬱陶しい笑顔に戻った。

 だけど、俺は止まれないし、止まるつもりも無い。

 

「聞いた話だと、『治癒魔術師か』って言う問いかけを否定しなかったんだってね。本当に、虫唾が走るよ。真衣がやっている事は、治癒とは真逆だって自分でも分かってる筈だ。

 しかも呪術なんて最悪な代物を使って、挙句の果ては戦争をけしかけて自分は見物人と来たもんだ。そんな人間が治癒魔術師? 冗談にしても質が悪すぎる。

 二度とそんな戯言は言わないで欲しいね。少なくとも俺の前では」


「手厳しいのね」


 どの口が言ってんだか。慰めてもらえるとでも思ってたのかね、この女は。


「これでも優しく言ってるつもりだ。お前はどれだけ俺を苛立たせれば気が済むの? 

 俺を裏切って、家族を裏切って…………最愛・・()だった(・・・)人間・・すらも裏切ったって言うのに、まだ足りないわけ?」


「最愛の妹、ね」


 そこで、一度会話が止まる。

 次に思い出されたのは、真衣が居なくなって唯一泣いた女の子。


 真衣が大切に想っていた元妹、大橋芽衣の泣きじゃくる姿。


『ねぇ、玲央君。お姉ちゃんどこ行ったの?』


『私がいけない(・・・・)になっちゃったから、お姉ちゃんいなくなっちゃったの?』


 来る日も来る日も、そう言って俺に泣きついてきた。家族の前で真衣の事を話せば、烈火の如く怒られたんだろうな、多分だけど。

 芽衣も、姉が大好きだったから。姉の真似をして、俺の事を『玲央君』と呼ぶくらいには。

 でもいつからか、芽衣は俺を『玲央ちゃん』と呼ぶようになった。理由を聞いても『なんとなくだよ』としか言わなかったけど、きっと芽衣も気付いたんだろう。


 姉はもう――――――自分の元へは戻ってこないと。

 大橋真衣は、自分の姉と言う立場を捨てたんだと。


 詳細までは知らなかっただろうけど、年を重ねて物心がついて行けば、気付く事は容易だったはずだ。


 あの子だって、いつまでも子供じゃない。いつまでも―――――目を背けてはいられないんだから。


 だから、だからこそ。


「俺は、お前を許さない。大橋家あのいえの仕来りの事は知ってるよ、理解はしがたいけど」


「そうでしょうね。その中にどっぷり浸かっていた私ですら、理解できなかったくらいだもの」


「だからこそ、お前もあの家を出たんだろ? 人間として生きるために」


「…………」


 無言、か。もう思い出したくもないって事なのかね。

 

「あの異常な家で、芽衣は唯一心を許せる存在だった。お前を一人の人間として慕い、人間として認識していたのは芽衣以外いなかった。違うか?」


「…………そうだったかもしれないわね」


「だが、その芽衣すらもお前は捨てた。そこに家の仕来りは関係なかった。お前が連れ出そうと思えば、お前の力なら連れ出す事だって出来た。だが、しなかった。それはお前の意思だった」


「……そうね」

 

「…………一つだけ聞かせろ。何で、芽衣をあの家に残した? アイツは、お前と一緒にいることを強く望んでいたのに……何でだ? 答えろ、真衣」


 沈黙。

 そして、



「……覚えてないわ、そんな昔の事」



 再度生まれる嫌悪感。

 本当に変わらない。変わらないからこそ。



「やっぱり俺、お前が嫌いだよ」



 ―――――真衣は、表情を変えなかった。

 そんな時だ。

 

 ドォォォォォォン‼‼


 けたたましい音が、真衣の後ろから聞こえて来る。何が起こっているのかなんて、おぞましい程の煙の量を見れば明らかだ。

 真衣も、そちらにゆっくりと目を向け、ただじっと見つめていた。

 

「言っておくけど、あまりこの国をなめない方が良いよ」


 思わず声を掛ければ、真衣が再びこちらを向いた。

 もう、表情は戻っている。こういう所は、素直に流石だと言いたい。


「戦況を見る限りだと、こちら側がだいぶ圧していると思うけど」


「確かに、今はそうだろうね。でも、追い詰められたネズミ程怖いものは無いさ。この国の兵士は諦め悪い上に、優秀な指揮官もいる。押し返すさ、きっとね」


 まぁでも――――――



「真衣には関係ないだろうけどさ。戦場も手ごろの相手も用意する。戦力も提供する。でも、責任は取らない……それが、『()下僕えら』の信条なんだろ?」



 真衣が、ゆっくりと――――――嗤った。



「えぇ、そうね」


 こういう事は即答できる、か。

 ホントー―――――屑みたいな教団だ事。


「それで?」


 話を変える様に、真衣がそんなことを口にした。


「玲央君も、私に聞きたい事があったんでしょう? 一応、久々にお話が出来たから、今気分が良いの。だから特別に何でも答えてあげる。さぁ、どうぞ」


 …………なら、遠慮なく聞かせてもらおうかな。

 俺が聞きたい事は――――――たった一つしかないんだから。



「何で……美沙子さんを狙った?」



 答えによっては、この場で真衣を――――――――殺さなきゃいけないな。


















 心臓の鼓動が早い。

 これでもかと息が荒くなっていく。

 あんなに近くで聞こえてきていた喧騒も轟音も、だんだんと小さくなっていった。

 いつも戦場を駆け回っていたから、こんなの慣れてると思っていたのに……何でだろう、いつもと違って感じた。

 でも、不思議だ。疲れた、なんて思わない。疲労が生まれては霧散していく。

 かき消している想いは、たった一つ。自分でも、それは理解出来ていた。


「玲央……玲央……ッ!」


 玲央に会いたい。生きて欲しい。この感情の答えを教えて欲しい。

 疲労をかき消すのなんて、それだけで十分だ。


「玲央……お願い……間に合って……‼」


 足が千切れようと、心臓が止めろと訴えようと。それでも、私は玲央のいる場所に向かう足を止めるつもりは無かった。

 戦場が遠ざかる感覚に比例して、だんだんと丘の頂上が見えて来る。そして、確かに見た。

 

 丘の上に立つ、二つの人影。


 間違いない。玲央とあの女の人―――――大橋真衣だ。

 

「早く……もっと早く動いてよ……」


 二つの足を叱責し、更にスピードを上げる。

 でも―――――どうやら、そんな簡単にはいかないらしい。


「―――――……ッ‼‼」


 突然、悪寒を感じて飛びのいた。

 悪い予感程よく当たるなんて、誰が言い出したんだろう。知らないけど、もしその人に会えたなら、全くその通りだと言ってやりたい。

 さっきまで私が立っていた場所で、大きく口を開けた地面を見た瞬間、そんなやり場のない感情が湧き出てきた。

 超自然的な現象じゃないのは明らかだ。


「魔術……ッ‼」


 誰が? どこから? 何で、私を狙って?

 考える余裕なんて、与えてはくれないみたいだけど。



 再び襲う悪寒。その場を飛びのけば、地面はまたしても私を喰らおうと口を開けた。



「うぐっ‼」


 そう何度もうまくいかず、判断が一瞬遅れてしまった。

 右足に激痛が走る。どうやら、少し足を飲まれてしまった様だ。


「その足じゃ、もう満足には動けねぇだろ?」


 あざ笑うような声が、痛みに支配されかけた脳に届いた。

 何とか顔を上げると、そこにいたのは――――――――顔も姿も赤いコートで隠した人間・・だった。

 

「あなた……誰?」


「名乗る意味ある? どうせ、アンタこのまま死ぬのにさ」


「なら、どうして私を狙うの?」


「以下同文だ」


 絵に描いたような悪役の台詞だな。どこの小説から取って来たんだか……。そんな軽口でも返してやりたいが、出来ないのが少しもどかしい。

 声からして、どうやら男性の様だ。今分かる相手の情報なんて、それ位しかない。


「手土産くらい渡した方が、女性は嬉しいと思うけど」


 何とか言葉を返す。この程度の事が言える程度には、自分の頭は冴えている様だと安心した。


「はっ! 言うじゃねぇか。でも、まぁ良いさ。そう言うなら、俺も鬼じゃねぇからな。教えてやるよ。

 別に俺はお前の事なんざ知らないし、会ったことも無い。当然個人的な恨みも無いが、同僚・・に頼まれたもんでな。アイツの方には借りがある。だからお前には消えてもらう。それだけだ」


「主体性の無い男性はモテないよ?」


「女の嫌な部分ってのを、飽きる程見てきたんでな。モテようとも思わんね」


 普段なら、一体この人はどんな人生を送って来たんだろうか。何をされれば、こんな考えに至るんだろうかと考えてしまうが、生憎今の私にそんな余裕はない。

 

「もういいか? 俺も暇じゃないんでな。他に聞く事が無いなら――――――――さっさと死ね」


 表情が見えなくても、声で分かるもんなんだな。

 そう感じると同時に、私は戦場をかける兵士達への尊敬の念を強くした。


 

 明確な殺意に晒される事がこんなにも恐ろしいもんなんだって、初めて知った。



 少し前までの私だったら、ひるんで動けないか、逃げるので精いっぱいだっただろう。


「……おあいにく様」


 でも―――――今の私は違う。

 足に、眼に、自然と力が入る。

 しっかりと、自分の足で大地を踏みしめて、私はコートの男性を睨みつけた。


「私は、死ねない。会いたい人がいるから。それに、私だって暇じゃないんだ……そこをどいてくれないかな」


「…………嫌だと言ったら?」


 そんなの、決まってる。



「力づくでどいてもらうだけだよ。例え―――――――アナタを殺してでも」


 嘘偽りない本心を口にすると、コートの男性は小さく笑った。


「治癒魔術師が言うセリフか? だが……良い目だ」


 瞬間。

 男性の魔力が増幅するのを感じた。

 戦いなんて、医師いしの専門外。それに自分だって分かってるけど、私は戦いなんて向いてない。


 でも――――――迷いはない。


「右足、治ってるよな? 流石は治癒魔術師だって、素直に褒めてやるよ。お前を殺すには……一撃でケリ付けるしかない様だな」


「私だって、これでも戦場医師なの。そう簡単に殺せると思わないでね」


 



















(…………魔術の気配?)


 ほんの少し、違和感を感じた。原因が魔術だって事は、簡単に推察できる。出所は―――――麓か。


(気配も音も、魔術で消し去ってるって事か……)


 一瞬だけ、美沙子さんの顔が浮かんだ。でも、そんなは筈ないとすぐに否定する。

 リックさんの事だし、きっと俺の心理には気づいている。美沙子さんに俺の事を話したりなんてしない筈だ。それに―――――美沙子さんは、俺を嫌ってるしね。

 そして真衣も、どうやらこの気配に気づいているらしい。一瞬だけ、目線が麓へ向けて動いたのを俺は見逃さなかった。

 そして、そのまま口を開く。


「あの人を狙った理由、ねぇ」


 再び、その憎たらしい顔が俺へと向けられる。

 そして嗤う。再び。憎たらしく。うざったく。俺の大っ嫌いな笑顔かおだ。



「『邪魔だったから』……ただ、それだけよ」



 その瞬間、俺の中で何かが切れた。

 あぁ、本当にこの女は―――――――――俺を怒らせるのが上手いよ。


「真衣」


「……何かしら?」


 今の俺は、一体どんな顔をしてるんだろう?

 きっと、古なじみの人間たちが見れば、本当にこれが黒岩玲央なのかと疑うような…………酷く醜悪で、憎しみと殺意に塗れた顔をしてるんだろうな。


「俺は今だけ、治癒魔術師としての自分を捨てる」


 体中から、魔術があふれ出るのが分かる。

 もしかしたら、もう戻れなくなってしまうかもしれない。でも、きっと俺は後悔しない。

 むしろ、ここで引けたら。治癒魔術師としての自分に縛られたら、それは倫理的には正しいんだろうけど、俺は後悔や不快感と永遠に共存する羽目になる。


 それ位なら、俺は―――――――――アイツ(・・・)と同じ道を選んでやる。


「俺は、今からお前を――――――殺す」


 一瞬、アイツの背中がちらついた気がした。

今回もありがとうございました!

過去編もクライマックスです。例によって戦闘描写がうまく書けるか不安ですが……全力で頑張ります!


そんな感じの七十九話です。

玲央と真衣はいっそう険悪なムードになり、美沙子さんの方も謎の男性に襲われてます。

こっからどうなるんだろう……どうなる……どう……どうしよう……()

オチは決まっているので、そこへ向けて頑張って書いてみますので、どうぞよろしくお願いいたします!


では今回はこの辺で。

また次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ